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6 東南アジアうっかり時差(タイ:バンコク→マレーシア:ティオマン島)

 数字に弱い。
 で、数字のことを考えるのが煩わしい。
そんなんだから、両替レートが良いとか悪いとか深く悩まず、必要なときに必要なだけ替えていた。買い物しても食事をしても、円に換算なんてことはしない(できない)。1日にどれだけ使った、と記録したこともなく、いつもどんぶり勘定だった。
 旅の数字と言えば、時差、というのもあるけれど、これも苦手。家に消息を知らせる電話をかけようと思いたったとき、今ここが夕方5時15分で時差が3時間半だから日本は・・・時計の絵を描かないとわからない。

 タイとマレーシアには1時間の時差がある。そして陸路の国境が2箇所ある。
 初めての国境越えは、クアラルンプールからバンコクまでの列車だった。夜、クアラルンプールを出て翌朝バタワースで乗り換え、パダンプサール駅で出入国の手続きをする。そして、壁に掛かった2つの時計がそれぞれタイ時刻とマレーシア時刻を示しているので、自分の腕時計をタイ時刻に合わせる。

 数年後、今度はタイからマレーシアに向かった。バンコクから列車で最南端のスンガイコーロクまで行き、歩いて国境を越え(小さい橋を渡る)、マレーシア側のランタウパウジャンに入る。そこからバスでコタバルに出て、さらにメルシンまで夜行バスに乗り、メルシンから船でティオマン島へという算段。
 とりあえずコタバル行きのバスを待つ間、屋台カフェでコーヒーを啜りながら、そうそう、時差があるんよね、と腕時計を1時間遅らせた。タイより1時間早いマレーシア時間に合わせたつもりだった。・・・もうお察しですね・・・わたしは今こうして書いていても混乱するけど、間違えた。1時間進めないといけないのだった。
 マレーシアの長距離バス網はとてもシステマティックで、旅行者にもわかりやすく、バスもバスターミナルもすばらしい。コタバルのこじんまりしたターミナルのオフィスで夜8時発のメルシン行きチケットを買った。まだ夕方だったので、町をひとまわりして、ショッピングモールのダイビングショップでゴーグルを買い、夕食をとり、ナイトマーケットを見物した。ああ楽しいなマレーシア。そして、8時前にバスターミナルに戻った。

 が。8時を過ぎてもメルシン行きは来ない。変だ。マレーシアのバスが遅れるなんておかしい。
 オフィスの窓口でチケットを見せる。このバスまだ来ないんですけど・・・。
 すると係員のおじさんが壁の時計を指差して言った。「あんた、もう、10時過ぎてるで(関西弁意訳)」
 それでもまだ数秒、意味がわからなかったわたしは、どんだけアホやねん。ようやくランタウパウジャンで時計を合わせ間違えたことに気がついて、倒れそうになった。あああああ・・・腕時計、1時間進めなあかんかったんやん・・・

 外ではバスが何台か発車時刻を待っていたけれど、今日のメルシン行きはもうないらしい。ああ今から宿探しはめんどくさすぎる・・・。

 自分がどんな悲壮な顔をしていたか知らないが、係員さんが気の毒そうに「ちょっと待っとき」と、オフィスを出て行った。1台のバスの運転手に何か話しかけている。そして、戻ってくると「あのクアンタン行きが11時に出るから乗ったらええわ。席、空いてるねん。明日の朝クアンタンに着くから。で、クアンタンからはメルシン行きが沢山出てるから、乗り換えたらええよ(関西弁意訳)」と言ってくれた。
 なんて、なんて親切なんだマレーシアのバス。

 テリマカシ・バニャッ。サンキューソーマッチ。
クアンタンまでのチケットを買い直そうと金額を尋ねたら、今持っているチケットで乗っていいと言う。その代わりクアンタンからメルシンまでは自分で買ってや、と。
 ああほんとにありがとう。100パーセントわたしが悪いのにそんなに親切にしてくださって。わたしも帰国したらいい人になります。

 こうしてクアンタン行き夜行バス(きれい、涼しい、快適)に乗せてもらい、クアンタン(大きな街だった)からメルシンへ、そしてメルシンの港から船で美しいティオマン島へ渡ったのだった。

 何週間かのち、逆ルートでバンコクへ帰ったのだけど、そのとき時計の時差をどう処理したのかは覚えていない。たぶん間違えなかったと思う・・・。


 

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