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転職時の妻の一言 あなたは信じられるか?

私は現在79歳

合唱指揮の仕事は定年がなく、毎日遣り甲斐の有る、充実した時間を送っています。

30歳後半までは都立高校の音楽の専任教諭でした。
しかし、教職に安易なな幻想を抱いていたので、現実の厳しさに対処出来ず、絶望的な窮地に追い込まれた。

そして遂に、11年目にして退職を阻止する術を見つける事が出来なくなった。

毎日の職場での流れは、音楽指導より、生活指導が中心であった。精神を蝕む、喜びの薄い仕事であった。底辺高の生徒の状況は無気力で、何に対しても拒絶反応を示した。

当時、私は既に結婚し2児の父親であった。

その状況から、逃亡を意味する、退職希望を口に出す事の罪悪感から、重圧に押し潰され、言い出す機会を見つけられないでいた。

しかし、年齢からして、転職のチャンスはこれが最後なのは明白だった。

妻に話すチャンスを、悶々としながら、毎日探した。
 
しかし、苦痛も限界に達し、ある日 重たい口を開き、話す事とした。

それに対して、妻はとんでもない事を言い出した。その全容は、これだ。

ありがとう!

「貴方は音楽家で学校の先生向きではない」

「貴方の人生です。悔いのないように、生きて下さい」
と笑った。
たった一分の言葉だった。井上尚弥のノックアウトより速い。

「えっ?えっ?」と耳を疑った。

本来なら、無責任に職場から逃亡しようとしている私に対し、激しい責めの言葉が飛んでくると覚悟していた。

この言葉のあまりの力強さと透明感に心を射抜かれてしまった。

翌日、チラシを作り近隣のマンションや、アパートに足を運び、配った。

「合唱団員募集!」

度々、マンション管理人や掃除のおばちゃんから「入れるな!」と怒られ、外に追い出された。でも簡単に逃げる訳にはいかなかった。

暫く経つと、順調に仕事が増え、最盛期は週に7日働いていた。

それから50年以上。
 
現在は体力の限界で、指揮する団体の数を半数にしたが、内包する精神面の深さと説得力はより深まったと自負している。

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