ポートランドで自分の店を持つ。日本人パティシエMioさんに聞く
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ポートランドで自分の店を持つ。日本人パティシエMioさんに聞く

川原綾子

東京ではCOVID-19によるSTAY HOME生活がまだ続いています。私も一ヶ月以上都心の職場には行っていなくて、自宅でZoomやMeetを切り替えてミーティングをする毎日です。そんな中、オンラインツールがあれば都内でも地方でも海外でも、同じ気持ちで話をし、向き合えることに気がつきました。品川の同僚と北京の友人と話す感覚に変わりはありません。

「それだったら」と思い浮かぶ人がいました。米ポートランドに住むMio Aaskaさんです。古い友人で、現在はパティシエ。出会った頃はグラフィックデザイナーでした。渡米後10年以上。今はポートランドにしっかり根を張り、そのお菓子が地元で愛されているのをSNSを通して知っていました。

「取材は現地で」とずっと思っていたけれど、まずはこの状況下、様子も気になったので、Zoomでお話をうかがいました。時々メッセージはし合っていたけど、顔を合わせるのは約20年ぶり。現在の生活や仕事、日本から離れた地で店を持つには?などを聞いてみました。(取材日2020年4月26日)

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Mio Asaka さん:音大でピアノを専攻。卒業後、音楽関係の企業に就職するも、デザインに目覚めグラフィックデザイナーに。その後、英国での語学留学を経て食の世界へ。レストランで働きながら日本の製菓専門学校で学ぶ。2004年に渡米。現在米ポートランド在住。Mio's Delectablesのオーナーパティシエ。友人たちが編んでくれるヘアバンドがトレードマーク。

COVID-19の中、お菓子を待ってくれる人がいる

———— お久しぶりです! まずはMioさんのお店について教えてください

お久しぶりです。毎週土曜日、ポートランド州立大学(PSU)内で開催されるファーマーズマーケットにMio's Delectablesとしてお菓子の店を出店しています。このマーケットは地元の農産物とローカルフーズの販売もある地元密着のマーケットです。2014年からここにお店を構えています。

▲PSUでのMio's Delectablesの様子(2020年5月)

———— 新型コロナ感染が始まってから、街の様子の変化はありますか?

皆さん自宅待機の日々を送られているので、街中は閑散としています。買い物に出掛けても話している姿はあまり見かけません。スーパーも厳しい入場制限のもと、外で並んでようやく中に入れる状態。淡々と買い物をしています。フレンドリーなアメリカ人がこんなにも変わってしまうなんて!と思いますが、これも周りにいる人の事を考えての事だと思います。

学校の休校も日本の方が早かったですよね?最初はアメリカの友人たちは「そんな、大げさな」という感じで、私のことを笑っていたくらいでしたが、国家非常事態宣言以降、一変。線を引いたように皆意識と行動が変わりました。YESかNOしかないアメリカらしい態度を実感しました。

———— Mioさんのお店に影響はないですか?

1週間に一度しか販売がない店なので、随時私がポストするinstagramを見て、今も変わらずお客さまが来てくださっています。感染のリスクが高いシニアのお客さまは、マーケット開始のきっかり8時30分に来店。人混みを避けて買って帰られます。全米を対象とした焼き菓子配送のオンライン受注もはじめましたが「本当に売れるかな?」という心配はよそに、頻繁にオーダーも頂いています。こんな時だからこそ、お菓子を楽しみたいという気持ちになるのかもしれません。

街を見るとレストランも閑散としていてわからないのですが、デリバリービジネスは盛況のようです。もともとオンラインショッピングに抵抗がない国なので、一層拍車がかかっている気がします。

▲Mioさんのお店もオンライン販売をスタート。配送は全米のみ

シェパニーズに憧れて食の世界へ

————なぜアメリカで仕事をしようと思ったのですか?

