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【プロが教える】ダイビングのスキル基礎講座(中級者編)

1.はじめに

水中で浮きもせず沈みもしない、
そんな、静止状態にあこがれるダイバーは多いのではないでしょうか。
しかしほとんどのダイバーは
・思わぬ深場に落ちていた
・急に体が浮いてしまった
というような経験をしています。

それはなぜかというと、
『中性浮力』
を苦手としているからなのです。
そういった意味ではダイバーとしてのスキルのゴールは、
水中での静止状態である
『中性浮力』
だと思うのです。

今回はそんな、
ダイバーの憧れであるのに、
ダイビングのスキルの中でも苦手の方が多い
『中性浮力』
についてを習得のコツを紹介していきたいと思います。

2.中性浮力が取れないとどうなるか

では、
『中性浮力』
がうまく取れないと、
いったいどのような悪影響があるのでしょうか。

一つは、ドロップオフでのダイビングです。
この様なポイントでダイビングをすると、
水深20~40mくらいのいわゆる中層を泳ぐことになります。
そんなところで『中性浮力』が上手く取れていないと、
どんどん沈んでいってしまうのです。
深いところに引っ張りこまれるようで恐く感じますね。

また、もう一ですが、
ご自身の意に反して浮上してしまったという経験が
皆さんにあると思います。
これも、
『中性浮力』
がとれない事によって起きてしまったのです。

おそらくですが、
この時は浮上のスピードが速くてとめられなかったのではないでしょうか。
急浮上は減圧症にかかってしまうリスクがあり、
こちらも良く考えると怖くなります。

この様に
『中性浮力』
が取れないとご本人がかなり大変な思いをするのです。
しかし、実はご自身が受ける問題以外にも影響があるのです。
ではどんな影響があるのかご紹介していきたいと思います。

2.1 エアーの消費でエキジットが早くなる

初心者のダイバーの方は、よくエアー切れになりがちです。
その原因は、
・緊張
・ストレス
それと『中性浮力』が取れないことが挙げられるのです。
『中性浮力』が取れないと、
沈まないように足をずっとバタバタさせることになります。
これで疲れて息が上がってしまいその結果、
にエアーをたくさん消費してしまっているのです。

ダイビングはグループで行う事が多く、
エアーの消費が早い方に合わせての行動になります。
場合によっては、
他の方たちはエアーが余っているのにエキジットする事になるのです。

この様に『中性浮力』がとれないことで
ご自身が疲れてしまうのはとてももったいないのです。
さらには、他のダイバーの方々の楽しむ時間が短くなって
しまうのも、残念なことです。
もっとダイビングを楽しんでいただくためにも、
ぜひ『中性浮力』をマスターして頂きたいと思います。

2.2 砂を巻き上げて視界が悪くなる

初心者ダイバーの方は、
砂地でのダイビング時にモクモクと砂を巻き上げでしまっています。
これは足を下に向けてバタバタさせているからで、
『中性浮力』が取れずに砂地を這うように進んでいるからなのです。

ご本人はまったく悪気はないのですが、
後ろから来ている方々は何も見えない状態になってしまっています。
そしてご自身の後ろの出来事なので、気が付いていない事がほとんどです。
さらに問題なのは、砂地に生息している
『生物を吹き飛ばしている』
かもしれないというところなのです。

『中性浮力』が取れさえすれば、
・周り方々に迷惑をかける
・生物に悪影響をおよぼす
ことは防ぐことができるのです。
この観点からも、『中性浮力』のマスターすることは重要なのです。

2.3 大切にしたいサンゴへの配慮

サンゴは、植物のように思われがちですが、
実は産卵をして増えて行く動物の一種で、
年間に数cm程度ですが成長しています。
また、サンゴは海の生物の産卵場所や稚魚を育てる場所にもなっています。サンゴが絶滅すると、
海洋生物の過半数がいなくなってしまうという予想もあるのです。

そんなサンゴですがとても脆くて、
ダイバーが触ったりフィンの先をぶつけてしまうと、
ほんの少しの衝撃で簡単に折れてしまうのです。
この行為は決して大げさではなく、
海の生物の住処を奪っている事になり、
その後の自然界への影響は計り知れないと言えるのです。

