見出し画像

”さびがつくる風景” 島根県立古代出雲歴史博物館(建築物語22)

今回は、島根県出雲市にある博物館を紹介していきます。国宝「出雲大社」のすぐ隣にある、出雲大社にまつわる歴史・文化を学習できる博物館です。

設計は槇文彦さん。代官山にあるヒルサイドテラスや、幕張メッセを設計した建築家です。前回でも「風の丘葬祭場」を記事に書きました。


出雲大社の東に位置するこの博物館には、出雲市駅から一畑電車に揺られて20分ほどでアクセスできます。



画像1

画像5

出雲大社から北に頂く山をバックにした、ゆったりとしたロケーションです。この建築は、展示棟の閉じたヴォリュームと、動線となるホワイエ棟のガラスボックスからなります。

閉じたヴォリュームは、コールテン鋼で覆われています。赤茶色のサビが木の幹のようにゆらぎのある素材感なので、自然景観と不思議にマッチしています。




画像2

コールテン鋼は、敢えてサビを出した鉄鋼でして、サビにより鉄板に皮膜をつくることで、耐久性を失わないようにしている素材です。

通常はサビにより厚みが損なわれるわけですが、材料の厚みは保ったままサビを付着させることにより、今後サビが生じにくいようにしているという、矛盾してるようなそうでもないような不思議な素材です。

元々は、船の素材として使われていたようです。近年はデザイン要素としてコールテン鋼が使われていますね。サビの表情はパネルごとに違い、魅力的な風合いのある素材です。



画像12

コールテン鋼の外装はガラスボックスを取り合ってインテリアに入っても同材、同ディテールのため、圧巻のコールテン鋼の連続感があります。




画像3

吹き抜けのホワイエの終端には、✖️印のブレース(筋交い)があります。アクセントになっていて、かっこいいですね。




画像4

2階ブリッジのエンドに経つと、ガラスボックスから山並みが望めます。ここはちょっとプランとしては機能のない場所で、必然性が弱い。

安藤忠雄の建築に見られるような、建築から眺める景色のデザインといいますか、建築家の意図が強くが感じられる空間です。見た目には谷口吉生さんの建築に似ているところがありますが、谷口吉生の機能の必然からにじみ出るストイックなプランニングとは似ていません。



画像6

エントランスからの廊下は、金属パネルが植栽の緑を映し出しています。コールテン鋼とガラスボックスとの構成が美しいです。サッシの見付(外から見えるサッシ巾)が小さいので、ガラスボックス感が現れています。



画像7

展示室内部の様子です。オーバルに切られた天井からの照明がいい雰囲氣です。博物館だから仕方のないことでしょうが、のぼりやお知らせといった、雑然としたものが目につきました。

運営と設計は完全に切り分けられているため仕方のないことですが、少し残念です。設計のエゴかもしれませんが、お知らせやのぼりを掲示する場所をデザインすることの重要性を感じました。



画像11

光る石材のベンチ。暗めの空間のアクセントとして良く効いてます。透過する石材の内側に照明器具が設置されています。ベンチなのに何か建築を見ているようです。



画像8

空調は、すべて窓周りにある床吹き出し空調となっています。こういう高天井とか、吹き抜けの多い空間では床吹き出しスタイルは大変便利ですね。SANAAも多くの建築で多用しています。



画像9

サインが可愛らしい。コールテン鋼をバックによく映えています。



画像10

こんな物量でコールテン鋼を用いる建築を見たのは、この島根県立古代博物館が初めてです。

僕みたいな若造が使おうとすると必ず当たる壁があります。それは汚れに対する反論です。確かにサビが周りに色を移すので、クライアントからは嫌がられます。サビに対するイメージも良くないようですし、高価ですしね。

けど、メンテナンス性は確かに良いし耐久性もよい。何より風合いが好きなので僕もいつか使ってみたい。

ロケーションの豊かさにおいては抜群で、コールテン鋼が良い意味で映えている建築です。風合い豊かな素材感。その一方で、ガラスとアルミ色の無機質さが歴史的意味のある台地という場所性ではたして正解なのか、小さく疑問に思いました。サビのもつ表情の豊かさと、無機質という対比のデザインのねらいなのかもしれません。

とはいえ、ロケーションも良いですし、建築としてとても見応えがありました。


ぱなおとぱなこ








よろしければサポートお願いします!いただいたサポートはリンゴ、、じゃない取材費に使わせていただきます!