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ブランディングとコンプライアンスは本質的に同じものだという話。

毎年恒例のインターブランドジャパンのBest Japan Brands。今回はランキングの総評的な記事をベースに、ブランディングとコンプライアンスの関係性について考えます。
Best Japan Brands 2024が明らかにする、ブランド成長の本質 - インターブランドジャパン (interbrandjapan.com)


成長するブランドに共通する特徴

上記のインターブランドジャパンの記事によれば、2024年に成長を遂げたブランドには「Agility(俊敏力)」、「Coherence(整合性)」、「Alignment(結束力)」が高いという共通点があります。

ここで、「Agility(俊敏力)」とは、ブランドが課題に対してどれだけ迅速にアクションをすることができるかを示す指標で、「Coherence(整合性)」とはブランドがどれだけ首尾一貫した言動を取っているかの指標、「Alignment(結束力)」とは、ブランドがその目的(ブランド理念)の実現のためどれだけの実行力を有しているかを示す指標です。

より端的に言えば、「ブランドの目的(ブランド理念)実現に向けて、首尾一貫した言動を強力かつ迅速に進めたブランドが成長した」ということです。最も成長したブランドでは、ブランド価値が前年比の15%もの成長を遂げており、これは世界的に見ても際立った成長率だということです。

ブランディングの視点からコンプライアンスを眺めてみると

ブランディングとコンプライアンスは表裏一体であり、コンプライアンスのとは、企業の「誠実さ」を強みとして言語化し、その体現を通してステークホルダーから共感を得ることだというのが私の考えです。

コンプライアンスとブランディングは本質的には同じ。したがって、取り組みの方向性も多くの場合共通です。上で紹介したBest Japan Brands 2024のレポートはコンプライアンス活動の方向性を決めるのにも参考になります。

具体的には、上記レポートの結論をコンプライアンス側から見ると、コンプライアンスを効果的=企業価値の向上に貢献するにしたいのであれば、ブランド理念の実現をコンプライアンスの目的と掲げたうえで、首尾一貫した言動を強力かつ迅速に進めることが肝要だということになります。

この場合にブランディングとコンプライアンスの橋渡しをするのが、ブランド理念という概念。これはブランドの究極目標、実現したい世界のことでありひとまずパーパスやMVVと概ね同義であると考えて差し支えありません。

ブランド理念の中身は、ブランド(企業)ごとに異なるわけですがどの企業のブランド理念にも、必ず言外に「法律やルールを守りながら」という意味が含まれています。違法行為を犯してでも目的を達成しようというブランドは無いですから。

しがたって、このブランド理念として言語化されていない「法律やルールを守りながら」を言語化することがブランディングとコンプライアンスを結び付ける第一歩です。自社のパーパスやMVVを眺める、あるいはその作成に至った経緯やワークショップの結果を入手して眺めるうちに、「法律やルール」に関する価値観やエピソードが出てきたら、それが両者の「結び目」になります

もし、独力で結び目を見つけることが難しい場合には、ご相談ください。結び目発見に役立つワークなどをご紹介します。

整合性と結束力を高める

コンプライアンスの目的が言語化・コンセプト化できたら次は整合性と結束力を高める取り組みです。この記事ではそのための取り組み例のいくつかをご紹介します。

まず、整合性について最も大切なのは「コンプライアンス部門自体が言行一致しているか」という点です。例えば、コンプライアンスを自分ごとにすることを訴えるコンプライアンス部門の担当者が、やらされ感でコンプライアンスの仕事をしている、というのでは組織として整合性を取ることなどできません。

コンプライアンス部門においては、「法の代弁者として、組織のメンバーを統制する」という第三者的、批評家的視点を捨て、自らもまた組織の一部であるという原点に立ち返って、「組織の一部である”自分”がまず変わる。」という姿勢を示しましょう。

そのうえで、組織内におけるタッチポイントである研修、社内規程、各種アナウンスなどがブランド理念に則ったものになっているのかを徹底的に見直し、不整合があれば正ていくわけです。ディズニーランドやスターバックスのようなブランドのように、細部に至るまで徹底的にこだわり抜くことで世界観を作り上げましょう。

結束力については、コンプライアンス部門以外の取り組みと結び付けるというのが手段として有効です。最初の手段としてお勧めなのは、人事の施策である1on1や人事評価の中にブランド理念に基づく「誠実さ」をどれだけ達成できたか、逆にできなかった部分はどこかについて振り返る機会を設けたりというものです。最近の人事の施策の中にはエンゲージメント向上などコンプライアンスと親和性の高い取り組みが数多くありますのでお勧めです。

私のところに相談にいらっしゃるお客様の中には、「そうは言っても、当社は縦割り意識が強く、なかなか他部門との連携は難しい」という方もいらっしゃいます。確かに、そういう風土の会社では上記のような取り組みは簡単ではないでしょう。

しかし、少し厳しい言い方かもしれませんが、それはまさに企業不正の温床となる「蛸壺的組織風土」であり、コンプライアンス部門が挑戦すべき課題なのではないでしょうか。繰り返しになりますが、「組織風土の一部である”自分”がまず変わる。」ということなくして、組織が変わることは無いのです。

もし、一歩を踏み出す勇気が出ないという方は、私のところに相談に来るかJCXASにいらしてください。様々な組織でコンプライアンスという仕事に挑戦している先達たちがきっと力になります。

コンプライアンスと企業価値向上の因果関係

コンプライアンスという活動は、とかく嫌われがちな活動です。大切ではあるけど、できればやりたくない、めんどくさい。そう感じる最大の理由は、企業の成長との因果関係が見えにくいとことにあります。

法務コンプライアンス業界の議論を眺めていると、この因果関係の説明に非常に苦慮しているように見えます。例えば、不祥事によって数十億円の課徴金や制裁金を支払った企業を引き合いに出して「数十億円のリスクを軽減しているから、数十億円の価値がある仕事だ」というよくある説明は、理屈としては分かるのですが、経営陣の共感を得るのは難しいでしょう。

もともと、法律というのは企業価値の向上とは無縁の分野でした。法務やコンプライアンスを企業活動の一部として捉えた場合には、間違いなく企業価値に貢献している(というか、そもそも企業価値に貢献しないのであれば企業活動として意味が無い)わけですが、法律分野「だけ」を土台にする限り、そのことを上手く説明できないわけです。

他方で、ブランディングはもともと企業価値(ブランド価値)の向上を成果指標の一つとして発展してきた分野です。ブランディングの視点からコンプライアンスを眺めてみると、コンプライアンスに積極的に取り組むことで企業価値(ブランド価値)が向上することを無理なく説明することができます。

ブランディングとコンプライアンスが本質的に同じものとして取り組むことには多くのメリットがあるのです。

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