とある外套

王さまと私は相変わらず歩いている。外套がとても重そうで歩みを阻んでいるようだったので、わたしが持ちますよ、と、預かって差し上げた。私も外套を着ているのだが、そんな私を見上げて、なんだか落ち込んだような顔をされるのだ。気持ちはなんとなくわかる。分かるし、外套を着られたままでもわたしは一向に構わなかった。外套に押しつぶされて、わたしの王さまが歩みを止められたとしても、わたしも横に座って王さまが立ち上がるのを待つだけだから。立ち上がる時、手を伸ばされるのであれば、今度こそ優しくそっと手を添えて差し上げるのだ。そうすることはもう決まってるけれど、王さまは?押し潰されたら、再び立ち上がるのは大変だろうかと。わたしは待つだけだから、王さまほど大変ではない気もする。待つのが苦手だから大変かもしれないけれど。。

でも、他でもない王さまを待つのだから、別にいい。

「外套を羽織りたくなったらいつでもお返ししますよ」と、言葉を創る。

そしたら、

『いや、重くはないのか?』

と聞いてこられた。

わたしは全然わかってなかった。頓珍漢。王さまは外套を着続けられないのに、わたしは着続けられているから、てっきり羨望のような念を持て余されているのかと。瞼の上に右の掌を押し付け、おまけに左手を腰に当て、昼なのか夜なのかよく分からない空を仰ぐ。優しい王だ。そう、私とは違う。

そんな私を不思議そうに眺めながら、

『わたしにはその外套が存外重い。私の外套を預けるなら、お前が持つのはお前が着ている外套と懐に入れるだろうわたしの外套で2人分だ。重いだろう?』

、と。

首を傾げて囁くように小さな声で伝えてくる。

「今は問題ありません。持てるモノが持てば良いのです。おそらく視える景色が変われば、この外套も変化していきましょう。私が持てなくなる時もあれば着られなくなることも。逆に王さまに預けさせて頂くときも来るかもしれませんよ。酷くこれは概念に近い外套です。この世界がそうであるように。」

外套を捨てるという選択肢は、わたしの王さまにはない。そこが一層愛らしい。

「今できないからと言って、それは永遠にできない訳でもないですし、今できるからといって、それは永遠にできるわけでもないでしょう。それが我々かと。」

視えない仲間を想う。少し荒れている大地をまだ引き続き歩くだろう。それでも少しずつ、緑の小さな芽吹きに出逢う。

「いつか消えてしまうものかもしれませんしね。でも、消えるべき時がくるまでは、ちゃんと視えると思います。」

消える可能性もあるのかと、少し目を見開く王さま。

『消えるべき時とは?』

「我々に必要がなくなる時」

そう、珍しく今日は口数が多い王さまの問いに、知り得る限りの答えを贈る。

わたしの王さまは、肩の力を抜いて、またゆっくり歩き始めた。

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