神宮前でデザイナーをしている頃、近隣に紀伊国屋スーパーなどいいパンが並ぶお店があって、昼休みになると事務所の自転車であちこちにパンを買いに出かけていました。パンに夢中の私を見て、先輩デザイナーに「食の仕事ほうがいいんじゃない?」なんて早くも言われていました。

2000年頃バークレーで地産地消を実践するシェパニーズを知り、憧れの地を自分の目で見たいと現地へ。旅をしながら「私が求めている世界はここ」という直感を持ちました。とはいえ、当時はアメリカよりもヨーロッパへの興味も大きくてイギリスで語学留学を経験。コミュニティカレッジで、ベーキングも学びました。その後、東京でレストランで働きながら製菓学校の夜学で勉強。幸運にもアメリカ永住権の抽選に当選して、渡米しました。

最初は姉もいたフロリダに移住し、ブーランジェ(パン職人)を希望しつつも何店かでパティシエとして就職。西海岸に引っ越したいという気持ちは常にありましたが、ご存知の通りサンフランシスコや周辺のベイエリアは住居費がすごく高いんです。フロリダで7年を過ごし、諦めていたところ、ポートランドについて教えてくれる友達がいて、早速訪れてみました。シェパニーズがあるバークレーにも似た雰囲気があって、すっかり気に入って引っ越しをすることに決めました。

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▲Mioさんがベーカリーで働くために、面接の時に持ち歩いていたポートフォリオ。今見ると「まだまだ」とのことだが、面接までこぎつければ、どの店でも断られることがなかったそう。

アメリカでは、お店を持たなければ自分の自由はない

————ポートランドではすぐにお店が持てましたか?

ポートランドでは独立して店を持つことを目指していたので、街の様子や仕入れ環境を学ぶためにも、最初は、引っ越した家の近所に見つけたベーカリーで働きはじめました。当初はブーランジェを目指していましたが、この頃はパティシエで行くと決めていました。というのも、食の世界に入ってから仕事をする店、仕事をする店で、パンのポストに空きがないという状況が続きました。恩師ともいえる人の素晴らしいタルトに影響を受けていたこともあって、自然な流れでいつのまにかお菓子を作るようになっていたのです。

家の近所のベーカリーでは、早朝からいくつものお菓子づくりを担当。大変な忙しさでしたが、午後には家に戻ることができました。働きながら独立する準備も進め、3年間働いた後に、ポートランド州立大学内のファマーズマーケットに自分の店を持つことができました。

————自分の店を持つことにこだわったのは何故ですか?

じつは私が勤めた日本の店とアメリカの店で、大きく違ったことがありました。それは、アメリカではオーナーのスタイルが何よりも尊重されるのです。日本では、お菓子のデザインなど、自分の工夫や提案がスムースに受け入れてもらえる環境にありました。それがアメリカでは、少しでも変えると、マネージャーがつかつかとやってきて「Mio、そういうのはやめて」と言われてしまう。もちろんアメリカの全ての店に当てはまる話ではないかもしれませんが、お店のイメージを踏襲すること、崩さないことが大切なんです。逆に言えば、それが個性が強く打ち出された魅力的な店づくりにつながっているとも言えます。収入を増やすことよりも、そろそろ私だからこそ作ることができるお菓子を追求したい、自分のチャレンジを試せる店を持ちたいと考えるようになっていました。

————でも自分のお店を経営し、お菓子を作ることは大変ですよね?

店は土曜日のみの出店ですが、一週間毎日仕事はあります。例えば日持ちがするメレンゲ菓子などは週前半に、それから袋詰め、焼き菓子の生地作り、金曜日には次々とお菓子を焼き上げていきます。SNSへの投稿、ネット販売や発送もします。サポートしてくれるスタッフがいるとはいえ、日本でデザイナーとしてハードに働いていた時よりも忙しさは増しているかもしれません。でも全てが私のお客様のため、自分の好きなことのためなので、苦痛には思いません。

私はこれまで、様々な場所で働いてきましたが、今、その全ての経験が生きているとも感じています。デザイナー時代には、大きな仕事をしている事務所(サイトウマコトデザイン室)だったので、スケジュール管理や、対外的なやりとりなども含め一流の現場のやり方を学ぶことができました。こうしたことも自分の店のマネジメントにすごく役に立っています。

全ての人に受け入れられてはいないことを知る

————お客様はどんな方が多いのですか?どんなお菓子が人気ですか?

