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研究者の血汗涙のあと──『物語 遺伝子の歴史』

内容の細かいところは専門的すぎてぜんぜんわかりませんでした笑
しかし私が知りたかったのは、遺伝学の発展の経緯と最新の研究ステータスなので良しとしよう。
ということで、忘れないように本書で手に入れた知識をまとめておきます。


書籍データ

1.生物の遺伝を解明する──遺伝学から生化学遺伝学へ

生物化学に貢献した2大科学者

━━ダーウィンとメンデル

染色体の発見

「遺伝子は染色体上に存在し、決まった配置と距離を保っている」
━━モーガン(1866-)

モーガンは、ノーベル賞の受賞講演で染色体説の限界について述べている。それは、すべての細胞が同じ染色体をもつのに、なぜ、「生殖細胞や神経細胞など、異なるタイプの細胞が生じるのか」という問題である。

→その疑問の解は、オペロン説:遺伝暗号の解明へ

動く遺伝子

「遺伝因子は染色体上を動く」
━━マクリントック(1902-1992)

エピソードが良かったのでメモ↓↓

マクリントックの偉大なところは、形質の遺伝と染色体の観察結果から、陰に隠れて見えない真実を探り出す優れた洞察力である。「私が細胞を見るときは、細胞の中に降りていきそして周りを見渡すのです」

遺伝子と形質の相関

「特定の遺伝子が、それぞれの細胞内の特定の化学反応を支配している」 ━━ビードル(1903-1989)

ビードルの研究によって、遺伝子はもはや子孫への伝達のしくみを調べるためのマーカーではなくなり、細胞内で特定の作用をする機能的な存在へと変化した。(性科学遺伝学の開拓)


2.遺伝子の本体に迫る──古典分子遺伝学の時代

核酸(DNA/RNA)の発見

「形質転換を誘導する物質を固定することに成功し、その物質はDNAである」
──アヴェリー(1877-1955)

「形質転換物質は、菌が分裂するときに娘細胞に代々引き継がれ、遺伝する。したがって形質転換物質は遺伝子と関係しているかもしれない」……「世紀の発見」ともいうべき論文の論調は、このように控え目だった。

DNAの構造解明

「フランクリンの鮮明な鮮明なX線回析像から推定される2重らせん構造とシャルガフの法則から、DNAの立体構造模型を作製することに成功した」 ──ワトソン(1928-)・クリック(1916-2004)

遺伝子複製のしくみは、まさに、DNAの構造の中に隠されていたのである。その鍵は、シャルガフの法則※に支えられた特定の「塩基対」だった。

※シャルガフの法則:生物の持つDNAにおいてはアデニン(A)の数とチミン(T)の数が等しく、シトニン(C)の数とグアニン(G)の数が等しいというものである。〜中略〜この事実は、DNAに含まれる4種類の塩基(A、T、C、G)が、AとT、CとGの塩基対を形成していることを強力に示唆しているが、シャルガフ自身はこの関係に気付かなかった。

Wikipedia「エルヴィン・シャルガフ」ページより一部抜粋

遺伝子の発現誘導オペロン説

「遺伝子の発現制御が精巧な機構で行われていることを示す画期的な発見」 
──ジャコブ(1920-2013)・モノー(1910-1976)

[要旨]
前出のモーガンが発した問いに対しての解は「いろいろな細胞が生じるのは、発現している遺伝子が細胞ごとに異なるため」と解き明かされた。では、「特定の遺伝子はどのようなしくみで発現するのだろうか」。ジャコブとモノーは「誘導」という現象のしくみ(しかもそれは因果関係が明確な形でモデル化されていること)を解明した。

3.遺伝学の分野の枝分かれ

「粒子」から「線分」へ

「DNAの組み替え実験により、遺伝子は分割可能な概念へと変化した」 ──ベンザー(1921-2007)

[要旨]
DNAの中にもさらに機能の単位(シストロン)という概念が存在し、その単位で研究することにより、真核生物と原核生物の遺伝子の差異があることがわかるようになった。
真核生物はmRNA※に転写されない不要な塩基配列(イントロン)で遺伝子が分断されている(転写部分はエクソンと呼ばれる)。なぜこのような不要なものが含まれているのかは、イントロン排除やエクソンの読み飛ばしが行われることでタンパク質に多様性をもたらすためだと考えられている。

不可分な粒子(最小単位)と捉えられていた遺伝子を分割可能な線分という概念で捉え直したことは、その後現在に至る遺伝学に大きな影響を与えた。

※mRNA(メッセンジャーRNA):細胞中でタンパク質合成部位であるリボソームにDNAの情報を伝える役割をするRNAである。遺伝情報をもとにタンパク質が合成される場合には、RNAポリメラーゼの働きにより、DNAに対して相補的な配列を持つmRNAが転写され、次にリボソームにより、mRNAの配列に基づいたタンパク質の合成が行われる

Wikipedia「リボ核酸」ページより一部抜粋


RNAの役割の解明

「細胞内で触媒反応を行うのは酵素(タンパク質)であるという常識を覆し、RNAも触媒活性をもっていることを明らかにした」
──チェック(1947-)・アルトマン(1939-2022)

[要旨]
マイクロRNAなどに代表される遺伝子発現を阻害する作用(RNA干渉)が発見・普遍的に存在することが確認された。

エピジェネティック制御

「可逆的な遺伝子の不活性化」

[要旨]
可逆的な不活性化であるからこそ、分化条件や環境条件によって制御の抑制が解かれて、遺伝子が働き出す場合が生じる。生物の適応に深く関係するしくみ。

感想

物理学と同様に、遺伝学もミクロ化し続けているということだけは理解しました。
もはや電子顕微鏡でも観察できない、DNAのさらに内側、実験結果とモデルでしか解明できない世界(ということだよねたぶん)。
以前に『子供の科学』でゲノム編集の特集を読んだのだけど、「……さっぱりわからん……」だったなあ。目に見えないものを理解するって難しいです。

さいごに:研究って

本書の中にこんな言葉が書いてあります。

できあがってしまった科学は揺るぎない体系として存在するが、その中には科学者や研究に携わる人たちの息吹を感じることはできない。高校の生物の教科書も大学のテキストも無味乾燥である。

p.258 おわりに

科学というものは、いったん認められ、教材になってしまうと、冷たいものである。〜中略〜つくられつつある化学の方には、二つの面がある。昼の科学と夜の科学とでも言おうか。〜中略〜自己の足取りを自覚し、過去を誇り、将来を確信して、昼の科学は光と栄光の中を進んでいく。
〜中略〜夜の科学は、その反対で、手さぐりでさまよい歩く。ためらい、つまづき、後ずさりし、汗をかいてはっと目覚めたりする。

フランソワ・ジャコブ『内なる肖像──一生物学者のオデュッセイア』

私たちが常識として享受している科学は、発見者があり、証明する人があり、体系化する人があり、評価者がいたことで「光が当たる」。
そして光が当たったものに、次なる活用を見出すのもまた「人」である。

夜の暗闇の中を進むような先の見えない中を、折れずめげずに少しずつ前に踏み出す「研究」という仕事は、本当に尊いなと思いました。

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