色の章

 認知症になった祖母を施設に入れることになった

 その準備や片付けを手伝うため、父と共に祖父母の住む田舎へと足を運んだ

 出迎えてくれた祖父は介護疲れのせいか、酷くやつれている

 そんな祖父のためにも頑張ろうと思っていたのだが、私達が来る前に粗方済ませていたらしい

 後はゴミを捨て、まとめた荷物を施設へと運ぶのみである

 本来は明日やる予定であったが、予定を前倒しにして父と祖父でゴミを捨てに行った

 荷物が多すぎて車に乗れなかった私は来て早々暇になってしまった

 誰かと遊ぼうにも時期が時期なので同年代の子は誰も帰省していない

 家にいてもやることがないため、イラストに使う自然風景の取材を兼ねて周辺を散策することにした

 開発の話が出てこないためか、子供の頃から変わらない懐かしい風景がそこにあった

 ノスタルジックな気分に浸りながら歩いていると、山中へと続く獣道を見つけた

 まだまだ日暮れには程遠いこともあり、その獣道を進むことにした


何でこんなところに…?

 小一時間ほど獣道に沿って山中を散策していると、目の前に石鳥居が現れた

獣道じゃなくて、この神社に続く道だったってことかな?

 そんなことを考えながら鳥居の間から奥を見ると、異常なまでにキラキラと輝いている

あそこだけ木がないのかな?
だとしても眩しすぎるし、そもそも社はどこだろう?

 気になったので鳥居をくぐり、石畳に沿って奥へと進む

 誰かに管理されているのか、こんな辺鄙な場所に在りながらも鳥居にも石畳にも苔一つない

 眩しさに目を細めながら歩みを進め、ようやく入口から見えていた木々のない開けた空間へとたどり着いた

 そこに広がる光景に私は目を奪われた

 日の光を反射して輝く池と、それを取り囲む色彩豊かな花畑

 それらがさも自分の物だと言うように池の中央に佇む小さな社

 池のほとりでは小鳥達が水を浴び、花の周りを蝶が優雅に舞い踊る

 風光明媚とはまさにこの事

 あまりの美しさにしばらく立ち尽くしていたが、我に返った私はカメラを構えて池を、花畑を何周もしながら写真を撮り続けた

 撮れた写真の出来映えに満足した私は挨拶がまだだったことを思い出し、石畳から社へと延びる飛び石を渡った

パシャん

 タン・タン・タンと小気味良く渡っている私に驚いたのか、一匹の魚?が水面を揺らした

 それまで魚がいることに気がつかなかった私は、足を止めてその場にしゃがむと池を凝視する

 池の水はよく澄んでいるが、眩しくて魚影がよく見えない

 空を見上げると太陽が真上に見えるので仕方がない

 魚の観察は諦めて社の前に立つと、パンパンと柏手を打つ

 そのまま手を合わせて目を瞑る

最高の景色を見せていただき、ありがとうございました

 挨拶が済んだので目を開けると、社の中で何か光った気がした

 社の扉にある格子状の隙間から中を覗くと、中央の祭壇に鏡が安置されていた

御神体ってやつかな
あんまり見ちゃいけないんだっけ?

 なんとなく良くない気がしたのもあり、社を後にする

それにしても見たことない花ばっかりだなぁ

 挨拶を終えた私はゆっくりと花畑を見て回る

うわぁ、これすっごく綺麗

 数ある花の中でも一際目立つ青い花、私はその前で足を止めた

お婆ゃん、花が好きだったし見せてあげたいなぁ

 認知症でも祖母は祖母だ、大好きな祖母の喜ぶ姿がまた見たい

 そんな理由で私はその青い花を摘み取った

えっ…えぇ!?