現在、お客様の8割はアメリカ人。Mio's Delectables は季節のフルーツを使ったものなど、その時々で私が作りたいと思うものが並ぶ店です。instagramで新作をチェックして「あれはない?」と来てくださる方も多くいます。おじいちゃん、おばあちゃんのお客様も多く「Mio、今日のおすすめは何?」と、私のお菓子を生きがいのように思って来てくださる方がいることは、すごくうれしいことですね。

今後少し力を入れたいのはパイ。年一回、アメリカの独立記念日に販売をするパイが大人気なんです。今年は土曜日だったNational Pie Day(3月14日)にも数種のパイを販売したところ、アメリカ人のお客様が競うように買っていきました。パイはアメリカ人のソウルフードなんです。自分が作りたいものを作るのが私のスタイルですが、これからはお客様が好きなお菓子を私なりにアレンジしたものを提供したいとも考えています。

▲バナナカスタードクリームパイwithアイリッシュカントリークリーム

————お菓子を作ってきた中で印象的なエピソードはありますか?

子どもの習い事先での一品持ち寄りのパーティに参加した時に、私のデザートに、アメリカ人の親も子も手を出してくれないということがありました。食べてくれたのは数人の日本人だけ。理由は「食べたことがないものだったから」です。逆にチョコチップクッキーなどいかにもアメリカ人の口になじんだ素朴なお菓子が大人気でした。アメリカ人は基本とても保守的なんです。PSUでは、飛ぶように売れていく私のお菓子ですが、それが全てではない。必ずしも全てのアメリカ人の好みにフィットしているわけではないことを実感しました。自分のスタイルを大きく変えることはありませんが、アメリカでお菓子を作っていく上で、とても学びになったエピソードです。

————これからの課題は何かありますか?

もともとインドア派で外にもあまり出かけないタイプです。そんな私が自分の店を持ち、ファーマーズマーケットに出店。沢山の様々なお客様とのやり取りをさせてもらえていることは、この仕事との出会いがなければ、経験できなかった幸せです。今やらせてもらえている仕事を、これからもきちっと現状維持するにはどうしたらいいのか、ということが今後の課題です。

【お話をうかがって】
インドア派というMioさんですが、思い立ったらすぐに行動に移す俊敏さは、私が今まで出会った中でもずば抜けている人だと思います。子どもの頃から続けているピアノで音大へ。そしてグラフィックデザイナーからパティシエへ。日本から海外ヘ。その時の夢を確実に叶えていくMioさんほどのエネルギーは誰もが持てるものはありません。ただひとつヒントになりそうなのは、自分でやりたいことをやる。そうすればそのための苦労は大変でもだいぶ辛くなくなるということ。やりたくないと思うことを続ける苦労は…本当に辛いものですよね。
余談も面白かったMioさんのオンライン取材の中から、ポートランド暮らしの気になったTOPICSを少し。2015年くらいに日本のメディアでポートランドが多く取り上げられる時期がありましたが、そんな流行は全く関係なしに、ポートランドは、今もポートランドらしさを続けています。Mioさんの話を聞いて改めて行ってみたくなった場所です。

ポートランドのユニークネス
●ポートランドのスーパーでは地元産商品に「Local」シールが貼られている。街に地元産を選び、地域経済を住民皆で応援しようという姿勢がある。
●チェーンの店が出店をすると住民が猛反対をする。個人店が多い。ただ街を一歩出るとファストフードも多いのも事実。
●ローカル育ちの人は意外に少ない。街に共感して移住してくる人が多い。
●アメリカは州によって法律が大きく違う(ELLEの記事が面白かった)。フロリダでは自宅キッチンで作った食品の販売は禁止されていたが、ポートランドがあるオレゴン州はライセンスを取得すればOK。しかし動物を飼っていないなど厳しい審査がある。

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Mio's Delectables (ミオズディレクタブルズ)
出店するPortland Farmers Market
日時:毎土曜 9:00am-2:00pm(11〜3月)、8:30am-2:00pm(4〜10月)
場所:アメリカオレンゴン州ポートランド/ポートランド州立大学構内
www.portlandfarmersmarket.org/our-markets/psu


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川原綾子
コピーライター/日本デザインセンター/ひと、もの、こと、場所。あらゆるものをブランドととらえ、その背景にあるストーリーを個人取材としてお聞かせ頂いています。