おそまつおとそ
自作の掌編怪談のまとめ
自作の創作怪談のまとめ
色に関する怪談集
実体験のまとめ
怪談以外の話のまとめ
バキバキガシャン バキバキガシャン 大きな音をたてながら重機が少しずつ家の形を変えていく 思えば、この家で過ごしたのはたった五年間だった 五年… この五年で俺は妻と娘を失った この家の解体はそんな俺に出来る唯一の復讐だ 妻の妊娠を期に家を買うことにした フリーランスのエンジニアなので、住む地域はどこでもいい 妻の希望を採用し、地方都市で家を探すことにした 妻は家自体にこだわりはないらしいので、必然的に家探しは俺の役目になる 子供が出来る
ただでさえ人が居着かぬ朝の駅 そんなところで落語を演じたとて、足を止める者がいるはずもない 寄ってくるのは鳩ばかり 試しに配信もしてみてはいるのだが、視聴者数が0から増える様子はない ただ単に通行人から好奇の眼差しを向けられるのみであった 落語が好きで演じてはいるため苦ではないのだが、なんだか虚しくなってくる より良い落語にするために、配信の録画を確認する しかし途中から音声に異常が生じ、私の声が途切れ途切れになり、何を言っているのか分からなくなってしまった
フルリノベーションされた家を購入して一年ほどたったが、気になることがある どういう訳か、夜になると寝室の窓が一部曇る それも内側じゃなくて外側が 場所もほぼ顔の高さであり、不審者でもいるのかと防犯カメラを取り付けたが何も映らない カメラのお陰で不審者が寄らなくなったのかと聞かれれば、そうではない 相も変わらず窓は曇る このことを不動産屋に相談するとリノベーション前の間取り図を見せてくれた 寝室のある場所は以前、浴室であったようだ 正しいことは分からない だが
偶然通りかかった場所に人だかりを見つけたので近づいてみると、交通事故があったようで救急隊による懸命な救助活動が行われていた 何とはなしにその光景を眺めていると、救急車がサイレンを響かせながら発進していった ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ 救急車が走り去る姿を眺めていると、背後から声をかけられた 妙にテンションの高いその声に不快感を覚えつつ、何事かと振り返る すると、見知らぬ女が興奮気味に同じ言葉を連呼していた ねぇねぇ誰だと思う?あそこに乗ってるの誰だと思う?ね
大学3年の秋、暇すぎてサークルの部室でゴロゴロしていると扉を開けて見知らぬ男性が入ってきた 部室には俺しかいないため、面倒だと思いつつ応対する こんちは~ 見学か入部希望?それとも人探し? 知らない人が部室に来る理由なんて大体こんな所だろう あの、松尾さんは今日来られますか? 松尾 聡真なら俺だけど… あっ、そうなんですね はじめまして松尾さん、僕は草間隼人って言います 自分で言うのもなんだが、俺は見ず知らずの人間が訪ねてくるような特別な人間ではない
認知症になった祖母を施設に入れることになった その準備や片付けを手伝うため、父と共に祖父母の住む田舎へと足を運んだ 出迎えてくれた祖父は介護疲れのせいか、酷くやつれている そんな祖父のためにも頑張ろうと思っていたのだが、私達が来る前に粗方済ませていたらしい 後はゴミを捨て、まとめた荷物を施設へと運ぶのみである 本来は明日やる予定であったが、予定を前倒しにして父と祖父でゴミを捨てに行った 荷物が多すぎて車に乗れなかった私は来て早々暇になってしまった
知り合いから人の皮で作られたというブックカバーを譲り受けた いつ作成されたのか、本当に人の皮なのかも分からないが、なんだか妙に手触りが瑞々しい それが気に入り、何年も使っていたのだが… 最近手触りが変わったように感じる 乾燥の影響かとも考えたが、油を使って丁寧に手入れをしているので考えにくい 夜な夜な虫やネズミにでも噛られているのかもしれない それならばと桐の箱にしまう 翌日からしばらく忙しく、読書の時間をとれないため丁度いい 二週間経ち、余裕が出てきたので本