 突然のことに驚いた私は摘み取ったばかりの花を取り落としたが、最早そんなことはどうでもよかった

 私は両手を顔の前に持ってくると、手の平と甲を交互に見る

 そして恐る恐る周囲を見渡すと、そのあまりの光景に言葉を失った

 先程まであんなにも色彩豊かで美しかったこの場所から色が失われ、全てが白と黒に染まっていた

 いや、それは正確ではない

 見上げた空からも色が失われていたことから察するに、どうやらおかしいのは私のようだ

 こうなった理由を考えながら目を擦ったり、池で洗ったりしてみたが、変わらず世界は白と黒のままである

 花に毒でもあったのだろうか…

 他に理由が思い付かずにそんなことを考えていると、バンッという大きな音が聞こえてきた

 反射的に音の方に振り返ると社の扉が開かれており、そこから人が出てくるところだった

 先程覗いた際、社の中には祭壇と御神体の鏡しかなかったはず

 そんな思考はその人物の異様さによってかき消されてしまった

 その人物はこの場所に存在する風光明媚な景色を纏っていると見紛うほどに美しい着物を身に付けていた

 そう、白黒であるはずの私の視界に彼の服は鮮やかな色彩を帯びて見えたのだ

 そして彼が顔を上げた瞬間、私はそれ以上に驚かされることとなる

 なんせ彼の顔は社の中にあった鏡で覆われていたのだから

 さらにその鏡に映る景色は何故か色で溢れている

 状況が飲み込めず、ただ呆然と鏡を眺めていると、突然私の姿が映し出された

己(うぬ)だな…?

 その声を聞いてようやく彼がこちらを見ていることに気がついた

それは色を奪った罰だ
今回は許してやるが、次はない
そのこと、努々(ゆめゆめ)忘れるな

 言葉の意味を理解するより早く、鏡が真っ白に輝きだした

 目を開けてられないほど眩しい光に顔を背け、両手で顔を覆う

 しばらくして目を開けると、私はいつの間にか山の麓に佇んでいた

 何が起きたのか分からないが、依然として私の世界には色がない

色を奪った罰ってなに…?
奪われたのは私でしょ?
許すって言うなら色を返してよ!

 そう叫ぶと、私はその場に泣き崩れた


プー プップー

 どのくらいそうしていたのか分からないが、突然背後からクラクションが鳴らされた

 ゆっくりと振り返るが木漏れ日で目が眩んでしまい、よく見えない

おーい、千紗
そんなところで何してんだ?

 ドアが開いたかと思うと、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた

 私は立ち上がると声の人物である父のもとに駆け寄り、抱き着いた

 父は珍しいことだと驚きつつも、そのままアタシが落ち着くのを待っていてくれた


それで千紗、何であんな所で泣いてたんだ?

 しばらくして落ち着いた私を車に乗せ、祖父母宅に戻ると父に問いただされた

 私は信じてもらえないのを承知で山での出来事と、未だに視界が白黒であることを伝えた

あの山に神社なんてあったのか…親父は知ってたか?

生まれて此の方ずっとこの地に住んでおるが、見たことも聞いたこともないわい

 父に話を振られた祖父はそう答えながら首を横に振る

そうか…とりあえず今から病院に行って検査してもらおう

 父はそう言うと出掛ける準備をしようと立ち上がる

病院なんて行く必要ないさ

 その言葉に皆が一斉に振り返ると、離れた場所に祖母が座っていた

 祖母は数日前からショートステイを利用しており、父と祖父がごみ捨てのついでに迎えに行っていたため、先程一緒に帰ってきたところだ

そりゃ いろつかみ様の仕業さ
おめぇ、さっき神社で花さ摘み取った言うとったろ?
そのせいだろうなぁ

いろつかみ様…?

 聞いたことのない言葉に疑問符が浮かぶ

いろつかみ様はその名の通り色の神様さ
そんな神様の住まう神域を荒らし、あろうことか色を奪ったんだ
色を取られて当然だね

色を奪うって…あの人も同じこと言ってた…

 祖母の話を聞き、社から出てきた人物を思い出す

あの人って…まさかおめぇいろつかみ様にお会いしたんか?

