見出し画像

ありがとう、桂ざこばさん

京都の看護学校時代、春には恒例の新入生歓迎ハイキングが催された。私は生徒会委員でもあり地元でもあったので二年生の冬には既に来年度の春の『新歓ハイク』に向けて実行委員会を立ち上げ、企画・審議を進めていた。

当時、関西圏の看護学校には九州・中国地方から親元を離れて寮住まいで来る学生さんが多かった。地方は国公立の看護学校が少なく競争率が高いのだ。実際、入学してきた同期は皆賢かった。

初めて親元を離れ、初めて京都で生活を始める後輩達に、まずは京都を知り、楽しんでもらいたい、との思いからコースを決め、グループ分けをし、タイムマネージメント、難しすぎないクイズ問題、賞のプライズ購入、そして、経路の安全確認や地元ならではの観光客があまり(当時は)知られていない綺麗な細道や穴場をリサーチ。

そして当日、広沢の池から大覚寺、二尊院、小さなお寺を巡りつつ竹林からの渡月橋、嵐山中之島がゴール。嵐山への逆アプローチコースとなった。

途中の山中でちょっと休憩となった時、人から離れて崖の下が見渡せる縁に立ってみた。風が気持ちいい〜。見ると急斜面の下の谷間を列車(今思えばトロッコ列車)が走っていた。「へえ、こんな所に列車が走ってんねんな〜」私が思ったまんまの言葉。いきなり隣から聞こえてきてびっくりした。

いつの間にか横に一人の小柄なおじ様が私と同じように谷間を見下ろして風に吹かれてリラックスされいた。山登りに全然相応しくない、一目で高級スーツをお召しと分かるその人のお顔を見てびっくり。「あ、ざこばさん、、、、こ、こんにちは。」変装もサングラスも何もされていない、まんまざこばさんだった。

京都には日本人・外国人問わずプライベートで訪れる芸能人が多い(と思う)。外国人のセレブにとっては言葉の問題でパパラッチが来ない事、どんな有名人も日本に来ればただの外国人観光客にしか見えないから(オーラを隠すのがお上手)皆ほっておいてくれるのが心地良いらしい。

さて、ざこばさん。

私はTVで観てよく知っている。上沼恵美子さんとのボケとツッコミは大好きだった。でも、ざこばさんにしてみれば私はただのネーチャンだ。どうしよう、嫌がられるかな、プライベートだろうな(マネージャーさんらしき人は周りに居らず)、ゆっくりしたいかな、でも、お願いするだけしてみようかな。

「あの、私たち、近くの看護学校の学生で、今日新入生達の歓迎ハイキングで嵐山に来てて、あの、一緒に写真撮って頂けませんか?」

ふっ、とお顔が緩んだざこばさん。笑顔で「ええよ。」とあっさりタバコを消された。「みんな〜!ざこばさんと集合写真撮るよ〜!!!」と声をかけるとどこに居たのか30人位の学生があっという間に集まった。ハイ、チーズ。

皆、握手してもらって、お礼を言って、思いがけないサプライズ。「本当にありがとうございました。これからも頑張って下さい!」とお伝えすると「あんたらもええ看護婦さんになりや。」とおっしゃった。

次に向かって歩き始めたところで後ろを振り返ると、ざこばさんがおばちゃん集団に揉みくちゃにされていた。あ〜、申し訳なかったな。でも。嬉しかったな。

ざこばさん、たくさんの笑いをありがとうございました。
May your soul rest in peace.



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?