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【個人株主・投資家のための株主提案の考え方】- 鳥越製粉(2009)に対するLIM Japan Event Master Fundの株主提案② ー 前回の続きです


株主提案の具体的内容は?

前回の続きです。前回、次のとおり鳥越製粉に対する投資ファンドの株主提案を見る前提知識として政策保有株式の見方などをごく簡単に説明いたしました。ご覧頂けていない方のために、念のため前回の内容を次のとおり再掲いたします。

株主提案の表題を見て、どういうことが課題・問題となっているのかを想像することが大事であり、前回はその際の視点を説明しましたが、本日は、鳥越製粉に対する株主提案内容、取締役会の意見、それらに対する私見(仮に私が株主であったらという前提で)について紹介したいと思います。

いくつかの株主提案の中、定款一部変更(政策保有株式の売却)の件に焦点をあてています。24年 2 月 13 日付けの「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」において、株主提案の理由として次の内容が記載されています(黒字の箇所は強調のため私が付しました)。

買収防衛策の導入・更新を可能とするような安定株主工作及び恣意的な益出しの手段として機能する政策保有株式は、経営者の規律付けの弊害となるが、当社の第 88 期(2022 年 1 月 1 日~2022 年 12 月 31 日)有価証券報告書によれば、2022 年12 月31 日時点で約 92 億円もの政策保有株式を保有している。その後に日本株相場が上昇した一方で、当社が政策保有株式を大きく売却した形跡が見られないため、2023 年 9 月末時点の貸借対照表において、固定資産に計上した 103 億円ある 投資有価証券のほとんどが、政策保有株式に該当すると考えられ、これは純資産の約3 割にも達する。そもそも、政策保有株式は、リターンの割にはボラティリティの高い非コア資産である。「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)が提言・推奨するように、上場企業には、「目指すべき ROE 水準と資本コストへの認識を 高める」(同 13 頁)ことが求められているが、当社の政策保有株式は事業リスク以上の資本コストと本業で稼ぐ力を十分に反映しないROE をもたらす。そこで、当社の政策保有株式の縮減を速やかに実施させるべく、一定の期限までに政策保有株式 の全てを処分することを当社に義務付ける旨の定款規定を設けることを提案するものである。当社の政策保有株式の流動性を鑑みるに、2 年間という売却期間は十分にある。

「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」から抜粋

前回の記事で鳥越製粉はそれなりの政策保有株式を保有していることを書きましたが、その点を投資ファンドは指摘しています。純資産の3割になるということですが、私は数値の検証はしていませんが、そのとおりとすると結構な額ですね。

有価証券報告書で開示されている政策保有株式の金額にネットキャッシュ(現預金-有利子負債)を足した金額の総資産に占める比率なども見て、キャッシュの潤沢さを見ることもできます。

潤沢に政策保有株式を保有することは、株主資本コストを上げることにもなり、その一方、資産が膨らんでいるためROEにもマイナス影響があり、それが課題だということを言っているのだと思います。この株主提案の内容自体は合理性があるかなと私は理解しています。

株主提案に対して取締役会は何と言っているのか?

では、上記の株主提案について取締役会は何と言っているのでしょうか?「政策保有株式をさっさと売却せよ」という主張に対してどう考えているのかです。同じく「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」に取締役会の意見として次の内容が記載されています(黒字の箇所は強調のため私が付しました)。

当社は、営業上の取引関係、事業上の関係、金融取引関係の維持・強化・拡大を通じて、中長期的な観点から当社の企業価値向上に資すると判断する場合に政策保有株式を保有することとしております。個別の政策保有株式について、当該政策保有株式を保有することが当社グループの中長期的な企業価値向上に資するか、投資先企業と当社グループとの取引関係、事業上の関係の重大な変動(当社グループの事業運営に悪影響を及ぼすもの)の有無、投資先企業の重大な不祥事発覚の有無、保有する経済合理性等を年2 回取締役会で報告し検証しております。また、それらの検討の結果、保有する経済合理性等が認められなくなった政策保有株式は、売却などにより適切に対応することとしております。一方、本議案は、投資先企業との関係性、事業運営上の必要性、保有することによる経済合理性等に関係なく、2025 年12 月31 日までという短期間内に政策保有株式の全てを処分することを求めるものであり、当社の企業価値向上に資するものとは言えないと考えております。
また、本議案の内容を会社の根本規範である定款に設けることは適切でもございません。以上の理由により、当社取締役会としては、本議案に反対いたします。

