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言葉の擬人化

noteを書いていると、言葉に迷うことがある。
どの言葉を選んでどのように並べるかが、その人の文章の印象を決めるとも思っている。
思ってはいるが、私の場合、適当に思いついたことを打ち込んでいる。
そもそもボキャブラリーがないタイプなので、そういう悩み方をするというよりは、意味を間違えてはいないか、不快にはさせないかという面で迷うことがあるという話である。

前回書いた「股間におできができまして」という文章は、この「股間」の表現に迷った。
やはり卑猥ではなくてもシモの話は人を不快にさせることがあると思うし、過去に自分の性生活をあからさまに語ってくる先輩に対して、ゾワゾワして理解ができなかったからだ。
うっかり読んでしまった人をそういう気持ちにはさせたくない。


前置きが長くなったが、前回書いたnoteの「股間」を採用するにあたって、私の脳内ではひと悶着あった。
その部位を表す言葉は幾つかあり、どの言葉を使えば不快にさせないだろうかと、頭の中で会議が始まる。
それが名詞の場合、とりあえず擬人化してみたりする。
今回、擬人化された言葉は「股間」「おまた」「陰部」「恥部」の4つである。

まず、採用された「股間」だが、これは完全に爽やかなサラリーマンであった。
清潔感のあるスーツで「どうも、股間です」とスマートに名刺を差し出してくる。
4人の中で唯一男性で、顔立ちも丁度良い加減に整っている。コミュニケーションにおいても聞き上手、かつ自分の意見も伝えることの出来る、誰からも好かれそうな営業マンである。

次に「おまた」だ。
実は、これが一番採用したい人物であった。
なぜなら擬人化すると自分に一番近いタイプな気がするし、言葉としても発しやすい。
「おまた」はおっちょこちょいなので、社会や組織、どの場面においてもそこまで重要視されていない。
会議や何かの集まりにも平気で遅れてやって来る。
腰を屈めながら、すみませんのポーズで入ってくる。
エヘヘなんてはにかんで、ほとんどの場合許されてしまうが、実際は許されているのではない。端から期待されてはいないのだ。

次は「陰部」。
この子は一番接点がない人物な気がして、擬人化も難しかった。が、言葉のニュアンスからして、やはりジメっと陰湿であってほしかった。
始めは部屋で膝を抱えているタイプにしようと考えて、結局は堅い仕事に就いていて、外見は地味で控えめに見える。学歴とプライドが高く、心の中では他者を見下しているタイプということにした。

次、「恥部」。
恥部ってなんだよ。言わないよ恥部とか。
でも陰キャが居るなら陽キャもほしい。しかし、陽キャを表す言葉が無いので、仕方なく候補に挙がったのがこの「恥部」。
目立つタイプではないが、愛らしい小動物のような顔立ちで、小柄で守ってあげたくなるタイプ。
性格も素直で、いつも可愛いワンピースなどを着ている。一番男性からモテそうな、あざとタイプである。

メンバーが揃ったところで、この4人を全員が「おまた」の知り合いという設定で居酒屋に集めてみる。
「陰部」と「恥部」だけでは盛り上がらない会話を「股間が」上手に回している。当然「おまた」は遅れてやって来る。「おまた」は「股間」が居るから大丈夫だろうと高を括っている。

「おまた」の読み通り「陰部」と「恥部」に「股間」は好印象である。
飲み会は和やかに進み、2時間をオーバーしてお開きとなり、皆それぞれの方面に別れるが、「恥部」は「股間」と連絡先を交換済みで、この後、落ちあっている。「股間」がトイレに立ったのを「恥部」が待ちぶせたのだ。
一方、「陰部」は田園都市線に揺られ、SNSで「股間」のアカウントを見つけ出していた。
「おまた」はおどけていた仮面を剥いで、疲れた顔でラーメン屋の扉を開き、ひとり餃子と瓶ビールで飲み直している。
こうして、それぞれの夜は更けていった。

ひと月程して「恥部」「陰部」「おまた」の3人はバルに集まった。
相談があると「恥部」に呼び出されたのだ。
集まるなり「恥部」は「股間に避けられているみたい」と目にいっぱいの涙を溜めた。ぴえんである。
そんなことになっていたとは知らない「おまた」は仰天し、ハイスツールから転げ落ちそうになったが、「陰部」は冷静であった。
インスタで「恥部」が投稿した「股間」と一緒に居ることを匂わせた画像を見て、既に知っていたのだ。
ついでに、昨晩「恥部」がXに投稿した病んでいるつぶやきから状況を察し、内心ざまあみろと思っていた。

そもそも「股間」が爽やかな遊び人であるということを知っていた「おまた」は居心地が悪い。
うんうん、と真剣に話を聞いているフリをして、いつ「恥部」が「おまたから連絡してみてくれない?」と言い出すのではないかと思うとヒヤヒヤして、どうやってこの場を切り上げるかうわの空であった。


ということで、採用されたのはノンストレスの「股間」となりました。
やはり「股間」の一人勝ち感があるのよねー。(どういうこと)

余談だがメンツにふくよかな「観音様」が居れば、居るだけで有難いので「恥部」は明日から頑張ろうと思えるだろうし、警察官で柔道をやっている「局部」が居れば、「恥部」を心から愛し、やがて実って結婚するだろう。
そう考えれば「恥部」も捨てがたいけど、どう考えても言わないのよ「恥部」とか。
「陰部」はこれからもSNSのパトロールを怠らないし、「おまた」は自分さえよければそれでいい、いい加減な奴なままなのである。


私はね、酔っぱらいに対して、この人なに言ってるんだろうって本気で思うことがあるよ。
今電車で読み直しているけど、のっけから股間が爽やかってどういうことなんだろうね。そして不快にはさせたくないといいつつ、シモの言葉を並べる矛盾。
今となってはシモの話で不快どころか、時間の無駄遣いもさせたのでは?とフリーズしていたら、鞄からえげつない匂いがして食べかけのあたりめが出てきたよ!

するめの「する」は縁起が悪いから
「あたり」に変えたんだって。
かちめとか、やっためでもよかったんだね。
やっため!やっため!


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