#1 『雨』
見上げると、空は黒い雲に覆われていた。
湿った土の匂いが、朝露のしっとりとした空気とともに鼻腔から肺へと流れ込む。
世界を打つ慈雨の音はもう聴こえて来ない。
雲の隙間から差し込む光が、濡れた芝生を輝かせ、夜の冷たさを、朝日がゆっくりと溶かしていく。
雀の囀り、風に揺れる葉擦れの音色、まな板を叩く聴き慣れた情景。
瞬きの間に終わったと思ったら、少しだけ景色を変えて戻って来る日常を。
私は、1秒でも長く、視ていたい。
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