泥だらけのカッコいいキャプテン


2019年、FC東京はチーム史上最高成績となる2位でJ1リーグ戦を終えた。

“優勝できなかったシーズン”でもあったが、最終節まで優勝の可能性を残したチームはとても誇らしく、「ありがとう」の言葉しかなかった。

そのチームで常に先頭を歩き続けた男がいる。



頼りない38番からチームの「顔」へ

東慶悟。彼は2019シーズンが始まる前に二つの重役を背負った。背中には今までの38から新たに10の数字が刻まれ、腕には黄色い腕章が巻かれた。チームの象徴となりえる「10番」と「キャプテン」である。

2018年の東は確かに素晴らしかった。ただ、「本当に彼がキャプテンを務められるのだろうか?」という感情がどこか心の隅にあった気がする。



今まで見てきた38番の東慶悟はどこか頼りなかった。

ロンドン五輪で10番を任されたように非凡なテクニックを持ち、スペースへ抜け出すことも得意。元来は技術があるトップ下タイプだが、決して王様ではなく、チームのために走れる。チャンスメイクに長けたアタッカーで、絶対的なレギュラーとは言えないまでも、どの監督の下でもそれなりに出場機会を得続けていた。

一方で、サポーターの反応が最も反射的に、そして顕著に表れるゴール前でのプレーでは失敗が目立った。

ゴール前で点が取れる位置にはいる。しかし、シュートは決まらない。決定機を逸したあとは芝に突っ伏して空を見上げる。シュートを外したあと、インプレー中ながら自分のポジションへジョグで戻る背番号38には、ときにスタンドから心無い言葉が飛ぶこともあった。そうやって過剰にがっかりする彼自身の姿はどうしてもネガティブに映りがちだった。


もちろん歳を重ねるごとに精神面も向上しただろうし、家庭を持ったことでより一層責任感も増したはずだ。

それでもシュートを外して激しく一喜一憂する東の姿も頭の中にこべりついていた。


そんなどこか頼りない男がキャプテンとなることにいくらかの不安を感じていた自分が2019年を終えたときに思ったことがある。



「絶対に東と優勝したい」



「10番」と「キャプテン」1年生の男は、過去の姿にばかりとらわれていた自分のイメージよりも想像以上にたくましくなっていた。

不安に思うべきは「キャプテンを任された東」ではなく、「今と向き合えていない自分」だったのかもしれない。



シュートを外して空を見上げていた彼はもうそこにはいなかった。決して視線が下に落ちたわけではない。勝ったときも負けたときも彼の眼差しは常に前へ向けられていた。


そしてなによりも「顔」が違った。


普通であれば敗戦後にはスタンドが静かになる。ファン・サポーターも人間である。結果と感情は素直に比例するものだ。自分もその例には漏れない。


でも、彼の顔を見ると負けたあとでも気持ちが高ぶった。彼の姿を見ていると感極まってしまうこともあった。なぜかは分からない。

二つの重役を背負い、チームの「顔」となった東慶悟の「顔」には、こちらの感情を揺さぶる「理由なきなにか」が宿っていた。



映えずともカッコいい男

転びながら出したパスで味方の得点を演出するアシスト。力なく転がったボールがゴールへ吸い込まれるシュート。一番“映える”シーンではカッコよく決まっていないことが多いのも東らしさ。

たくさん走る。たくさん闘う。

試合が終わったときには背番号10のユニフォームが泥だらけになっている。東慶悟とは例えるならばそんな選手である。


一般的に見れば、スマートな「10番」でも、カリスマ性を持った「キャプテン」でもないかもしれない。

しかし、自分にとっては、汗まみれで泥だらけになったちょっとカッコ悪い「10番」と「キャプテン」がとてもカッコよく映るのだ。



東がカップやシャーレを掲げるカッコいい姿——


それをこの目に焼き付ける準備はとっくにできている。





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