大正12年のオークションブリッジの本にびっくりという雑記

コントラクトブリッジは16世紀の「ホイスト」というゲームを源流に持ち、20世紀初頭の「ブリッジ・ホイスト」「オークション・ブリッジ」などの派生ゲームを経て、1925年に現在のルールが完成したといわれています。(参考:日本コントラクトブリッジ連盟「ブリッジの歴史」年表

日本にブリッジが紹介されたのは20世紀初頭と言われているそうです。

国際社会にいち早く出て活躍した外交官や通産省、銀行、商社、海軍など外国とかかわりの深い人々が外地で社交上欠かせない教養であったブリッジを覚え、帰国後周りの人々に教えたことで広まっていったと伝えられています。なかでも英国海軍から学んでいた帝国海軍の軍人の間でブリッジが大変盛んだったとか。ブリッジは英国海軍から日本に入ってきたという説もあります。(引用元:日本コントラクトブリッジ連盟「雑学ブリッジ#2」

日本コントラクトブリッジ連盟さんのライブラリーには昭和初期に出版された2冊のブリッジ教本があるそうですが、国立国会図書館にはそれらよりもさらに古いブリッジ教本が所蔵されています。しかも、自宅でも内容を見られる本があるのです!

『オゥクシヨンブリッヂ : 最新トランプ遊戯法』
上殿重次郎 著 大正12(↑国立国会図書館デジタルコレクションにリンク)

(著作権状況が不明な資料であるようなので、画像の転載は控えます。リンク先からご覧ください。)

内容はブリッジ教本としてオーソドックスなもので、人数やカード(牌と書かれている)の強さといった基本的なところから「 如何なる塲合に「ノオトランプ」を糶る可きか」(原文ママ)といった本格的な戦術指南まで紹介されています。

「牌」もそうですが、大正時代の出版物らしく漢字やカタカナの表記が現代とは異なっていて、「これは一体何を指しているんだ…?」と考えながら読むのも面白いです。タイトルも「オゥクシヨンブリッヂ」ですしね。

ブリッジの教本では「ブリッジの用語は世界共通なので初めから英語で覚えましょう」と書かれていることが多いですが、この本でもほとんどの用語はカタカナ表記で紹介されており、当時から英語で覚えることがスタンダードだったことが伺われます。

この本の緒言を読むと、「我オゥクション、ブリッヂは英國に初まり亞米利加に於て撥逹した、最も新しいトランプの遊戯法である。」という記述があり、英米の最新文化を紹介するといった趣旨で書かれているようなのです。緒言の冒頭はもっとすごい。

 東西の文明史を繙いた人は、文化燦然として興起し正に爛熟の域に逹したる國民は必ずや諸種の遊戯に長じて居た、と云ふ事を否定する事は出來ないであろう。
 遊戯の盛衰が如斯其國文化の興隆弛廢を語るものとするならば、文化生活を高調して近代文明の精華を満喫せんとする我文化人は、擧って此オゥクション ブリッヂのエクスパートとならなければならぬ。
(『オゥクシヨンブリッヂ : 最新トランプ遊戯法』緒言より。漢字は原文ママを目指しました。)

近代文明を満喫する文化人はブリッジのエキスパートにならなければならないとは…日本でも「ある種の人々が身につけていて当然の教養の一つ」としてブリッジがあったということなのでしょうか?

この頃は国際ルールが出来ていない(コントラクトブリッジが完成していない)時代のため、この本では基本的なオークションブリッジ以外の様々なローカルルールでの遊び方も多数収録されています。

大正時代の日本人でありながら海外のゲームに詳しく、このような本を書き上げた上殿重次郎とは一体何者なのでしょうか?国立国会図書館にはこの本以外の所蔵がなかったのですが、ネットで検索すると、なぜか占星術研究者の鏡リュウジさんのサイトがヒット。

手元にある、1冊まるごとトランプ占いに当てた本は、大正14年の上殿重次郎という人の『トランプの占ひ』ですが、ここにも「グランドスター」が登場しているし、52枚と32枚の意味(正逆ともに)や、36のスクエアなどが出ています。どこか最初のソースがあるのかなあ。
(引用元:鏡リュウジ公式サイト「オカ研File No.24 カード占いの魅力 1」)

大正14年の話のようなので、同一人物と考えて良さそうですが、だとすると上殿重次郎はトランプの研究家か好事家か何かだったのかも知れません。機会があれば調べてみるのも面白そうです。

国立国会図書館にはこの本以外にもブリッジに関する古い本があるので、日本におけるブリッジ受容を調べてみると発見がありそうです。夏休みの自由研究のネタになり…ませんね、はい。ではー。

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