楽園のカンヴァス 読書感想
あらすじ
ニューヨーク近代美術館で働くティム・ブラウンの元に一通の手紙が届く。
曰く、アンリ・ルソーの作品を調査してもらいたいと。その作品は同氏アンリ・ルソーの「夢」と告示した作品だった。果たして本物なのか偽物なのか。その先に待っている更なる謎とは。
感想
美術ミステリーは初ジャンルだったがとても面白い作品で手が止まらなかった。
著者が「ダヴィンチコード」を意識して書かれたと聞いて納得。映画しか見たことはないのだが。
本書はミステリー構成になっており、謎の鍵は一冊の本の中にある。
このガジェットは本好きにはたまらない。そういう方も多いのでは?
恩田陸さんの「三月は深き紅の淵を」の時のようなワクワク感があった。
蛇足と愚考 (ネタバレありのため注意)
物語の中で重要となってくる”アンリ・ルソー”。
今まで存じ上げなかったので調べてみた。
ネットで作品を見てみると確かにあまり上手と思えない作品も出てきた。
「私自身:肖像=風景」という作品などは日曜画家と言われてもしょうがないのではないかと思う。
しかし「夢」や「飢えたライオン」など密林を描いている作品には吸い込まれるような魅力がある。
確かに遠近法の奥行きは感じられないのだが、木や葉に独特の立体感がありなんとも奇妙でずっと見てしまう。本物が見たくなった。
もう一点気になったことが、コンラート・バイラー氏の存在だ。
本作は史実に則ったフィクションだが、バイラー氏は本当に存在しているのか。
作品の協力欄に”バイエラー財団”の記載があるので、このバイエラー財団が元になっているのだろう。
さっとネットで検索しただけだが、「夢を見た」とは来歴が少し違っているように感じるが、名前の漢字とも相待ってバイエラー財団が元になっているのだろう。
本書はフィクションである。
だがもし、本当にある絵画の下に有名作家の未発見作があるとわかったら、どちらを選ぶべきなのだろうか。
表の作品の美術的価値によって決めるのか。有名作品・有名作家の作品であれば元を残し、有名ではなければ取り除く、的な。
正しいようではあるが、なんとも名状し難い心情になる。
無名作家は美術的価値が無いのか。美術的価値とは。
読んでいる間そんなことを考えさせられた。
最後に
ヤドヴィカの子供が、バイラーとの子供か、ルソーとの子供か、直接的な表現は無かった。
個人的な思いとしては、ルソーとも子供でないでほしい。
ルソーからヤドヴィカへの愛は、モデル的な、偶像的な、女神へ送るような愛であってほしいなと思う。
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