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お父さんVSカンガルー

生きていれば卒寿オーバーの父は、なかなか面白い武勇伝を持っていました。
令和の現在ではあり得ない話も。

例えば、父が20代の頃。
地域に初めてのパトカーが導入された時(すんごい昔)。
記念式典の来賓としてテープカットに参加した夜、タチの悪い人達(今でいう反◯、半◯レ)にからまられて
「反撃したらやり過ぎちゃって。パトカーに乗ったのも、お父さんがいちばん最初。一緒にテープカットした警察の偉い人が驚いてた。ふふふ」
かなりボッコにしたみたいですが、自己防衛だったからお説教で済んだ、と。
ふふふ、じゃないのっ!

そんな武勇伝の中で1番好きなのが、カンガルーとの闘い。
お祭りの話をしていた時
「お父さんが子供の頃、カンガルー(と)ボクシングっていう見世物小屋があった」
「?カンガルー(の)ボクシングじゃないの?」
??
父の話によると、カンガルーとお客さんが戦う、という見世物があったそうです。
それを見てほかのお客さんが盛り上がるらしいのですが、安全面からも動物愛護でも、今では考えられない。
父は子供時代に何度も参加、お祭りが3日間あれば…。

1日目 お金を払って入場、リングアナ的な人の「闘いたい人、いますか!」の声に手を挙げてリングへ。そして、カンガルーに勝つ。賞品として入場券を貰う。
2日目 小屋へ行くと「お!昨日カンガルーに勝ったぼうず、今日もやるか?」と言われ、闘いを条件に顔パスで入場。昨日もらった入場券で友達を招待。カンガルーに勝つ。入場券ゲット。
3日目 2日目と同じ。

どうやったら勝ちになるのか、まさかK.O.は無いとは思いますが、カンガルーに勝ち続けた、と言っていました。
誰でも勝てる訳では無く、大人でも難しいのに子供の頃に勝っていたとか。
お客さんも喜ぶし、友達も入れるし、可哀想なのはカンガルーだけ。

と、いろんな武勇伝を語ってくれた父ですが正直なところ、私はあまり信じていませんでした。私達を楽しませるために作り話、とまでは言わないけれど、だいぶ盛っているんだろ〜な、と。
だって、優しいお父さんが誰かに暴力をふるうなんて見た事がありませんでしたから。

あの日まで。

私が中学生の頃、近所のおじさんが酔って他人の家で暴れるという事件が町内で多発していました。
ある夜、その人が遂にわが家に。
自称元柔道選手、身長多分180センチ以上、若い頃はガッチリしていたのだろうけど、そこから緩んだ大きな体。
父は会合で不在、勝手に2階に上がってきて母と口論。可愛らしい見た目と違って超〜強気の母は自分より約30センチ以上も大きくて、わけのわからない事で怒鳴る男を相手に一切怯まずに対応していました。
いち早く異常に気付いたのは祖母。
(うちの娘に何をする!)の勢いで間に割って入りました。
父方の祖母ですが、母を(うちの嫁)ではなく名前か(うちの娘)と称していました。
祖母が母から男を遠ざける為に胸ぐらを掴んで階段の所まで来た所に父が帰宅。
階段を上がって来た父の頭を男がいきなり殴り、息子を殴られた祖母が激怒、なんかよくわからんが、悪い噂の近所の男と自分の母親がもみ合いになっているのを見た父は…。

凄っ!

男を祖母から引き剥がし、躊躇なく階段の下まで蹴落として…。
とにかく圧倒的に強く、相手に反撃の隙さえ与えませんでした。

今でも父をカッコいいと思います。
ものすごい強さで相手をやっつけたからではなく、父が腕力で誰かを制圧したのを見たのは後にも先にも、あの時だけでした。
あれだけ強いのに力ではなく、それ以上に強い優しさで私たち家族を守ってくれていました。
本当に強くてカッコいい人です。

お父さんは強かった。
カンガルーに連勝したのも本当だったんだねえ。
信じてなくて、ごめん。
だって…カンガルーって…。







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