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ノーマン・ロックウェルが描いたコントラクトブリッジのイラストレーションは不朽の名作すぎるという話

以前、コントラクトブリッジやカードゲームを題材としたアート作品を紹介する記事を書いたことがありますが、今回は、20世紀中頃に描かれたコントラクトブリッジのイラストレーションを取り上げたいと思います。
ご紹介するは、ノーマン・ロックウェル(Norman Rockwell, 1894-1978)というアメリカのイラストレーターが描いた「Bridge Game」という作品です。

この作品については、オンラインブリッジサービスBBO(ブリッジ・ベース・オンライン)のブログでも紹介されていますので、こちらも参考にしながら基本情報を見ていきます。

まず、この作品はアメリカの大衆雑誌『サタデー・イブニング・ポスト』1948年5月15日号の表紙として発表されたものです。ノーマン・ロックウェルは22歳の時からこの雑誌の表紙画家の一人となり、その後47年もの間、彼のイラストレーションが『サタデー・イブニング・ポスト』誌の表紙を飾り続けました。

ノーマン・ロックウェルの作風はアメリカの庶民の日常を感情豊かに描いたものであり、見ている人が自然と共感してしまうような情景を描くことに優れたイラストレーターでした。20世紀の古き良きアメリカの庶民の生活を描き、大衆画家として多くの人に愛された作家と言えるでしょう。アメリカではもちろんのこと、日本でも展覧会が開かれたりグッズが販売されたりするなど、人気が高く知名度のあるイラストレーターだと思います。(令和世代でも見たことある人いるよね…?)

タイトルは「Bridge Game」とそのままのネーミングなのですが、「The Bid」または「Playing Cards」という別の名前でも呼ばれることがあるそうで、当方が図書館で借りた図録では「ビッド・ゲーム」と書かれていました。

『ノーマン・ロックウェル-332点のカヴァー・イラストレーション-』(タトル商会、1997)
より。Amazonでは取り扱いがないようでした。


続いて、この作品が描いた内容ついて、詳しく見ていきましょう。これについては、『サタデー・イブニング・ポスト』誌に掲載されたコラムで解説されているのでこれを参照しながら検討していきたいと思います。

まず、『サタデー・イブニング・ポスト』誌の表紙イラストとして「ブリッジをしている風景」が描かれた理由を考えます。それは、上記の記事にもある通り、「1940年代にはアメリカの家庭の半数でブリッジが行われていたので、読者の多くはこのイラストレーションの中で何が行われているか理解できた」ということです。大衆雑誌の表紙の題材として、市井の人たちの間で流行しているゲームの風景を選ぶことは自然なことと言えるでしょう。当時のアメリカでは、それほどブリッジがありふれたアクティビティだったということが伺えますね。

続いて、イラストレーションとしての魅力についても見ていきましょう。
このイラストレーションで注目して欲しい点は「構図」です。というのも、コントラクトブリッジをしている様子を描く時に多くの画家やイラストレーターを悩ませるのは「どのアングル(視点)からプレイヤーたちを描くか」ということがあると思うからです。

コントラクトブリッジは4人でプレイするゲームなので登場人物が4人います。そして、ゲームをするにはカードとテーブル(とイス)も必要なので、それも描かなくてはなりません。さらに、手札やテーブルに並べられたダミーのカードなどを描かないと、何のカードゲームを行っているか鑑賞者に伝えることができません。「コントラクトブリッジ」をイラストレーションで伝えるためには、こうした様々な要素をひとつの画面の中に盛り込まなければならないのです。

それを解決する方法としてロックウェルは、プレイヤーたちを上から覗き見る「俯瞰」の構図を用いました。この構図であれば、人物の様子もカードゲームの様子もすべての要素を描くことができるのです。

さらに、この作品では4人のプレイヤーが持つ手札のカードのすべてが見えるように描かれています。つまり、この構図によって鑑賞者はゲームの内容まで見て取れるので、さながら「ゲームの観戦」ができるわけです。
上記の記事にもありますが、このイラストレーションの場面は、Southにいるディクレアラーがダミーの手札から次に出すカードを考えている状況です。場に出されているのはディクレアラーが出したスペードのジャックとWestが出したスペードの4。
ここで問題となるのがディクレアラーとダミーの手札にない「スペードのキング」の存在です。ディクレアラーとダミーは合わせて10枚のスペードを持っているのでオポーネント(対戦相手のペア)は二人で3枚しかスペードを持っていないはずです。そのうちの一枚はWestから場に出されました。ということは、まだEastかWestのどちらかがスペードのキングを持っているはずです。
Northにいるダミーの手札にはスペードのエースがありますので、Eastがスペードのキングを出したとしても、これを出せば負けることはありません。しかし、スペードのエースを出したがEastがスペードのキングを持っていない(スペードの手札がない)、もしくはスペードを2枚持っていた場合には、オポーネントはスペードのキングを温存することができます。そのため、ディクレアラーはダミーの手札から何を出すか悩んでいるわけです。
こうした状況を鑑賞者が読み取れるのは、この「構図」のおかげですね。

それに加えて、4人のプレイヤーの表情や仕草にも注目してみましょう。次に出すカードを悩むディクレアラーは頭に手をやり、考えているポーズをしています。そして、オポーネントたちはディクレアラーが次にどうするか様子を伺っています。そして、することのないダミーは悩んでいるディクレアラーの様子を微笑みながら見守っています。こうしたプレイヤーたちの姿から、4人が真剣に、そして楽しみながらブリッジをしていることが伝わってくるのです。
さらに、ブリッジの遊び方を知っている鑑賞者であればゲームの状況も踏まえてプレイヤーたちのことを見ることができるので、「この場面ならディクレアラーは悩むだろうだなぁ」とか「キングを持っているEastはドキドキするね」とか、プレイヤーたちに感情移入してしまうことでしょう。
こうした人物描写の巧みさもロックウェルのイラストレーションの素晴らしいところです。

というわけで、ノーマン・ロックウェルの「Bridge Game」はブリッジを描いた名作ですねーという話でした。正直、これ以上のブリッジ・イラストレーションを求めるのは困難だと思うのですが、もしイラストを描くのが得意な方がいらっしゃいましたら、ロックウェルの作品も参考に、是非ブリッジの場面を素敵に描いてみて欲しいですーではー。

(※その他、参照した資料↓)


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