道を遮るように遮断機が下りている カンカンカンと耳障りな音が鳴り響き、赤いランプが鬱陶しく点滅する 先程まで何もないただの地下道であったはずだが…瞬き一つでこうも変わるものなのか… 驚きでしばらく目を見開いていたが、抗えない欲求に一瞬瞼が視界を塞ぐ 目の前の光景に驚き、何度か意識的に瞬きを行う 瞬きをするたびに、目の前に現れた女性の顔が恐怖に歪む そして俺と目が合うと、その顔から一切の表情がなくなった 俺は瞬きを止めて目を強く閉じる 遮断機の音が聞こえなくなる
春風に揺れる花畑に混ざり、真っ赤に濡れた人の手が時折見えることがある それだけでも奇妙だが、他の花より激しく振られる手には気をつけた方がいい その手をずっと見ていると指が一本ずつ折られていき、立てられた指が無くなると同時に利き手が腐り落ちるから
子供の描く家族の似顔絵 そこに描かれる祖母には、何故か左腕がなかった まぁ子供の描く絵なんてそんなものだと、その時は特に気にしていなかった 嬉しいことに年々子供の絵は上達していくが、祖母の左腕だけは頑なに存在しないままであった 子供に、何か意味があるのかと聞いてみても見たままを描いていると言う その話をした翌日、子供が家族の似顔絵を描いてくれた その絵の祖母には左腕がしっかりと生えていたのでホッとした気分だ その日の夕方、祖母は事故で左腕を失った
ツクヨミいない夜の空 草木眠ると現れる 存在しないその場所は 坂を下った先にある 存在しないその坂は 普段は岩に隠れてる 山に行くなら子の刻に 岩が退くのは丑の刻 灯り持たずに静かに進め 鬼に見つかりゃ食べられちゃう 行灯代わりに狐花 闇夜を正しく照らすから 遂に見つけた堅洲國 わいわいガヤガヤ楽しそう さらに奥には黄泉の国 みんなそこからやってくる 賑やか宴会気をつけて 食べたらみんなの仲間入り 命を守る黒い百合 なければ呪いに侵される あっても長居は禁物だ 死者
娘が大学の課題で描いたという夜景の絵をみせてもらった 娘はいつも白黒の絵を描くのだが、今回は何故か空が僅かに赤みを帯びている 不思議に思い、理由を尋ねる だってね、あーんってしてたから この会話を境に、娘は私に対してのみ子供のような口調で話すようになった その理由をずっと聞けないままでいる
夜の峠道をドライブしていると後方に光が見えた 光源が一つしかないのでバイクだと分かる かなり速度を出しているのか、光がドンドン近づいてくる 何故かハイビームのまま切り替えないので眩しくて仕方がない 俺を追い抜こうとしているのか、ライトが真後ろから右側に移動した そこで違和感を覚えた エンジン音が聞こえてこないのだ 今流行りのEVだろうか そんなことを考えているとサイドミラーが少しずつその眩しさを増していき、一瞬にして光が見えなくなった 俺の車を完全に追い越し
友人にはたまにすれ違う婦人がいるらしい 婦人はいつもすれ違いざまに友人の未来を暗示する言葉を残すのだとか それが妙に当たるので不気味に思っているという 婦人と会いたくないからと友人は地元から遠く離れた大学に入学し、独り暮らしを始めた だが何故か引っ越し先でもたまにすれ違い、同じ様に未来を暗示される 怖くなったらしく俺の所に相談に来た そんな話を聞きながら街中を歩いていると、テラス席で談笑中の婦人の一人が突然友人を指差して口を開いた あっ、あんた明日死ぬね 呆気
紅葉狩りをしに山に来たが、どうもおかしい 何度か人に触られる感覚があり、その都度周囲を確認するが近くに人はいない そのため気のせいだと思い込み、紅葉狩りを楽しむことにした ふと道の端に一際大きな紅葉が落ちているのを見つけ、拾おうと右手を伸ばす 紅葉に指が触れるが早いか、手首をナニかに掴まれたかと思うと強い力で引っ張られた 気がついたら病院だった どうやら私は滑落したようだ 身体中傷だらけで足の骨にもヒビがあるが、命に別状はないとのことだ 引っ張られたと感じたの
写真を撮られるのが嫌い そう言っていた彼女を確認できるのは、今や写真の中だけだ 私は写真を撮る度に、容姿の変わらない彼女に嫉妬している ただただ羨ましい だから嫌がらせの為に、あの頃のようにカメラを持って廃校に通っている 彼女は今も、変わらずそこで揺れている 長く伸びた首の先 醜く顔を歪ませて