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【個人株主・投資家のための株主提案の考え方】 鳥越製粉(2009)に対する株主提案④ ー (前回の続きです)株主資本コストの開示要請の見方


株主提案に対する取締役会の意見

前回から時間が経過してしまいましたが、鳥越製粉への株主提案についての分析の続きです。ところで鳥越製粉は、先日、株主総会の招集通知を公表しましたね。
前回、投資ファンドの株主提案の内容を紹介しました。前回の記事は次のとおりです。

本日は前回の続きとして、この株主提案に対する鳥越製粉の取締役会の意見を紹介し、さくっと解説をしたいと思います。まずは取締役会の意見ですが、次のとおりです。当然ですが株主提案に反対しています(太字は私が強調するため付けています)。

当社は、東京証券取引所の 2023 年 3 月 31 日付「資本コストや株価を意識した経営 の実現に向けた対応について」に基づき、株主資本コストを的確に把握し、これを踏ま えた経営を行うことが重要であると考えており、外部専門家の支援を受けるなどして株主資本コストを的確に把握するよう努めております。そのような中、当社は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」において、資本コストや株価を意識した PBR 改善に向けた方針を策定いたしました。中期経営計画「TTC150 Stage3」(2024 年~2026 年)において策定した各種施策の確実な実行による収益力の向上、成長分野への積極投資や資産効率の向上などにより、ROE の向上に取り組んでまいります。 一方、本議案の提案理由で挙げられているコーポレートガバナンス・コード原則 5-2 は、資本コストの数値やその算定根拠の開示を必ずしも求めるものではありません。また、同じく本議案の提案理由で挙げられている東京証券取引所の2023 年 3 月 31 日付 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」についても、「資本コストの数値自体の開示は必ずしも求められません」との記載が明示的になされており、資本コストの数値やその算定根拠の開示を必ずしも求めるものではありません。 また、本議案の内容を会社の根本規範である定款に設けることは、経営環境の変化に 応じた経営施策の実施の支障ともなり得るものであり、適切でもございません。 以上の理由により、当社取締役会としては、本議案に反対いたします。

2月13日「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」より抜粋

太字を付けた箇所がポイントですね。
要は株主資本コストの開示はコーポレートガバナンス・コードや東証の要請では求められていないので、開示はしないという趣旨だと思います。たしかに求められているか否かということについて言えば、取締役会の意見のとおりではあるかと思います。

株主資本コストは開示すべきか?

結局のところ鳥越製粉の株主は、株主資本コストを開示するのが望ましいか否かをまず判断することになります。

私の考えとしては、ROEを考える大前提が株主資本コストですが、株主資本コストをわざわざ開示せずとも、会社がしっかりと認識しているのであれば開示の必要はないかなと思います。

けど、ROEがいつまでたっても低い企業の場合、機関投資家からすると「この会社は株主資本コストを認識しているのかな?」「認識しているとしてもかなり低く認識しているのかも知れない」と疑問を持ちます。そのような場合には、機関投資家としては、まずは会社の目線を確認するため「ところで貴社は株主資本コストを何パーセントと理解しているのか教えて下さい」と思うのは至極当然です。これは機関投資家と普通にエンゲージメント(対話)をする時にも頻繁に出る質問です。

ここで鳥越製粉のROEを確認してみます。同社のホームページの財務情報に過去のROEの推移がありますが、それによると次のとおりです。

18年12月期:3.5%
19年12月期:3.1%
20年12月期:1.6%
21年12月期:2.6%
22年12月期:2.8%

ROEは8%が1つの目安と言われている中、正直、かなり低い数値と言えます。前にもブログで書きましたが、ROEが5%を切ると機関投資家は怒ってしまいますが(最後にその時の記事を再掲いたします)、これを過去5期に亘り下回っていることになります。そりゃ今回の株主提案をした投資ファンドでなくとも株主資本コストは何パーセントと認識しているのか?と聞いてみたくなるところです。

