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最初の就職の話 ⑨

当然、無断欠勤のことを長く家族に秘密できるなんてことはありませんでした。
ゴールデンウィークを挟んだ翌日も無断欠勤をしたため、様子を見ていた経理部長も営業中の姉を電話で呼び出し、ここ数日私が無断で休んでいることを一部始終伝えたのです。

当然、今度は姉の口から両親へと話が伝わりました。
母は激昂しました。
「なぜ?あんなに仕事が充実しているとか、私のために新しいパソコンを買ってくれたとか、残業のときに差し入れにパンをいただいたとかまで言っていたのに。しかも、私とお父さんが旅行に行っている間も無断欠勤したそうじゃないの。普段頑張ってる私たちが旅行に行くことは罪なの?自分の子が顔色ひとつ変えずに嘘を付ける人間だと思うと怖いわ。気持ちが悪いわ。」

今ははっきりと言えます。
姉が両親に何でもオープンにできる性格なだけで、家族に表情ひとつ変えずに隠し事をしている人もいる。
そこには出来のよい家族の中で、たったひとりレールから外れた人という目で見られるのが怖いという気持ちがあるだけ。
相手に寄り添い、話に耳を傾ける気持ちがあれば、気持ち悪いなんてことはないだろうと。
私はもう仕事へのモチベーションを失っていましたが、母は諦めていませんでした。
「明日出勤して誠心誠意謝るのよ。ここで仕事を辞めたら、叔父さんみたいなるわよ。(※『叔父のオルゴール』参照)」

翌朝、出勤すると、工事の終わった本社の建物前で同期の営業部の女性が心配そうに立っていました。
「長く休んでいたから心配したのよ。」
優しく声をかけてくれる彼女に、
「もう大丈夫よ。」とひとまず挨拶をしいつもの仕事場に戻ると、技術課長が、
「戻ってきてくれたんだね。仕事たくさんあるから本腰を入れて頑張って。」と声をかけてくれました。

そして、一番に心配、迷惑をかけたであろう経理部長のもとへ挨拶に伺うと、いつになく包み込むような笑顔で、
「おつかれさまでした。あなたにはきっとあなたに合った環境があると思うから、これからも頑張ってね。」と解雇を言い渡されたのでした。
試用期間中の解雇でした。

帰って母にそのことを告げると、
「ああ、やっぱり。仕方がなかったね。」とわりとすんなりと受け入れてくれました。
「ただし、次の仕事はすぐに探すのよ。でも、その前に気分転換でもしないとね。」と、半日ゆっくりできるような総合レジャー施設を兼ねたスーパー銭湯に連れて行ってくれました。
両親なりに姉妹もこの前の旅行に連れて行ってあげたかった気持ちもあったのでしょう。
いつでも家族4人一緒でしたから。 

そこから半月ほどの休職期間の間、家族の誰もが過去を責めるような言葉を発することはなく、私は職探しに専念できました。

そして、間もなく5年近く勤める職場との出会いが訪れるのです。
(『2度目の職場の話』に続く)

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