300年後の未来【読切超短編小説】
N氏はボルトを閉めた。
タイムマシンが、ついに完成した。
まさに歴史的瞬間だった。
「ここ20年やり切った甲斐があった。」
涙ぐむN氏。
彼には目的があった。
恐竜や空飛ぶ車を、見たい等という、
ミーハーなものでは決してなかった。
未来の技術を持ち帰り、
食糧不足 地球温暖化 人口増加
現代の様々な問題を解決しようという、
崇高な目的。
そのために人生の20年、
いやもっとたくさんの時間を
研究に捧げてきたのだ。
生涯を捧げたと言ってもいい。
座席に乗り、年代をセットするN氏。
期待に胸を膨らませながら、
300年後と打ち込んだ。
3時間くらいたっただろうか。
地面に着陸し、ドアを開けたN氏の前に、
1人の男が立っていた。
「今日、あなたが来ることは
ずっと昔に分かっていました。
私が案内させていただきます。」
未来の国とはどんなものだろう。
ひとつでも多くのものを持ち帰ろう。
現代の皆んなのために。
N氏は興奮しながら男とともに、
周りを見て回った。
しかし、N氏の顔は、
次第に落胆へと変わっていった。
それもそのはず、
300年前の現代と何も変わらない、
全く同じ街並み、生活スタイル。
服までも変わっていなかった。
電波塔のようなものの前に
差し掛かった時、男が立ち止まった。
N氏は、男に尋ねる。
「私はただでは帰れないんだぞ。
少なくとも、
タイムマシンを私が作ったのだから、
これから先の未来の技術も
いくらでも、盗めるのではないか。
なぜ皆変わらない暮らしをしているんだ。」
男は、答える。
「ええ、確かに技術は飛躍的に進みました。
しかしそれを野放しにしておいたところ
戦争 飢餓 食糧不足
結局、同じような問題が起こった。
なので、目の前に見える
この高い塔の中だけで、
個人ではなく、政府が厳重に
管理しているのですよ。」
N氏は青ざめた。
男がなぜ片時も離れず
案内してくれたのかが、
分かってしまったからだ。
塔の中で、
壊されたタイムマシンを見ながら、
幽閉されたN氏は、悲しんでいた。
そのうち私は死刑になるだろう。
せっかくの発明、虚しさが心を覆った。
しかし、
しばらく経って彼は笑い出した。
そう、タイムマシン等、必要なかったのだ。
この状況と現代は、何が違うのだろう。
アフリカの奥地の先住民は、
今でも300年前の暮らしをしている。
水道や水洗トイレでさえ、
2000年前のローマ時代には
すでに発明されていた。
しかし、農村部では、
いまだにバキュームカーが走っている。
つまり、みんなが同じ時代を生きている
という考えこそ、幻想に他ならない。
タイムマシンは、
ずっと昔から我々と共にあったのだ。
俺は無駄な事に20年を注ぎ込んだな。
そう思いながら、
N氏は絞首台への階段を昇り…
【後書き】
世界は一つに繋がっていても、
世界は一つでは無い。
紀元前の古代エジプトには
既に原始的な外科治療と、
虫歯治療が存在していた。
ヨーロッパでは中世になっても、
血抜きが主な手術だった。
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