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未来の自分? どこか見覚えのある人の助言で家族の危機を回避した話



この話、怖くはないので安心して聞いてください。

私が幼稚園生の時の出来事です。
三面鏡のあるお家の子だったらやったことがあると思うんですけど、
三面鏡の左右の鏡をいい感じの角度にすると、
無限に鏡の世界が続いていく「あれ」が大好きだったんですよ。

だいたい、お留守番の時のお楽しみが「あれ」で何時間でも鏡の前に座って
どこまでも続く鏡の世界を眺めては、どこかに違う人がいたりしないかと本気で探していたんです。

すっかり日が暮れて、薄暗い中、電気もつけずに鏡を見続けていた私はやっと見つけたんです。
鏡の中に髪の長い女の人を!

「うわっ」

とその瞬間、部屋の電気がつきました。

「何やってるの、電気もつけないで」

あまりにも驚いて、母にもそのことは言えずにいました。
それからは、鏡を覗くのが怖くなってあまり「あれ」をやらずに過ごしていたんですが、
またもやお留守番の日があり、
何もすることがなく暇な私はまた三面鏡の前に座ったのです。

今思うと、ちょうど私の小学校入学を期に母が働きに出ようと就職活動を始めていて、私の留守番が増えていたんだと思います。

相変わらず、鏡の世界は無限に続いていて、それは同じものの連続で違う人なんて写っているはずはないんです。

あれは幻だったのかなと思いながらも、心のどこかで
「またあの女の人に会えないかな?」
なんて思っていたんです。

でもやっぱりいなくて、
今日はこれでおしまいにしようと鏡を畳もうとした時

「待って」

と聞こえたんです。

私は慌てて、また鏡の世界を作りました。
でも、あの女の人の姿はありません。

すると、鏡に母の姿が写りました。
私の後ろに母の姿があるのです。
なんだか振り返ることができなくてそのまま鏡の中の母を見ていました。

これ、本当に不思議なんですけど
その後、私がこんなことを言ったそうです。(私は本当に覚えていません)

「お母さん、お胸の病院行ったほうがいいよ」

母の「えっ?」と言う声で
私は後ろに立っている母に振り向きました。

実はこの日、母は希望していた会社に就職が決まって意気揚々と帰ってきたのだそうです。
その割に鏡に映った母の顔は喜んでいるようには見えませんでした。
母はどうも気になることがあったのです。
左胸に何かゴロゴロと小石のような塊があることに。

でも、せっかく就職も決まり社会復帰を果たそうとしていた矢先なので、
病院にいくのをためらっていたのだそうです。

母はなんで私がそのことを知っているのか驚いたそうです。
でも、私の中では、そんなことを自分が言ったという記憶はないのです。

母はその後、いくつかの検査を受けてステージⅡの乳がんであることがわかりました。
就職は見合わせ治療に専念し、なんとか完治しました。

あれから30年、再発することもなく母はピンピンしています。
そんな母から断捨離するから欲しいものあったら取りにおいでと言われ実家を訪ねることになりました。

するとすぐに目に入ったのはあの三面鏡でした。
私は懐かしくて、また鏡の世界を作って覗き込みました。

驚きました。

そこに写っている自分こそ、あの時、鏡の世界に見つけた髪の長い女の人にそっくりだったのです。


無理やりに聞こえるかもしれませんが、あの日、鏡の世界にいた女の人は未来の私で、母の病気のことを伝えに来てくれたんだと確信しました。

私は台所でお昼ご飯の準備をしている母を鏡の前に呼びました。
鏡の話を伝えて母の命を救ったのは私よと言わんばかりに「すごいでしょう」と自慢げに鏡の中の母を見ると目をうるうるさせていました。

鏡の中で目があった母は恥ずかしそうに

「そう言うこともあるかもね」

といい、エプロンの裾で目を拭いながら台所に戻って行きました。

私ももうすぐあの頃の母と同じ歳になります。
念の為、乳がん健診は受けておこうと思います。

あっ、そう言うわけで母の三面鏡は私がもらうことにしました。
いつか、また未来の自分に会えるかもしれないので。

 おわり

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