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冬だな!

今年(昨年?)の冬も結局、あんまり寒くなかったなあ。

となんとなく物足りなく感じている自分がいることに気づいた。

確かに、寒いのはもちろん嫌いだけれど、せっかく四季がある国なのだから、どうせなら耳当てが欠かせなかった少年時代くらい皮膚をヒリヒリと突き刺さす寒さを体感したいものだ。

そう言えば、冬の寒さを最後に体感したのはいつだっただろう。

と考えたときに、明確に、ある情景が僕の目に浮かんできた。

それは今から7年前の師走のある日のこと。

その日は、仕事でお世話になった女性デザイナーと差しで忘年会をしていた。

確か新宿か恵比寿で一次会をした後、まだ飲み足りない、というか、話し足りないと思った僕らは、彼女の自宅の最寄駅の西荻窪に向かい、彼女が行きつけの小さなスナックみたいなバーみたいなお店で飲み直したのだった。

これまでも仕事で知り合った若い女性と2人きりで飲むことはあったけど、彼女たちが住んでいる家の近くで飲むことはなかった。

それは、そんなつもりも勇気もさらさらなかったけど、お酒の勢いで自分が送り狼になってしまうことを恐れていたからだ。

しかし、その日はなぜこういう展開になったかと言うと、ぶっちゃっけ、彼女がそんなに可愛くなかったからだ。

と、どさくさにまぎれてひどいことを言ったけど、それは実は僕も同じで、彼女の態度から、明らかに異性として戦力外通告されているのはきちんと伝わっていた。

そんな似たもの同士の僕らは、彼女がいきつけの、やけに暗いなあ、という印象しかないそのお店で、時が過ぎるのを忘れるくらい、とことん話し込んだのだった。

まあいい感じで仕上がってたから、もちろん何を話したかなんてほとんど覚えてないけれど。

ただ彼女がバルセロナのサクラダファミリアをはじめとするガウディの建築物が大好きで、現地の写真を見せながら、その魅力を語っていたことだけはとても鮮明に覚えている。

そして、そのときの彼女は、あの柴犬みたいなつぶらな瞳がキラキラと輝やいていて、思わずドキリとしてしまうくらい可愛かった。

店が閉店時間を迎え、二人が外に出ると、空からは雪が降っていた。

当然、終電はとっくになくなっていたから、その場で彼女に別れを告げて、僕は歩いて家まで帰ることにした。

僕の家は中央線沿いにあったから、線路をひたすら2時間くらい西に向かって歩けば、迷子にならずにちゃんと辿り着けるのだ。

しかし、雪が降る深夜の人気のまったくない東京の街は、想像以上に寒くて、冷気が容赦なく頬を突き刺してきた。

けれど、そんなことお構いなしに、ガシガシと街灯に青白く照らされたアスファルトの道を僕は行軍した。

冬だな

と思った。





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