 多分と頷く私に祖母は祈るように手を合わせる

おめぇさん、アタシの親戚だったんだね
初めて、聡子と言います

 祖母のその言葉に寂しさと共に少しの違和感を覚えたが、咄嗟に祖母に話を合わせる

初めまして、千紗って言います

千紗ちゃんね、安心しな
今は色が見えなくても明日から少しずつ色が分かるようになるはずだよ
だから病院なんて行く必要ないからね

あのさぁ

 祖母の言葉に私が反応するより早く、父が話に割って入る
 
どうせいつものヤツだから聞く必要ないだろ
それより早く検査を受けた方がいい
すぐ病院に行くぞ千紗

 私は祖母の話をもっと聞きたい気持ちもあったが、病気であった場合命に関わる可能性もある

 そのため父の言う通り病院に向かうことにした

 この地域で一番大きな病院であったが、どんなに検査をしてもらっても色が見えない理由は分からずじまいであった

 医師に心当たりについて聞かれたが、父に口止めされていたため、山で花に触ったことだけを伝えた

 より専門的な検査を受けるため、隣県にある大学病院への紹介状を書いてもらい、明日受診することとなった

 帰宅して祖父にそれらのことに伝えると、その日は床に就いた

 眠れないのではないかと心配していたが山でのことや祖母の話、明日の検査のことなどについて考えているといつの間にか眠りについていた


 翌朝、目を覚ますと視界がおかしい

 ボーッとした頭で何度も目を擦っている内に色が奪われていたことを思い出し、悲鳴をあげた

 なんせ祖母の言う通り、色が見えるようになっていたのだから

 しかし元通りと言うわけではなく、見えたのは茶色だけであった

 その事を父や祖父に伝えると信じられないといった様子

 信じてもらおうと茶色の物を指差していると祖母が部屋に入ってきた

あら、おはよう千紗ちゃん
そんなに はしゃいじゃって、アタシの言った通り色が戻ってきたんだね
何色が見えるようになったんだい?

えと…今見えるのは茶色だけですね

そうかい、やっぱり病院になんて行く必要なかったね
いろつかみ様はとても尊い御方でありつつも寛大な御心をお持ちなのさ
何をしても一度は御許ししてくださる

そうなんだ…
でも予約しちゃってるから今日も検査にだけ行ってくるよ

そうかい
無理に止めはしないけどねぇ、行くだけ金の無駄ってもんさ

 私を含め、その場にいた祖母を除く全員が彼女の言動に驚いていた

 祖母は中等度の認知症であり、家族のことは最早分からず、生活もまともに送れないほどだ

 そんなはずの祖母が昨日私と交わしたやり取りを覚えており、あろうことか自らその話題を振ってきたのだから無理もない

 時間が迫っていたため、祖母のことは祖父に任せて病院へと向かう

 その日、一日かけて様々な検査を行ったが原因の特定には至らなかった

精神的なものかもしれません
何はともあれもっと詳しく調べるためにも検査入院をした方がいい

 医師からこのような提案をされたが、私は父の意向を無視して断った

 検査に時間がかかったので、予定を変えて祖父母宅にもう一泊することになった

 祖父母宅に帰ると祖父に検査結果と今日も泊まることを伝える

 祖父は心配しつつも少しだけ嬉しそうだ

そうそう、聡子のことだがな
やはり認知症が改善してる様子はなかったよ
相変わらずワシのことは分からんし、鏡を見るなり暴れておった

じゃあ今朝私のことを覚えてたのはたまたまかな?

恐らくそうだろうなぁ
そもそも今朝のも孫としての千紗は覚えていないように見えたがな

私もそう思う
それじゃあもう話の続きは聞けないかなぁ…

話の続き?

ほら、私が体験したことに対して いろつかみ様とか言ってたし、色が少しずつ見えるようになるって知ってたしさ
他にも何か知ってるかもしれないし、色々と気になてさ

そこにいるのは誰だい

 部屋の外から怒鳴り声が聞こえたかと思うと、戸が乱暴に開かれる

おや、千紗ちゃんかい
驚かせてすまないね

 部屋に入ってきた祖母は私の顔を見るなり憤怒の表情を一変させ、笑みを浮かべる

 私はその言葉を聞き、祖母はあの神社に関することだけ覚えているのだと考えた

ねぇ聡子さん、いろつかみ様についてもっと教えてくれない?

