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雨漏りに不安のあるデザインは作り手の精神衛生上よくないよという話

今年も梅雨の季節になりましたね。この頃によく見る、雨粒が光って色彩がより豊かになるアジサイの花が好きです。

昨今、年中降るゲリラ豪雨や、ちょくちょく上陸する台風など、雨による自然災害が増えました。建築も同じで、むかしより雨の脅威にさらされる機会が増えたと言えます。


日本には、むかしから多雨多湿の気候に耐えるための工夫を凝らした建築がありました。古くて新しいこのテーマにいま、建築デザイナーも雨を凌ぐためのデザインの在り方を一度は深く考えたほうがよいと思うのです。

例えば、「軒ゼロの家」と、「パラペットゼロの建物」。
どちらも建築が純粋で、かつシンプルにみえるため、好んで使う建築家さんもいるようです。

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「軒ゼロの家」は、文字通り軒がほぼない家ですが、良いことも多いです。

先述した、建物がシンプルに見えてカッコよくなること。軒がなく、部材を少なくできるため若干のコストダウンができること。高度斜線など、高さに制限のある敷地では、軒を含めた建築の部分も高さ制限の対象となるため、軒がないぶん建物を敷地めいっぱいに建てられること。などが挙げられます。


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ところで、日本の伝統建築にはなぜ軒があるんでしょうか。装飾的な意味合いももちろんありますが、主として機能的な面において雨の吹き込みによる屋根や壁内への侵入を防ぐためです。

軒ゼロに対応した小屋裏の換気金物も、メーカーが売り出す商品としてあるわけで、また建築の事例としてたくさんあるわけで、一概にかならず雨が漏るとは言えません。家が建っている間、一生漏らないかもしれません。が、やはり水仕舞いのディテールとしては危ういと思うのです。


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パラペットとは、フラットな屋根の四周にある、コンクリートなどの立ち上がりのことです。この立ち上がりを設けることで、豪雨などで雨が少しくらい溜まっても、水面が立ち上がりを超えない限りは建物内に雨が入らないようになっています。つまりパラペットはフラットな屋根の建築にとってすごく重要な要素なのです。

パラペットゼロ建築とは、立ち上がりがとても小さい建築のことです。たまにデザインの素晴らしい建築で見られます。屋根より上の視点で見ると、パラペットゼロの建築はとてもすっきりして見えます。が、やはり雨漏りのリスクとデザインを天秤にかけると、パラペットは高さをとったほうがよいと思うのです。

パラペット高さは、僕の場合は30〜40センチ立ち上げて設計します。雨が地面に当たって跳ね返ったときの最大高さが40センチと言われているからです。

40センチあれば、どのような豪雨がきてもルーフドレンやオーバーフロー管(もし屋根に水がたまっても直接屋根から水が外へ流すための管)が壊れない限りは大丈夫でしょう。僕がいた組織設計事務所では、標準仕様が50センチでした。

建物はすべからく雨は漏らないほうがよいに決まっていますが、精密機器を使うオフィスや、病院など、絶対に漏らしてはいけない施設もあるので、ここは不格好になろうがパラペットはきっちりとりたいところです。

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パラペットをセオリー通りとったほうがよい建築と、低くてもよかろうという建築があります。


え?!パラペットの必要ない建築?ここまてパラペットはとても重要と言って裏切っちゃう話になるわけですが。


外壁も屋根もコンクリートでシームレスに繋げた鉄筋コンクリート造の建物は、パラペットの必要性が薄いです。ないとは言わないけど、緊急性が薄い。とはいってもコンクリートにも水は侵入するので、防水の立ち上がりといった役割でしょうか。

絶対にパラペットを確保しなければならないのは、木造や鉄骨造の場合です。構造上、屋根と外壁は違う部材なので、必ず部材間にスキマができます。そんな木造や鉄骨造にパラペット高さを超えて雨が侵入した場合、隙間から雨水がちょろちょろと入っちゃうことになるのです。うーん、設計者として恐ろしいですね。



軒ゼロもパラペットゼロ建築も、たしかに事例はあります。でも、あるからと言って無闇に手を出さず、採用する前に「ここは雨が漏るリスクがあるけれども、リスクを飲んでまでも本当に大切なデザインなのか」と、一度自分に語りかけてみませんか。

若い時はデザインのために、このセオリーを無視してパラペットを低くしたり、軒をなるべく短くしたり、色々やってきました。幸い、雨が漏ったことはないですが、最近気になり始めています。軒をちゃんとつくる、パラペットをセオリー通り高くする、はデザインの前に基本的なことと真に考えはじめています。

何より、安心感があるので精神衛生上良いんだとおもいます。背負う必要のないリスクはやっばり背負いたくないし、別のデザインで勝負かけて良いのでは。

建築をつくるさいは、必ず雨水と向き合わなければなりません、マスト。ちゃんと雨水の流れを意識して、安心したこころもちでデザインしたいですね、姿勢として。


(6月20日追記)設計を進めていくと、どうしても屋根を軽く見せたいとか、シンプルに見せたいとか、雨に対するリスクと求めるデザインがぶつかることがあります。そんなときは清濁併せのむ覚悟で、慎重にあらゆる方面から思考したいですね、猪突猛進にデザインするのではなく一旦しっかり考えたうえで、案を採用していきたいですね。

それか、軒を深くするなど、雨の凌ぎ方がすでにコンセプトになっている建築に思考を転換するかです。それはそれで今度は風に対するリスクがあるわけですが。

何が言いたいか誤解を恐れずに言うと、他のビジネスと同じように、ノーリスクの設計は必然的に世間一般のディテールになってしまい、とてもつまらないものにできる可能性がある。悩んで、少しくらいのリスクを飲んでできた建築はとても魅力的になりうる、ということでしっかりリスクを取捨選択していこうよ、という話です。


ぱなおとぱなこ

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