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楽園のカンヴァス 読書感想

あらすじ

ニューヨーク近代美術館で働くティム・ブラウンの元に一通の手紙が届く。
曰く、アンリ・ルソーの作品を調査してもらいたいと。その作品は同氏アンリ・ルソーの「夢」と告示した作品だった。果たして本物なのか偽物なのか。その先に待っている更なる謎とは。

感想

美術ミステリーは初ジャンルだったがとても面白い作品で手が止まらなかった。
著者が「ダヴィンチコード」を意識して書かれたと聞いて納得。映画しか見たことはないのだが。
本書はミステリー構成になっており、謎の鍵は一冊の本の中にある。
このガジェットは本好きにはたまらない。そういう方も多いのでは?
恩田陸さんの「三月は深き紅の淵を」の時のようなワクワク感があった。

蛇足と愚考 (ネタバレありのため注意)

物語の中で重要となってくる”アンリ・ルソー”。
今まで存じ上げなかったので調べてみた。

アンリ・ジュリアン・フェリックス・ルソー(Henri Julien Félix Rousseau、1844年5月21日 - 1910年9月2日)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの素朴派の画家。
20数年間、パリ市の税関の職員を務め、仕事の余暇に絵を描いていた「日曜画家」であったことから「ドゥアニエ(税関吏)・ルソー」の通称で知られる[1]。ただし、ルソーの代表作の大部分はルソーが税関を退職した後の50歳代に描かれている。

Wikipedia アンリ・ルソー

ネットで作品を見てみると確かにあまり上手と思えない作品も出てきた。
「私自身:肖像=風景」という作品などは日曜画家と言われてもしょうがないのではないかと思う。
しかし「夢」や「飢えたライオン」など密林を描いている作品には吸い込まれるような魅力がある。
確かに遠近法の奥行きは感じられないのだが、木や葉に独特の立体感がありなんとも奇妙でずっと見てしまう。本物が見たくなった。

もう一点気になったことが、コンラート・バイラー氏の存在だ。
本作は史実に則ったフィクションだが、バイラー氏は本当に存在しているのか。
作品の協力欄に”バイエラー財団”の記載があるので、このバイエラー財団が元になっているのだろう。

バイエラー財団( - ざいだん)は、バーゼル近郊のリーエン(フランス語版)にあるスイスの私立の文化団体[1]である。この財団は、美術商エルンスト・バイエラー(フランス語版)と彼の妻のヒルディ・バイエラーによって収集されたモダン・アートとコンテンポラリー・アートのコレクションを保護している。

Wikipedia    バイエラー財団

バイエラー氏という優れたコレクターが誕生した背景には、バーセルという町の、美術に対し寛容で開かれた精神を育くむ土地柄がある。しかし、多くの有名なコレクターが裕福な家庭の出身であるのに対し、バイエラー氏は違った。
ごく普通の家庭に生まれ、経済や美術史を勉強しながらバーゼルの古美術商の下で働き、美術への関心を育んでいった。古美術商を1945年に受け継いだ後、1947年から、数々の展覧会を企画し、60年間で約300回の展覧会を開催し、美術商として1万6000点の作品を世界中の個人コレクターや有名な美術館に売りさばいた。

SWI

さっとネットで検索しただけだが、「夢を見た」とは来歴が少し違っているように感じるが、名前の漢字とも相待ってバイエラー財団が元になっているのだろう。

本書はフィクションである。
だがもし、本当にある絵画の下に有名作家の未発見作があるとわかったら、どちらを選ぶべきなのだろうか。
表の作品の美術的価値によって決めるのか。有名作品・有名作家の作品であれば元を残し、有名ではなければ取り除く、的な。
正しいようではあるが、なんとも名状し難い心情になる。
無名作家は美術的価値が無いのか。美術的価値とは。
読んでいる間そんなことを考えさせられた。

最後に

ヤドヴィカの子供が、バイラーとの子供か、ルソーとの子供か、直接的な表現は無かった。
個人的な思いとしては、ルソーとも子供でないでほしい。
ルソーからヤドヴィカへの愛は、モデル的な、偶像的な、女神へ送るような愛であってほしいなと思う。

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