 私の言葉に祖母は考える素振りを見せる

うーん、本当は孫にしか教えちゃいけないんだけど…
まぁ、いろつかみ様に会ったことのある千紗ちゃんになら話してもええか

 場所を変えよう言い、祖母は私の手を引いて部屋を出ようとする

待って、どこ行くの?

アタシの部屋さ、ここで話せばどこの馬の骨とも分からん奴らに聞かれちまうからね

 祖母は父と祖父を一睨みすると私を連れて居間を後にする

 祖母に連れてこられたのは何故か祖母の部屋ではなく仏間だったが、そこで私は祖母から色々なことを教えてもらった

 我々のご先祖様が鏡山にあった神社に仕える神職であったこと

 故にいろんな儀式や術などが口で伝わっているということ

 その神社では いろつかみ様を祀っていたこと

 いろつかみ様は岩戸隠れの際に八咫之鏡から生まれた尊い神様だと言うこと

 隣にある三上山にも分家が仕えていた神社があったということ

 鏡山の神様と三上山の神様は親子であるということ

 鏡山では黄泉から死者を連れ帰ることができること

 そのせいで神社が権力者に目をつけられたこと

 分家の祀る自然の神様の手によって鏡山の神社を異界に隠したということ

 だから本家の血縁であり、尚且つ招かれなければ鏡山の神社には辿り着けないこと

 権力者の手によって三上山の神社が壊され、分家の者達が皆殺しにされたこと

 それから三上山では神隠しが起こるようになったことなど

 話しは尽きず、祖母が眠いと言い出すまで続いた

最後に一ついい?

 話を切り上げ、腰を浮かせかけている祖母に質問を投げるかける

聡子さんは何で奪われた色が少しずつ見えるようになることを知ってたの?

何かと思えば…
そんなの祖父より伝え聞いた内容に含まれていたからさ
それに…

 そこまで話した祖母は何かを思い出したかのように遠くを見つめる

私がそうだったからね


 今日は朝から鏡山にある獣道を登っている

 昨夜祖母から聞いた話に疑問が湧いたので、それを確かめるために来たのだが、例の神社が見つからない

 この獣道には分岐がないので間違えようがない

 道の雰囲気や所々に現れる特徴的な植物たちも記憶通りの場所にある

 だがいくら探しても例の神社はおろか、その痕跡すらも見つけることは出来なかった

 父は仕事、私は学校があるので今日の昼前には祖父母宅を出なくてはならない

 そのため捜索は諦めて山を下りた

 祖父母宅に戻り、帰りの準備をしていると祖母がやって来た

おはよう千紗ちゃんや、今日は何色が見えるようになったんだい?

聡子さんおはよう、今日は黄色だったよ

そうかい、色の戻りは順調だねぇ
今日はどこかへお出掛けかい?

いや、家に帰るんだよ
今日のお昼前に出発するから早めに準備してるんだ

そうだったのかい、寂しくなるねぇ…
あぁそうだ、千紗ちゃんに話しておきたいことがあったんだ

話しておきたいこと?

千紗ちゃんには いろつかみ様との強い縁がある
だからなるべく山には行かないようにね

山て、鏡山のこと?

いんや、世界中にある全ての山さ

世界中?何で縁があると山に行かない方がいいの?

昨日話した通り いろつかみ様の在られる神社は山という異界へと隠された
だからどの山からでもその神社にたどり着いてしまうんじゃ
山は異界そのものであり、全ての山は繋がっておるからな

うーん、いまいち理解できてないけど…それの何が問題なの?

すぐに引き返せれば問題はない
だがもし気がつかずに神社に足を踏み入れ、あろうことか色を奪ってしまったとしたら…
二度と光を拝めなくなるぞ

 祖母の言葉に背筋が粟立つ

 光を拝めなくなるとは、死ぬということなのだろうか

 怖くてそれを聞けないまま、私は祖父母宅を後にした


 以前と変わらない色覚を取り戻すのに約一ヶ月もの時間を要した

 色を取り戻した記念にと、写真屋に預けていた写真を取りに行った

 受け取った写真には、あの日撮影した神社を含む田舎の風景が収められていたはずなのだが、現像された中にあの神社で撮影したものが一枚も含まれていなかった

 どういうことかと写真屋を問いただすも、何のことか分からない様子

あぁ、そう言えば現像を依頼された中に明らかな失敗写真があったのでこちらで省かせて頂きました
そちらも確認されますか?

