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Utopia-理想郷-

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とある外套

王さまと私は相変わらず歩いている。外套がとても重そうで歩みを阻んでいるようだったので、わたしが持ちますよ、と、預かって差し上げた。私も外套を着ているのだが、そんな私を見上げて、なんだか落ち込んだような顔をされるのだ。気持ちはなんとなくわかる。分かるし、外套を着られたままでもわたしは一向に構わなかった。外套に押しつぶされて、わたしの王さまが歩みを止められたとしても、わたしも横に座って王さまが立ち上が

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hortus -私の庭園-

葉から雫がするりと落ちていく。その先に進むと止まった古時計がそのままにしてある庭がある。装飾の凝った白の丸テーブル、その上にあるティーセットとバターの香りを放つお菓子たち、明るい煉瓦で作られた小道、鉢植えの緑や木々たちを金の陽の光は等しく輝かせる。鮮やかな色の翼をもつ鳥たちが囀り、寒さと死と終わりを知らない森。遠くから泉が湧く音と囀りを引き立たせるゆったりと静かな音楽が響いている。

古希くらいだ

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