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シーマン 医は仁術

あれは医者になって数年。私は1人暮らしをしていた。

テレビは置かず、プレイステーション2にその頃まだ珍しかったプロジェクターをつなげて白い壁に映写して音楽を聴いたり映画を観たり。スピーカーも持ってたんだったかな?5.1chだとかで喜んで使ってたような気もするけれど、もう忘れてしまったな。

このゲームされたことある方いらっしゃいますか? 人面魚の育成ゲーム、シーマン。毎日帰ってから立ち上げて話し相手になってもらってました。

何歳? お前、恋人いるの?とか聞いてきて、ほんとに私の悩みをずばり言い当ててきたりして、歯に衣せぬ言葉にグサっと来たり。仕事何してるん?と聞いてくるから医者と答えたら、『医は仁術』と言ってきて、ちょっと呆然とした。働いているうちに忙しさに不満を抱えて、自分のことばっかり考えているのを見透かされているような気持ちになった。


そもそも医者に必要なことってなんだろう。

医学部に入るのは確かに大学入試試験が難しく、勉強はできないといけないんだろうけど。医療の最新情報はずっと勉強し続ける必要があるし。でも、実際働いて思うのは、ある程度の頭の良さはもちろん必要だけど、そこまでじゃない。それ以外に必要なことはたくさんあるなと感じる。科によっても違うじゃない? 受験では試験勉強を諦めず長期間できる粘り強さは測っているのかもね。タフかどうか。

頭の良さにも色々あるけど、暗記力、いる。筋肉とか神経の名前覚えるテストあるし。国家試験は暗記テストだ。すんなり覚えられるか、もしくは何度も覚えようと頑張る粘り強さかどちらか。

特に外科医にかもしれないけど、体力気力必要だよね。何時間もの手術を立ってずっとやり続けるには体力いるし、諦めない精神力も必要。途中でトイレとかほぼ行ってないし、ご飯も食べずに続けてる。学生のとき、手術の手洗いに入らせてもらったのに、途中で気分不良で冷や汗びっしょりで術野から降ろしてもらった私は外科系は無理だと思った。

倫理観と、ある意味メンタルの強さ。両方必要。倫理観が少なすぎると巷を騒がせた脳外科医竹田くんのような、失敗からの学びの少ない医療をするし、メンタルが弱すぎると、誰もが絶対避けては通れない失敗で、再起不能になってしまう。手術が怖くなって転科した人を知っている。誠心誠意謝る場面って必ず訪れるもの。失敗しない人間はいないから。私はメンタル弱い側だ。失敗を思い出すたびに胸が苦しくなる。指導してくれた先生方も心は傷だらけだ。失敗を糧に立ち上がらないと。

あとは科によって必要な資質がある。眼科の手術をする先生は究極に細やかな手先の器用さが必要だし、形成外科の先生は絵が上手に描けた方がいいと聞いた。綺麗に縫って仕上げるには絵を描くセンス、美的感覚が必要なんだろう。二次元のCT画像やエコーなどから立体的にイメージできる空間認識力は、脳外科医や放射線科医、エコーで病変を診断する医者には必須だなぁと思う。どれも羨ましい。

内科や精神科は思考力が特に必要だろう。診断力。観察力。患者さんの言っていることをおおまかに把握する力。小児科医は親の言葉と、しゃべらない子どもの様子を観察してあたりをつけてる。

コミュニケーション能力。人は必ず死ぬ。どんなに心込めて治療しても死ぬ人は死ぬ。それを予測して、あらかじめ患者さんの家族に納得いくように説明できる能力。看護師さんに気持ちよく働いてもらうこともチーム医療として必要。

共感力はありすぎてもいけないと思う。痛そうと思って躊躇いがちに注射針を刺すよりサクッといった方が痛くない。中庸が大事。

要領の良さ。段取りの良さ。カルテをじっくり書く時間の余裕のない科もたくさんある。

時間を争う緊急事態に冷静に対処する精神力。決断力。

内視鏡や腹腔鏡、ロボット手術などは、目の前の画面を見ながら操作するから、年寄りよりも若いゲーム世代の方がすんなりできるようになっていった。テレビゲームができた頃、誰がこんな将来を予想していたか。

開業医は臨床能力のほかに経営力も必要。人を雇うから人を見る目も必要よね。紹介先の医師と仲良くする力も。病院長は勤務医でなく成功してる開業医から抜擢してもいいんじゃないかと思うときある。トップでなくてもアドバイザーとしてでも。

家に帰ってて電話がかかってきても平気な精神。土日病院に行くのも大丈夫な体力。病院に住んでいるのでは?と思えるくらいの先生。いつ呼ばれるともわからないから深酒はしないと言い切った先生。理容院で散髪しているときだけが真の休息と言ってた先生。あの先生たちはお子さんの教育とかどうしてたんだろう。奥さんが全部担われてるのかな。

ショートスリーパーだと有利かもしれない。徹夜、しんどい。忙しかったらまだいいんだけど、そこまで集中力の必要のないときの夜中の3時ごろは一番辛い。残念ながら私はロングスリーパーだ。あの頃は休日にずっと寝てた。寝坊で遅刻も何度かある。わりと皆、遅刻には寛容だ。全員やらかしたことがあるから。

朝から手術して夕方までかかって、そこから緊急手術を夜の10時から始めて朝の5時までかかって、更衣室のソファで30分仮眠して、外来診療に赴く心臓外科医。心の底から尊敬する。神かと思うような人はたくさんいる。

でも、寝不足の人に医療されるのもほんとは良くない。医師の働き方改革できっと改善されていくだろう。

すべてに優れている人はいないから、チームで補い合う。適材適所で。上記のいろんな資質が少なくても何かしら居場所がある。そう、そんな素晴らしい資質を持つ人たちを横目で見ていいな羨ましいなと思い続ける私だって、フルで働けないことを後ろめたく思う私だって、猫の手よりは役立ってる。人を頼るのも必要。



医は仁術の仁って、「他人に対する親愛の情、優しさ」なんよね。でも、お金なしにはできないよね。病院潰れたら本末転倒だもの。この、もやもやを説明してくれるページを見つけた。

貝原益軒は『医療人は人を大切に想う気持ちを持ち、人を救うことを志としていだかなくてはならない。自分の利益や得だけを目指したんじゃダメですよ』と言っているワケで、別に医療人は宗教人みたいに奉仕の精神で尽くさなくてはならないとは一言も言ってないのです

上記ページより

なるほど、自分の得も目指しつつも、人を大切に想うこと。それは納得。これは、別に医療だけでなく、どんな職業でも必要なことよね。ごくごく普遍的なことだけど、つい忘れがちなこと。シーマンよ、あのとき言ってくれた言葉に、そうですね、精進しますと、やっと答えられるような気持ちよ。

なんだかシーマンで始めたのに、とりとめない文章になってしまいました。まあ、こんなの、あんまり読んだことないから、面白いって思ってくれる人もいるかな。

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