 是非と答えると数枚の写真を渡された

 それらは全て白飛びしており、最早何が写っているのか分からないほど

 神社で確認した時は普通の写真だったのを思い出し、パソコンを借りてデータを確認する

 しかし神社で撮影したと思われるものは、現像した写真と同様に全て白飛びしていた

もしかして…これも色を奪った罰なんじゃ?

 そう考えた私は祖母に意見を聞くため、彼女の住む施設へと足を運んだ

 祖母と会うのは田舎での一件以来だったのもあり、またご先祖様についての話しも聞きたいと思っていた

 しかし環境が変わった影響か、はたまた認知症が進行しているからか、私はおろか いろつかみ様やあの日話してくれた内容も全て分からなくなっていた

 そのため写真についての意見も聞くことが出来なかった

 だが、そんなことはどうでもよくなる程に二度目の忘却は私の心を深く抉った

 それから私は祖母へ会いに行かなくなり、徐々に彼女のことを忘れていった

 数年後に祖母の葬儀にも出席したが、その時は知らない親戚の葬儀だと認識するほどだ

 思うに、私は無意識に自分の心を守ろうとしていたのかもしれない


 それから更に時が流れ、私は一児の母になっていた

 その日は夫と息子、息子の友達家族を連れだって近くの丘に来ていた

 この丘は自然公園と名付けられており、その名に相応しいほどには木々が鬱蒼としている

 メインのBBQも終わり、大人が片付けをしている横で子供達が仲良く遊んでいる

 片付けも粗方終わり、子供達の姿を眺めながら談笑していると息子がいないことに気がついた

 慌てて周囲を見回すと、林の中に一人で入って行く息子の後ろ姿を見つけた

 急いで後を追いかけるが、木の根に足をとられてなかなか距離が縮まらない

 追いかける私に気がついた息子は遊びのつもりなのか木々の合間をジグザグに進み、時折振り向いては笑顔を見せる

 制止する私の声は聞こえないのか、どんどん奥へと進んでいく

 その後ろ姿を必死に追いかける私は目の前に現れたソレを見た途端、激しい頭痛に襲われた

 石鳥居と真っ直ぐ延びる石畳、その奥は異常なまでにキラキラと輝いている

 この時にようやく全てを思い出し、先程までいた場所が宅地開発された低山の中腹であることに気がついた

 相変わらず苔のない石畳を全力で走り抜けると、そこにはあの日と同じ景色が広がっていた

それに触っちゃダメ!

 そう叫びながら花に手を伸ばそうとする息子の体を抱き上げる

 そのまま勢い余って転倒し、私は息子を庇った影響で頭を地面に打ち付けた

 脳震盪を起こしたのだろうか、頭がクラクラする

転ばせちゃってごめんね、怪我はない?

 そう言いながら息子の様子を確認しようと視線を送る

 大丈夫と立ち上がる息子の足元に赤い花弁が落ちているのを見つけた

 咄嗟に社の方へと振り返るが扉が開く様子はない

 花弁だけだったので許されたのだろうか

 はぁと安堵の溜め息が漏れる

また己か

 突然背後から発せられた声に振り返ると、目の前に私の顔があった

 そこにある私の目は何故か白く濁っている

次はないと言ったであろう
罰として己からは光を頂く

 次の瞬間、電気が消えた時のように目の前が真っ暗になった

 何が起きたのか分からず混乱していると、急激に頭の痛みが増しはじめる

 また先程の声が聞こえてくるが、あまりの痛みに意識が朦朧としており、上手く聞き取れない

 薄れ行く意識の中、息子の泣き叫ぶ声がいつまでも聞こえていた

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