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【個人株主・投資家のための株主提案の考え方】 鳥越製粉(2009)に対する株主提案③ ー 株主資本コストの開示要請の見方


雑談です。過去の有価証券報告書を見るには

本日は3連休日の最終日です。昨日は暖かく1時間半程度、多摩川沿いをウォーキングをしましたが、本日は、あいにくの雨ですので、毎週末のルーティンである投資先銘柄の1週間分の周辺情報のアップデートに結構時間をかけました。投資先銘柄の過去20年分の外国人株主比率の情報整理などをしましたが、株主比率は有価証券報告書で見るしかないのですが、東証のEDINETは過去10年分しかありません。そこで活用できるのが次のURLの株主プロです。

中長期のファンダメンタル投資をされている方はご存じの方も結構多いと思いますが、過去の有価証券報告書を見る際に便利です。

深く企業を知りたい場合には、過去20年分の有価証券報告書で事業の変化、株主構成、研究開発活動などの非財務情報の理解が大事になってきたりします(某投資ファンドの著名なファンドマネジャーの方が言っていました)。対処すべき課題なども毎年どのように変化して、どう企業が対処してきたのかなど、その企業の体質というかカルチャーを把握する上でも重要です。明日はオフィスで昼休みの時間と日中の細切れ時間を利用して、20年分の有報で必要な情報をあらためて整理して、ノートにちょこちょこメモする予定です。

株主資本コストの開示を求める株主提案

本題です。前回、鳥越製粉の政策保有株式に関する投資ファンドの株主提案をケーススタディーとして、政策保有株式の見方について以下内容にて紹介しました。

本日は鳥越製粉の事例でもう1つの株主提案である株主資本コストについて説明したいと思います。

最近、上場企業に対して株主資本コストの数値の開示を求める株主提案が増えています。では、「株主資本コストの株主提案」という用語を耳にしたら、個人株主・個人投資家の方は何を想像すれば良いでしょうか?
個別企業に対する株主提案の詳細を見る前に頭でぱっとあたりを付けることが大事ですが、「株主資本コスト」という用語が株主提案との絡みで出た場合には、一般的には次のようなことを思い浮かべることが大事です。

  • この企業は株主資本コストを開示していないのだな

  • この企業はROEが低いため、株主提案権を行使した株主は、株主資本コストの開示を要求することでROEの実績値や今後の予想値を問題としたいのだな

  • 結果、ROEの向上を企業にせまりたいのだな。特にROEの低い要因が潤沢な株主資本にある場合には、株主還元の増加を企業にさせたいのだな

昨年3月に東証が企業に求めた株価を意識した経営がありますが、ここでは株価を意識する前提として、まずは株主資本コストを認識せよと東証は企業に求めています。株主資本コスト=株主が株式投資によって求めるリターンですが、要は、企業はまずは自社に投資する株主・投資家がどの程度のリターンを求めているかをしっかりと認識せよ、ということを東証は言っているわけです。
そして、株主資本コストを認識した上で企業はROEを設定せよというわけです。ROEは株主資本コストを上回ることが大事なのです。だから、いくらROE10%といっても株主資本コストが11%であるとすると、そのROEには株主・投資家は納得しないということになります。

ちなみに、株主資本コストについては、以前に次の記事をnoteに書いておりますので、参考までに再掲いたします。

鳥越製粉への株主提案の内容は?

ここから鳥越製粉に対する投資ファンドによる株主提案の具体的内容を見て行きたいと思います。複数の株主提案がありますが、株主資本コストについては「定款一部変更(資本コストの開示)の件」です。

要は、会社が把握する株主資本コストをその算定根拠とともに開示することを定款に規定せよということです。株主提案の具体的内容について、2月13日の鳥越製粉の「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」から以下抜粋します(太字は私が強調のためハイライトしました)

当社の自己資本比率は2023年9 月末で80%と過去最高水準にある。当社の過剰資本は、事業リスク以上の資本コストと本業で稼ぐ力を十分に反映しない ROE をもたらすが、2026 年 12 月期を最終年度とする当社の中期経営計画は資本コストも ROE 目標を掲げておらず、最適な資本構成に関する議論がない。 PBRの1 倍割れ解消に向けて、当社がキャピタル・アロケーションの指針を明確にすべきであることは明白であるが、事業のハードルレートたる加重平均資本コスト(WACC)を計算するためには、株主から見た資本コスト(株主資本コスト)を設定することが第一歩となる。 東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コードは、「原則 5-2. 経営戦略や経営計 画の策定・公表」において、「経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に 関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投 資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。」と定める。 当社においては PBR の 1 倍割れが長期化しているだけに、「収益力・資本効率等に関する目標」 として、株主資本コストを「提示」し、「その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本の投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき」である。 東京証券取引所が 2023年1月30日に公表した「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」では、「経営陣や取締役会において、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その状況や株価・ 時価総額の評価を議論のうえ、必要に応じて改善に向けた方針や具体的な取組、その進捗状況など を開示することを要請」するとした上で、「継続的にPBR が1 倍を割れている会社には、開示を強く要請」するとしている。当社の PBR1 倍割れは10 年以上も続いているが、同東京証券取引所の要請に対して、当社は「ゼロ回答」しているのが現状である。

2月13日「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」より抜粋

私なりに整理をすると、潤沢な株主資本があり、その結果としてROEが低迷しているが、それは株主資本コストを認識することが出来ていないのが問題でないか、ということを結局のところ言っているのだと思います。

PBR1倍割れの企業はROEが低いことが大きな原因の1つと言われており、その改善のためには、まずは株主資本コストを設定して開示せよというわけです。
前述のとおり、ROEが株主資本コストを下回る場合には、その企業は株主の期待するリターンに応えられていないわけですから、まず会社として株主資本コストをいったいどの程度と認識しているのか開示せよということだと思います。株主資本コストを設定しないと、そもそも将来のROE目標値も設定できないではないか、ということですね。

では、この株主提案に対して鳥製粉の取締役会は何といっているのでしょうか? それについては、次回紹介いたします。次回は、その内容の紹介と説明、私がもし鳥越製粉の株主であったら取締役会の意見についてどう考えるか等について説明したいと思います。