『中性浮力』がとれていないために、
サンゴの真上に落っこちて折ってしまう。
責任の重さのようなものを感じるのではないでしょうか。
このような観点からも、
『中性浮力』のマスターはダイバーにとって必要なことと言えるのです。

3.中性浮力をマスターする方法

『中性浮力』の重要性ご理解頂いたところで、
『中性浮力』を苦手としているダイバーや、
初心者のダイバーは何をしなければいけないのでしょうか。

『中性浮力』をマスターするためにはまず、
・ご自身の適正ウェイトを把握
する必要があります。
その後に、
・呼吸による浮力のコントロール
・BCDへのエアの出し入れでのコントロール
ができる様になる必要があるのです。

次に、ここからは
『中性浮力』
をマスターする為の方法について、詳しく説明していきたいと思います。

3.1 陸上でもできる練習があります

ダイビングではBCDで浮力を調整することになります。
多くのBCDが背中にシリンダー(タンク)を取り付けて、
好みの量の空気をボタンの操作で入れたり抜いたりしながら、
浮力をコントロールします。

そんなBCDですが、
いつでも空気の出し入れができるように、
すぐに給気ボタンや排気ボタンを持てるようになることが大切です。
その為に、海に入る前に以下の様な練習をおススメします。

陸上でBCDを着用して、
目をつぶりながら手元を見ずにパワーインフレーターの
給気ボタンや排気ボタンをキャッチする練習をしてみて下さい。
いざという時に、身体が覚え込まさせる。
これだけでも、
『中性浮力』
の習得に限らず良い練習になります。

3.2 適正ウェイトの把握

『中性浮力』
を習得するには適正ウェイトを把握が重要なのです。
しかし、ご自身の適正なウェイトをご存じの方は少ないようなのです。

講習の時に潜行しやすくさせたり、
体を安定させるためにどうしてもウエイトを多く付けがちでした。
そのせいでファンダイビングになっても、
ついついその感覚への慣れから、
必要以上に重いウエイトをつけている人が多いのが現実です。
いわゆるオーバーウェイトの状態では、
『中性浮力』の習得は難しいので、
まずご自身の適正ウェイトを把握して下さい。

ウエイト量が適正かどうかを調べる方法は、
スーツや器材をすべて装着し、
BCの空気を全部抜いた状態で水面に浮きます。
これで、沈んでしまうようであればオーバーウェイトといえ、
下の写真の様にちょうど目の高さに水面が来たら、
その時のウェイトが適正といえるのです。

以下にご紹介する練習も大切ですが、
まずは、ご自身の適正ウェイトを把握するようにして下さい。

3.3 水中での練習についt

ここからは、実際の練習方法(フィンピポット)について、
ご紹介していきます。
初期の講習の際に実施された方もいると思いますので、
復習も兼ねて読み進めて頂ければと思います。

(1)呼吸で浮き沈みを確認する
 水底にBCD内のエアーをすべて抜いてうつ伏せの状態になります。
 その状態で、くわえているセカンドステージからエアーを吸い込みます。
 すると、身体が肺に入ったエアーの浮力で起き始めますが、
 すぐに沈んでしまいます。

(2)BCDから吸気しながら浮き沈みを確認する
 続いてBCDに少しずつ空気を入れて調整をします。
 
パワーインフレーターの吸気ボタンを2回押してエアーを入れて下さい。
 そして、くわえているセカンドステージからエアーを吸い込みます。 
 先程と同様に、身体が肺に入ったエアーの浮力で起き始めますが、
 また沈んでしまいます。 

(3)体が浮くまで繰り返す
 上記の操作を繰り返しで、
 普通に呼吸をしても体が沈まない状態になります。
 これが、身体が沈もうとする力を、
 BCDの中のエアーの量でが打ち消しているのです。
 この均等が取れた状態が、『中性浮力』なのです。

4.中性浮力を取るために

次は、フィンピポットでのスキルを踏まえて、
ファンダイビングの中でどのようにしたらよいか紹介したいと思います。

まず、エントリーしたら海底で呼吸を整えて下さい。
そして、リラックスできたら体を横にして体勢を整えながら、
BCDに空気を入れましょう。
ここでエアーは一気に入れるのではなく、
フィンピポットを思いだして何回かに分けて入れる様にしましょう。
体が浮き過ぎたらこちらも練習を思いだして、
排気ボタンを押して排気して下さい。