「法律では求められていません」という言葉は資本市場との対話ではNGワード

ところで、「法律や規制で求められていないから〇〇〇はしません」という言葉ですが、時々耳にしますが、基本的に上場企業はこの言葉は対資本市場との会話では、NGワードとして使用は控えた方が良いと私は思います。

弁護士あたりと会話をすると「法律ではこうなっています。だから心配ありません」という話を聞きます。法律に基づきガチンコで争っている時はその通りですが、その一方、資本市場を相手にする時はこの発想はNGかなと思います。

以前に某大手法律事務所の若手の弁護士と買収防衛策の議案について「議案の賛成率が67%(3分の2)を超えないと資本市場関係者に示しがつかないよね」という話を私がした時に、その弁護士の方は「普通決議ですので過半数取れればよいので、そんな心配は不要です」という回答をしていました。

けど、そうではないのです。問題は、法律要件を充足することは当然であり総会の議案を通すのにやはり特別決議と同等の賛成率を得るのが上場企業の1つのお作法と考えます。また、どの企業にも一定の安定株主がいるわけで、議案で過半数の賛成があったとしてもその安定株主の比率を除くと過半数に行かない場合もあり、そういうことを考えると、市場に胸を張って言えるには67%の賛成が必要と思うわけです。ある超大手企業の経営企画担当の専務がそんな話をしていたのを聞いたことがあります。

それと基本的には同じような発想です。「法律や規制で求められていないから・・」という発想は上場企業としてはいかがなものかなと思います。上場企業は、ハードローを遵守するのは当然であり、それを超えてソフトローを常に意識することが必要です。その意識が欠けていると、特定の投資家の声や要請がいつの間にかソフトローになり、そのことに気づかないまま、資本市場から時代遅れの企業と見なされてしまいます。

上場企業の経営トップは、常にソフトローが何であるのか、市場の多くの方はどういう目線で考えているのかを強く意識する必要があります。

株主提案に賛成した方がよいのか?

では、結局のところ今回の株主提案に賛成した方がよいのかどうかということになると、私が株主なら「うーん」と迷うところではあります。というのも今回の株主提案は、次の規定を定款に新設せよというものです。

(株主資本コストの開示)第49 条  当会社は、当会社が東京証券取引所に提出するコーポレートガバナンスに関する報告書において、当該報告書提出日から遡り 1 箇月以内において当会社が把握する株主資本コストを、その算定根拠とともに開示するもの とする。

たしかに株主としては、株主資本コストを開示して欲しいところだと思いますが、それを定款に義務付けることまで要求することに賛成するか否かは悩ましいですね。定款とは、会社の憲法であり、会社法で規定された事項に加えて会社が任意で規定すべき大事な事項を規定しますので、正直、上記規定を定款に規定することの要否は株主によって見解が分かれると思います。

株主としては、鳥越製粉の経営陣の株主資本コストの意識をどう考えているかを見極め、会社が全く株主資本コストの意識がないと思う場合には、定款で規定させることにも合理性ありと考える場合も有るかなと思います。一方、「そこまでは必要ない」という意見もあるとは思います。

この点は株主の判断によりますが、いずれにせよ、会社としては、定款に規定しないまでも、株主資本コストをどういう計算式で算定して、いったい現状いくらと考えているのかを説明することは必要な気がします。有価証券報告書に株主資本コストを一定のレンジで記載している企業も多いかと思います。私が鳥越製粉の株主とした場合には、この点の会社の考えが分からないのであれば株主提案に賛成するかなと思います。

(余談)ROEが5%を下回ると機関投資家は怒ってしまいます

文中で触れましたように以前に記事を書いています。最近の機関投資家の議決権行使基準の今後の検討状況などを見ると、今後は怒る基準は8%に上昇する感がありますが、今現在は「ROE5%」が基準ですね。