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アンコール 7 「サヨナラ?」

 実は、彼女が演奏をしながら歌を歌っている時から気がついていた。

 真っ白なワンピースの胸元には、一輪だけ名も知らなぬ小さな花束の刺繍がしてあって、それを確認しようとすると、暗い店内でも下着が透けているのがわかってしまう。

ー すみれ色の、細かい花弁がびっしりと集まって出来ている、どこか寂し気な可愛らしい花だ。

 見たことがあっただろうか、彼女が刺繍を施したのだろうか、などと思い付くたびに目をやっては、しまった、と後悔する。

 そんなわけで、僕は彼女から何度かは白々しく、わざとらしく、目を逸らしたりなんかしていた。

 そろそろ店を閉める、と店主が言うので、支払いを済ませて、彼女に話し相手になってくれた礼を言うと、椅子にかけていたスーツの上着を羽織って通勤鞄を手にする。

 会話の方はちっとも盛り上がらなかったし、楽しかったのかどうかは微妙なところだったが、馬頭琴の演奏が見られたし、彼女の歌声は美しかった。

 さて、店を出よう、と立ち上がると、彼女も同じように立ち上がり、馬頭琴の仕舞われているケースの持ち手を掴み、もう片方の腕にはコンビニ袋を担ぎ、僕の後ろをついて来る。



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