見出し画像

で、あなたは読書から何を得たいの?──『読んでいない本について堂々と語る方法』読書感想文

「本を読んだ」って、何をもって言えるんだっけ?
って、本好きな人が、一度はぶちあたる課題だと思うのですが。
この本はそのテーマについてあらゆるアプローチを網羅してくれています。
本好きな人読んで。

全編通して、徹底した作者の道化っぷりが清々しいです。


書籍データ

要約と感想

章名を辿っていくと、どんどん著者の論理がぶっ飛んでいくのがわかると思います。楽しい。
※この記事の見出しは、本書の章名をそのまま流用しています。

ぜんぜん読んだことのない本

時代、ジャンル、テーマなどなど、
"体系"の中でその本の位置を捉えられれば、(ちゃんと読まなくても)自ずと内容が把握できる。

諸々の本はひとつの全体を形づくっているということを知っており、その各要素を他の要素との関係で位置付けることができるということである。

p.33

ざっと読んだ(流し読みした)ことがある本

"ある本"というミクロの対象に向けた特定の視点が、広範な視点での考察の妨げになる。
なので、逆にマクロの視点(他本の傾向)から見ると、「この時代にこういうテーマで書かれた書物は自然こう言う主張・論調になるだろう」と類推することが可能になる。

→そこにいきつくには、それなりの知識と教養が必要ですけどねっ!

じつをいうと諸君、私には、世の中でつぎつぎと溜め込まれていく厖大な量の書物に思いを馳せただけで、人がどのようにして意気を挫かれないでいられるか分かりません[ポール・ヴァレリー]

p.53

→この部分、「たしかに」ってなる笑。読んでいない本の量にたまに呆然となりますね。

読んだことはあるが忘れてしまった本

読書とは、身に染み込んだら忘れるもの。
いつの間にか、本の言葉や知識は自分の中で咀嚼され、消化され、自分と同化していて、その時点で「本を読んだ」の記憶は不要になるので忘れ去られる。

→私のこれまでの読書体験に近しいのがこれ。

私は本にざっと目を通すが、仔細に読むことはしない。私のうちに残るのは、もはや他人のものとは識別できないものごとである[モンテーニュ]

p.94

愛する人の前で

その本の感想について、無理矢理他者と認識をすり合わせられると思っているの?──そんなことありえない。

→妄想をすり合わせているだけと考えたら、本を読み込む必要もないんじゃない? という論旨。ほんと愉快。

二人の人間のテクストを一致させるという夢は、ファンタジーの中でしか表現されない。現実世界のなかでは、われわれが書物について他人と交わす会話は、残念ながら、われわれの幻想によって改変された書物の断片についての会話である。
『グラウンドホッグ・デイ』

p.171

→余談ですが、この映画、主人公が同じ一日を繰り返すことによって自分だけに向いていた意識を他者に向けるようになったことで、それがハッピーエンドへの突破口になるそうな。
いい教訓。自分のためだけを考えた行動から得られる幸せには限界値があると、私も思います。

気後れしない

著者を知れば、その本が知れる。

書物というのはどこかから落ちてきた隕石でも、隠された〈自我〉の産物でもない。書物というものはたいていの場合、もっと単純にわれわれが知っている現実の書き手の延長上にあるのである。

p.181

完璧な教養というイメージから自分を解放せよ。

われわれには他人に向けた真実より、自分自身にとっての真実の方が大事である

p.200

本をでっち上げる

本についてありのままの主観を述べて何が悪いというひらき直りまできた笑

書物において大事なものは書物の外側にある。なぜならその大事なものとは書物について語る瞬間であって、書物はそのための口実ないし方便だからである。〜中略〜ここでは真の関係は、二人の登場人物のあいだの関係ではなく、二人の「読者」のあいだの関係である

p.243

自分自身について語る

想像も、突きつめれば創造。

読んでいない本についての言説は、この自己発見の可能性をも超えて、われわれを創造的プロセスのただなかに置く。〜中略〜この言説は、それを実践するものに自己と書物が袂を分つ最初の瞬間を経験させることによって、創造主体の誕生に立ち会わせるからである

p.266

→→→(最終章だけでなく全編通して)書いてあることは一見もっともらしいのだけど、冗談と詭弁が入り混じっていて……でもなんとなく「わかる!」ってなるのが高等テクニックだなあと笑

清水義範さんだったかな? 昔読んだエッセーにあった「究極の書物をご覧に入れます→50音表ってオチ」を思い出しました。

本を読むって、それ自体は高尚なものでもなんでもなくて、結果自分が何を得たいのか・したいのかが大事なんだよなあ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?