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銀河鉄道999 2巻 第3話 狼は生きろ豚は死ね

「17億6千5百万人のルンペン星」
停車駅:プラネットベガー

 「くさいなー」
 今回は鉄郎のこんな一言からはじまります。

 くさいのは当たり前、プラネットベガーに到着した999の周りにはおびただしい数のルンペンが取り囲んでいたのです。この様子が描かれた見開きページをはじめて見た時の迫力は今でも忘れられません。
 メーテルがこの星の解説をするのですが本当に耳を疑います。
「人口は17億6千5百万人、ひとりとして働く意思も気力もない総ルンペンの星・・」
 続いてなぜこんな星になってしまったかも教えてくれます。
「大昔はこうじゃなかったの・・この星の支配階級は汚職やワイロで人生を楽しんでいたし・・人々はいくら働いても暮らしが楽にならなかったの。どうやってもダメだとわかった時 人々は人からおもらいをしてくらすクセがついたの」

 マンガのようなこの状況、ですが現在の日本とは本当に関係ないといいきれるでしょうか。
 恐ろしくて読み進めるのがつらくなります。プラネットベガーの話を誰か国会で話してくれたら、日本の行く末をありありと感じられるのではと思ってしまいます。
 外では住民たちが叫んでいます。
「もらえ!もらえ!なんかくれ〜」
怖い!怖すぎる!
 そしてそんな星の住民に囲まれた中を999は発車します。宇宙へ旅立つ999に、人々はまだ何かくれと叫んでいるのです。

 あれ、もう出発?いいえ、ご安心ください。ちゃんと事件が起こります。
 なんとプラネットベガーの住民の一人が999に乗り込んでいました。そして鉄郎とメーテルに粗末な弓矢を向けて叫びます。
「なんかおくれ・・じゃなかった 金を出せ!」

 強盗という手段に訴えたこの男、年は鉄郎とそんなにかわらないでしょう。くさいし着ている服はボロボロです。さて、読者はこの若者にどんな印象を持つでしょうか。
 先ほどまでのルンペンの群れ。その中から現れたこの青年に私が抱いた印象は決して悪いものではありませんでした。やってることは犯罪です。でもこの先何も変わらないであろうあの星にこの青年が現れたことの意味はとてつもなく大きいと思います。変化、この星に何より必要なのは変化だと感じます。

 そして、やはりというか何というか、鉄郎は弓矢しか持ってないこの青年にこっちの方がうまく強盗ができると言ってライフル銃をあげてしまいます。そしてメーテルは一緒にきていた青年の恋人に服をあげるのでした。そして、メーテルが2人にこう告げるのです。
「あなたたちはもう乞食じゃないわ 強盗よ」

 最後には最後尾の車両を切り離し、そのまま逃してあげます。車両をあげるってどんな権力なんでしょうか。鉄郎はできる事全てをあの二人のためにしてしまいます。

 そしてこのエピソードで松本氏がもっとも伝えたかった事が語られます。
「あなたがあの人にあげたのはライフルだけじゃないわ 「友情」と「信頼」というこの世で一番尊いものをあげたのよ」「やっと強盗になれたあの人はあなたからもらったものを土台にして鉄の信念をもつ強い男になるに違いない」

 これはひとつ間違えると危険な考え方です。今厳しい現実がある人にとっては悪事を正当化する事にもなりかねません。食うものも食えず圧政に苦しんでいれば革命に訴える人が出てくるのもわかります。歴史上そういった例はたくさんあるでしょう。それが全国民がルンペンになる事よりいいのかどうかはわかりません。でもこれは個人の意見ですが、日本のような若者が少ない少子高齢化の国はもしかすると一億総ルンペンの道を歩んでしまうのではないかと思うのです。

「切りはなされた客車がどこへいったか鉄郎は知らない・・乗っていたふたりがどこへいったか鉄郎は知らない・・
ただいつも目をつぶると鉄の意志をもったあの男が片手に鉄郎がおくったライフルをーその胸にあの美しい少女を抱いて戦っている姿が浮かんでくるのだ・・
鉄郎はそれがとてもうれしい」

 今回の題に使った言葉は1979年の映画「白昼の死角」のキャッチコピーでした。

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