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現場を知る

ずっと以前、仕事のボスに「こんな面白い番組があったよ。見てごらん。」と勧められたTV番組があった。

いわゆるドッキリ系。
会社のトップ(CEO)がその肩書を隠して新人として現場の仕事に潜入。自分の会社の現場の仕事を体験する、という作戦だ。

私が観たのはゴミ屋さん。
そう、ゴミ収集所だ。

ベルトコンベアで次々流れて来るゴミ袋をバラし、中からゴミを出し、分別して別のラインに次々乗せる。これだけだ。でも、凄かった。

アメリカのゴミは基本、分別が出来ていない。

一応、ビン、缶、ペットボトルは別回収されているけど、本当にそれらがリサイクルされているのかどうかは分からない。

お庭がある一軒家も多く、ガーデニングが好きな人も多いので食事の生ゴミや芝刈り、剪定した木や草などを収集し、堆肥化する自治体もあるにはある。

でも、それ以外は全部ゴミ。長らく飽食暖衣が豊かさの象徴とされる文化だったから、それはそれは凄まじい量のゴミがやって来る。コンマリさんは現在アメリカで大ヒット中。

さて、Cさん。
手袋とゴーグルをしながら「今日からここの配属になったCです。よろしく。」と列に入る。皆、無愛想に「あ〜。」とか「お〜。」とか。でも手は止めない。パッパ、パッパ、目にも留まらぬ早さでゴミを仕分ける。

働いているのは圧倒的に黒人のおじさんやおばさんが多い。中には移民っぽい人もいるけど白人はまずいない。Cさんだけ。

「おめえ、この仕事経験あんのか?」と一人のおじさんが聞いた。「いや、ない。初めてです。」と答えると「これは、こっち、これはあっち。次々来るから間違えないようにするんだぞ。オレ達の仕事は時間との勝負だ!」とぶっきらぼうに教えてくれた。こういう指導員を英語ではジョブシャドウ(Job Shadow)と呼ぶ。

「おめえ、何でこんな仕事に来たんだ?(白人のお前ならこんな安くて危険な仕事以外にも求人はあっただろうに、と暗に仄めかしている。)」「いや、何かこう、経験してみたくて。(ネタバレは厳禁なので歯切れが悪い)」「経験ならもっといいのがいっぱいあるぜ〜!はっはっはっ!!」と下ネタでまわりを笑いに巻き込みCさんが馴染めるようにしていた。ぶっきらぼうだけど、優しいJさん。この間、手だけは止まらずパッパ、パッパ。

頑張ってゴミを仕分けるCさん。でも、周りは10倍速だ。堪らずJさん「おめえ、遅いなぁ!こういうのはな、見て判断しないで、触って素材を感じるんだよ。」と教えていた。う〜ん、奥が深い。

その時、向こうの方で「パンッ!」と何かが爆ぜた音がした。町中ならガンシューティングかとまず伏せる場面だが、この時はJさんが間髪入れずに「大丈夫だ。ガスボンベが破裂したんだ。破片が飛んでくるかもしれないから気を付けろよ。」と教えてくれた。ゴーグルを付け直すCさん。この間も手はパッパ、パッパ。ベルトコンベアは流れ続ける。

そして、お昼休みのブザー。
ベルトコンベアがやっと止まり撮影クルーが入って来て、改めてCさんを紹介した。彼はこの会社のCEOだ、と。その場にいた全員、あぼ〜ん。従業員の皆がどう思ったかは知らない。

その後、現場従業員達の基本給と危険手当は値上がりし、ゴーグルと手袋はもっと丈夫な素材の物が支給されたという。Good job,Cさん!


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