『中性浮力』は、
息の「吐く」と「吸う」の繰り返しで、
バランスが取れるとできる様になります。
では、バランスを取るにはどうすれば良いのでしょうか。

4.1 呼吸のタイミングが大切

呼吸での浮き沈みには、どうしてもタイムラグがあります。

しかし、初心者の方は身体が浮いてくると
「体が浮いたからすぐBCDの空気を抜かなきゃ
と焦ってしまい、せっかく
『中性浮力』
が取れているのに空気を抜いてしまい、また体が沈んでしまうのです。
そして今度は
「体が沈んだからBCDに空気をいれなきゃ
と慌てて空気を入れすぎて浮き上ってしまうのです。

浮力コントロールのコツは、
・沈み始めたら吸い始める
・浮き始めたら吐き始める
です。

呼吸を始める時のタイミングを大切にして、
けっして焦らない様にする事が大事なのです。

4.2 水深を感じながらの調整が大切

海中を進んでいけば、もちろん水深が変わってきます。
そんな水深を、人の体の中で一番感じるのは耳になります。

深場に行くと耳がキーンと痛くなり、浅場になるとそれがなくなります。
この耳の痛みが水深変化の合図なのです。
この合図で、
『水深が深くなり気体が圧縮されて浮力はなくなる』
と判断ができて、
BCDに空気を入れる事ができる様になれば良いのです。

ただし、このときもフィンピポットと同様にタイムラグがあるので、
・すぐに沈んでしまう
・すぐに浮いてしまう
と焦りは禁物です。
大切なのは、水深が変わる感覚がわかるようになって、
どんな状況下でも、適切にコントロールを行えるようになる事なのです。

なお、耳が痛くなるのは耳抜きが遅れている事になります。
鼓膜も大切ですので、
耳が痛くなる前にBCDを操作できる様になって下さい。

4.3 繰り返しの練習が大切

水中で体を横にした状態で進んでいると、
肺の呼吸だけではコントロールが足りなくなってくるので、
BCDでの操作が必ず必要になります。
『中性浮力』
を上手くなろうと思ったら、
・BCDにエアを入れて浮こうとする
・吸気しすぎると浮いてしまう
・排気をして戻ってみる
・次はエアを入れすぎないようにする
を繰り返して、
『静止する感覚』
を身に付けましょう。

ただし、この時にBCDへの吸気を多くしすぎて浮いていったり、
思いっきり排気をして落下していくのも問題があります。
「さっきは、この位入れたら浮いていったから、次は少し少なめにしよう」と考えながら調節することが大切なのです。

その為にも、
息を吐ききって肺の中の空気を出し切ったときにどのくらい沈むのか、
また、息をめいいっぱい吸ったときにどのくらい浮き上がるのか
を体に覚え込ませましょう。

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。
「浮くのが怖い」
「浮くと格好が悪い」
と水底にいるダイバーもいらっしゃいます。
しかし、もし水底がないダイビングポイントに行ったらどうなるでしょう。
おそらく、これでは永遠に上達はないと思います。

これを考えると、浮いてしまったダイバーは
『中性浮力』
を取ることにチャレンジした結果なので、決して格好悪くはありません。
本当に格好が悪いのは
『何百本も潜っているのに中性浮力が取れないダイバー』
と言えるのではないでしょうか。

講習のときでもファンダイビングのときでも運動神経やセンスに関係なく
『考えて潜る』
ようにすれば、どんな人でも必ず『中性浮力』は取れる様になります。
呼吸とBCDでの浮き沈みの感覚を体に覚え込ませながら、
頭で考えて潜ることが大切なのです。

「水深が浅くなればエアを抜く」
「水深が深くなればエアを足す」

体で覚える部分は器材を使って繰り返し練習し、
吸気や排気の感覚は頭を使って練習する。
これを両立させる事で、あなたもきっと
『中性浮力』
をマスターできます。

すると、そこにはきっと、
今よりも楽しいダイビングライフが待っているはずです。
ぜひ
『中性浮力』
克服して水中世界を楽しんでいって下さい。


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