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イケメン社員と彼を取り巻く女たちの嫉妬と野望が渦巻くオフィスドラマ

清掃員が見つけた秘密の箱にはいったい何が? 
そして真の黒幕は誰なのか!?



三田さんの置き土産


   会社の女子ロッカールーム 
   ドアが開き、数名が入ってくる。
葵衣「なんで掃除のおばさんに呼びつけらんなきゃいけないのよ!」
   不満気にロッカールームにやってきた倉田葵衣、辻井さやから女子社員。
清掃員「退社した方のロッカー掃除してたら、こんな箱があったんです」
   目深に帽子を被りマスクをつけた、清掃員姿の女性。
   指し示したのは、四角い抽選箱みたいな鈍色の箱だった。
さやか「あ、そこ三田さんの」
女子「で、何入ってんの?」
清掃員「鍵がかかってて開かないんです」
葵衣「置いてったんなら、捨てちゃえば」
さやか「でも、鍵かけてるってことは大事なものなんじゃない」
葵衣「そもそも大事だったら、忘れないでしょ」
清掃員「勝手に処分するわけにはまいりませんので、どなたかその方に連絡    とってもらえませんか」
女子「あたし、知らない。誰か知ってる?」
さやか「葵衣さん、親しくしてたんじゃない?ランチとかよく一緒にしてたでしょ」
葵衣「それは、席も近かったし仕方なく。辞めたから速攻ライン消しちゃった」
女子「ひっど~い。でも、私も三田さん、ちょっと苦手だった」
葵衣「てか、仲良かった人なんている?」
   顔を見合わせる面々。
さやか「あ、営業の葉山さん、三田さんと付き合ってたんじゃ」
女子「嘘でしょ?だって、真弓さんと結婚するって噂」
さやか「一応、聞いてみましょう」
   しばらくして、葉山裕翔がやってくる。
   さやかや葵衣を見て、ギョッとする。
葉山「女子ロッカーに呼び出されるなんて、俺、なんかやらかした?」
さやか「この箱、辞めた三田さんの私物らしいんだけど。葉山さん、三田さんに連絡してくれない?」
葉山「え、なんで俺?」
葵衣「葉山さん、三田さんと付き合ってたんじゃないの」
葉山「は?まさか、やめてよ」
さやか「一緒にいるとこ何度か見かけたけど」
葉山「飲み会の後、一度家に送ってっただけ。勘弁してよ。俺、ああいうい……や、タイプじゃない」
葵衣「だよね~。専務の娘さんと結婚するって噂だもんね」
葉山「誰がそんな」
さやか「どうなの?」
葉山「まあ、それはまだこれから」
さやか「進行形ってこと?」
葉山「もういいだろ。総務に住所聞いて送っちゃえばいいじゃん」
葵衣「そうよ、総務に任せれば。私たちがやることじゃない」
葉山「俺、午後イチにアポあるから行くわ。ったく」
葵衣「あたしもいいよね」
   さっさとロッカールームを出ていこうとする葉山と葵衣。
清掃員「ちょっと待ってください。ロッカーの天井にこんなものが」
   清掃員は、白い封筒を差し出した。
   さやかが確認すると、膨らんだ封筒の中には、手紙と鍵が入っていた。
さやか「悪いけど、読んでくれない?」
   さやかはその手紙を清掃員に渡した。
清掃員「みんな仲良くしてくれてありがとう。だけど、何で私一人が辞めなきゃならないの。本当は……」
女子「え、終わり?続きは?」
   手紙はそんな中途半端に終わっていた。
さやか「葵衣、なんか知ってる?」
葵衣「三田さん大きなミスして、会社に迷惑かけた責任取って辞めたって聞いてたけど」
さやか「開けて見ればわかるってことかしら」
葵衣「気持ちわるっ!」
葉山「悪趣味じゃねえ」
葵衣「おばさん、さっさとそんなの処分しちゃってよ」
清掃員「おばさんって、私のこと?」
葵衣「えっ?」
   皆、清掃員に注目する。
   清掃員が帽子を脱ぎ、マスクを取る。 
   そこにいるのは三田清果だった。
葵衣「三田さん……?」
葉山「清果!」
女子「!」
   驚く社員たち。
清掃員(清果)「じゃあ開けてくれる?」
   鍵を持っていたさやか、頷いて箱を開ける。
   中には、写真の束と付箋紙のメモのようなものが大量に入っていた。
   写真は葉山と清果のツーショット写真、葉山と葵衣が一緒に写った写真もあった。
女子「やっぱ付き合ってたんだ。てか、葵衣とも?」
葉山「おい、何」
清果「ようやく分かった。葉山さんはただ私が邪魔だった。専務の娘の真弓さんと結婚するために。葵衣は自分の仕事のミスを私のせいにしたかった。だから二人で」
葉山「止めろって。どうするつもりだよ」
葵衣「そうよ。こんな写真」
さやか「ねえ、この付箋紙のゴミは何?」
清果「葉山さんと葵衣は、この付箋紙でやり取りしてたのよね」
葵衣「なんでそんなもの」
清果「だって私、掃除のおばさんだから。ゴミ集めは得意なの。これ読めば、私を陥れた証拠が」
葵衣「あ~あ、やっといなくなってすっきりしてたのに」
清果「葵衣」
葵衣「ずっと嫌いだった。みんな言うの。三田さんは仕事が速い、資料が正確って。いっつも比べられて」
清果「だから、邪魔だった?」
女子「こっわ。三田さんがミスなんてするわけないって思ってたのよ、私」
葉山「もうわかったよ。俺が悪かった。頼むから」
清果「別に。もうどうでもいい。だけど、私がその秘密を握ってるってことだけは忘れないで」
葉山「どうするの、これ」
清果「どうしよっかな。真弓さんに送ってもいいけど。しばらくこのまま持ってるわ」
   清果、不敵な笑み。
    × × ×
   ロッカールームに清果とさやか。
さやか「見た?葉山さんと葵衣さん。真っ青な顔して出てった」
清果「うん」
さやか「真弓さんとの結婚はもうムリね。葵衣さんも少しは大人しくなるかな」
清果「どうかな。でも、さやかさんのお蔭ですっきりした」
さやか「そんな……私はただあの人たちが許せなかっただけ。これで良かった?」
清果「ええ。これで私、次に進めるわ」
さやか「箱、どうする?」
清果「こんなもの、ただのゴミ。もう必要ない。それとこれ……さやかさんの言った通り、この格好してればどこにだって入れた」
   清果は、小さな箱をさやかに渡し、出ていった。
    × × ×
   さやか一人残ったロッカールーム。
   手には鍵を持っている。
さやか「まだまだ終わらない。葉山が私の元に戻るまで」
   さやかが笑った。


〈作者コメント〉

【清掃員×鍵】をテーマに描いたオフィスドラマです
“ぶれるめん”では、「空想真理子だより」、ホラー「最高の‟赤“」など、他にもさまざまなドラマを配信してます!

           りょん

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