「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」から抜粋

要は、政策保有株式は中長期的な企業価値向上等に資するという合理性があって保有しているのであり、それを売却せよという主張は企業価値向上に資さないということかと思います。
けど、株主提案に照らして読むと「うーん」と私は思ってしまいます。この内容って株主提案に直接回答しているのかなというのが個人的な意見です。

株主提案では政策保有株式の保有はボラティリティが高くなる、ROEにマイナス影響があると主張しているのだと思いますので、企業価値向上云々を語ることも大事ですが、その前に質問の点に回答する必要があるのでは?と感じました。

株主はどう判断すればよいか?

結論から言うとこれは鳥越製粉の各株主が決めることですので、私がここでどちらに賛成すべきであるかは言うことは出来ません。前回私が書きましたような政策保有株式に対する資本市場の動き、コーポレートガバナンスの要請などをしっかりと踏まえ、株主提案と取締役会の意見のいずれが合理性があるか、会社の実質的な所有者である株主が判断することになるのだと思います。

けど、そうなると話は終わってしますので、もう少し続けます。

では、私が鳥越製粉の株主としたら、どう判断するかということで考えます。私であればコーポレートガバナンスの観点から考えると基本的に株主提案に賛成するかなと思います。

仕事でも多くの機関投資家と対話をしていますが、政策保有株式の保有はゼロにせよという機関投資家はかなり多く(ほとんどか?)、これが資本市場の潮流であることは疑いのないことです。ただし、前回も触れましたように政策保有株式の保有に「合理性」があれば話は別です。

上記の鳥越製粉の取締役会の意見を見る限りでは、これは同社のコーポレートガバナンス報告書で既に開示済の文章と実質同じで、もう少し突っ込んで確認したいところです。私であれば、以下のような点を会社に聞いてみたいなと思います。

1 どういう検証方法で毎年2回しているのか?
2 検証において社外取締役はどう意見しているのか?
3 検証をしていながら有報を見る限り銘柄数が減っていない理由は?

 政策保有株式を保有することで企業価値がどうして向上するのか?
5 削減すると企業価値向上にどういうマイナス影響が出るのか?

毎年2回の取締役会での検証というのは結構頻度が多いかなと思います。つまり、それだけ厳格に検証しているとも読めます。
であればこそ、上記内容をつっこんで会社に聞いてみたいところです。特に資本市場の少数株主の利益の代弁者である社外取締役は取締役会で政策保有株式の縮減について、どういう意見を言っているのか社外取締役本人に聞いてみたいところです。

私が株主とすると、上記5つの質問に対する会社の回答に合理性があると判断すれば、取締役会の意見を尊重しますし、そうでないと判断すれば、株主提案に賛成することになると思います。
政策保有株式は多くの企業も毎年縮減を進めているという現状に鑑みると、業務・資本提携等の関係があって保有しているような場合を除き、保有する意義がどこにあるのか、縮減することでどういうデメリットがあるのかが一番の関心です。

政策保有株式の縮減に関する企業への株主提案は今後も増えるでしょう

ということで、鳥越製粉の株主提案をケーススタディーとして政策保有株式の売却・縮減に関する株主提案の初期的な分析について書いてみました。
上場企業に対する株主提案の数は増加の一途ですが、政策保有株式の売却に係る提案は多いですね。今後も増加し、それに賛同する機関投資家も増えるのだと思います。

政策保有株式の売却に伴い、自社の政策保有株主もいずれ世の中からなくなりますが、そのような中で経営の安定をどう確保するかが企業の課題になります。そのためには、株価を高める努力を怠らず、中長期で投資をしてくれる準安定株主を持つことが大事になりますね。