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銀河鉄道999 1巻 第9話 一番美しい光

「水の国のベートーベン」

停車駅 4D-3

 みなさんお待たせしました。
 これまでの停車駅は正義、希望、夢などから程遠いところばかりでしたが、とうとう少し希望があるエピソードが描かれる回になっています。
 ほんとに少しだけですが・・

 次の停車駅は水だけの星。表面だけではなく中心まで水だけの、宇宙に浮かんだ水滴と言うべき星。
 毎回予想もしない世界設定には驚かされっぱなしです。その水滴の中に僅かに陸地があり人々はそこで暮らしています。鉄郎も思わずまるで童話だと呆れてしまいます。

 駅に着くとそこはまるで日本の田舎のような世界、自然にあふれ空気がとてもおいしいところ。4Dー3の法律は「自然のままに」がモットーで自然の妨げになるものは駅も建物も作らないのだそうです。この極端さがまた何かのメタファーなのでしょうか。

 こんなに平和そうなのにメーテルはまた不穏な発言をして鉄郎をびびらせようとします。
「童話みたいに美しくも楽しくもないところだわ・・」
おそらくメーテルは全停車駅を熟知しているのでしょう。
 泊まるところも民宿のようなところで露天風呂があったりします。そこで恒例のお風呂タイムが始まりました。もちろん混浴です。自然豊かな場所で風呂に入っているとピアノの音色が聞こえてきました。よく聞いているとそれはベートーヴェンの「月光」のようです。自然豊かな環境ゆえなのか文化レベルも高い星のようです。

 しかしいつものようにここで事件が起こります。入浴中の二人に突然男が襲いかかってきました。さすがのメーテルも入浴中では抵抗すらできず、パスを取られないように叫ぶのが精一杯です。このパス泥棒のくだりはもはやお約束になってきました。そして戦士の銃を取り構える鉄郎。
 しかしそこに旅館の女将の登場です。なんとこの暴漢の正体は民宿の一人息子なのでした。

 とうとう観念した息子は言います。
「こんな電気もろくにひいてないへんぴな草と虫ばかりのところから・・もっともっと進んだ大都会のある星へ行って・・そこで幸せになりたいんだ!こんなところでくらすのはもういやだ!!」
 地方出身の方には身に覚えがあるのではないでしょうか。今まで読者はあくまでも観光地を訪れた旅行者目線で田舎を楽しんでいました。それは鉄郎も同じだったでしょう。しかしそこで暮らす人々はいます。特に若者にとってそこには絶望しかないところに感じる事でしょう。

 先ほどの曲もこの若者が作っていたのだそうです。この若者の夢は大作曲家になること、いつか大ホールで大観衆を前に演奏することだと言います。
 これはおそらくまだ福岡県にいたときに松本氏自身が感じていたことではないでしょうか。田舎暮らしが良いなどと思うのは年寄りだけで、不便な環境、閉鎖的な村社会など若者にとっては何の希望も見い出せないところだということを考えさせられます。
「ここの自然は美しいけれど人の平均年齢はよくいって60才ぐらい 私たちはこのままの体で百才までは生きられるし・・」
 メーテルは外から見ただけではわからない現実を語ります。
「どちらかがまちがっているなんていえる人はどこにもいない・・宇宙の歴史が全部終わってみないとわからないわ・・」
 外から見ると清らかに輝く水の星も、現実に幸せかどうかは住んでいる人にしかわかりません。しかし若者の胸にはどんなところでも希望の光が輝いていると物語は語っています。

「どの人の胸の中にも一生のうちのどこかで一度は希望という名の光が火のように燃えて輝くときがあるとカシオペアで死んだ老詩人がかいている・・たとえまちがったものをめざす希望の光でもそれはとても美しいものだと・・
そして それより美しい光は宇宙には存在しないともかきのこしている」

 最初にお話した通り希望のあるエピソードで1巻は終了となります。
 このような読みにくい文章にもかかわらず、ここまでお付き合いいただいた皆様ありがとうございました。今後もゆっくりと書き続けていければと思っています。
 次回は999屈指の傑作エピソード 2巻 第1話「大四畳半惑星の幻想」でお会いしましょう。

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