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労働価値説と交換価値の一尺度②〜経済学原理第二章第四節〜

 この節でマルサスとリカードは、一見すると極めて背理的な命題を肯定している。彼らは労働の価格が高まる(労働者の購買力が向上される)と、様々な種類の商品の価格が下がると考えた。リカードは本書において、「穀物の価格が値上がりすると、労働者の賃金が高くなり利潤の低下する場合においては、全ての商品の価格が上がるとは限りないどころか、下がってしまう種類も多い。マルサスはこの見解に同意してくれるだろう」と主張した。一方のマルサスも、「リカードは賃金が上がることは利潤の低下と同じ意味だと捉えている」と考えていた。
 もっというならマルサスは、「利潤が下がってしまうことは、固定資本(土地や建物など)を使う量によって、できた利潤を元に作られた商品の価格の低下を引き起こすであろう。これはだれも否定しない見解である」とまで具体的な見解を述べていた。労働者の賃金が高騰することは、固定資本の量を維持することや増やすことの妨げにもなり得る。結果として、「安かろう悪かろう」の商品が増えていくことになる。これが、有効需要(労働者の購買力)が上がっているにも関わらず、商品の価格が低下する仕組みというワケだ。

 商品価格の下落により利潤が減少することと、労働者の賃金が高騰することが同時におきてくると、採算が合わなくなって、事業者はその商品を供給しないように思われる。もちろん商品価格が上昇して、賃金の高騰を十分補えるケースもあろう。また、事業主は赤字を出すことが続いても、商品の供給がなかなか止めれないケースもそれなりにある。製造業などおいては、作業を継続しなければ、労働者の熟練した技能の維持が困難だといえるからだ。ちなみにマルサスは、労働価値説を否定しているように見える主張もしており、本書の経済学原理からそのまま引用すると以外の通りである。

 「そしてつぎのようにいうのは正しいことではありえない、『どんな貨物も、賃銀があがったという理由からだけでは、交換価値においては高められない、貨物は、賃銀がさがっても、あるいは賃銀を測る媒介物が価値においてもさがっても、その生産により多くの労働がなぜられたときにのみ高められる』」(小林時三郎、1968年1月16日、マルサス経済学原理上、P134〜135)

 上記のマルサスの主張は、人間の労働が商品の価値を決めるとする労働価値説には、限界があるという発想だろう(リカードも一応それに同意している)。これらに関する問題はリカードはもちろんのこと、マルクス経済学においても十分に解消されずに今日に至る。