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読書録「確率論と私」

伊藤清「確率論と私」(岩波現代文庫)

ブラック・ショールズモデルの基礎となる「伊藤の定理」を発見した伊藤清先生の唯一のエッセイ集。

日本の確率論研究の基礎を築き、かつ多くの後進を育て、また京都賞をはじめ、国際数学連合の主催するガウス賞の受賞など数々の栄誉に輝いた伊藤先生の「確率論を数学的に厳密かつ精緻なものにしたい」と真摯に研究に打ち込んだ姿がうかがえる。

「『金融の世界』への不安」という項で自身の「伊藤の定理」が金融という思わぬ形で応用されたことについて触れている。

私は、如何なる時代の、如何なる名のもとに行われる戦争にも反対したいと思っておりますが、ここで「経済戦争」にも反対したいことを付け加えたいと思います。といっても、経済の何たるかが解りませんので、ホモ・ロクエンスの友である広辞苑で「経済」の項を読んでみました。①国を治めて人民を救うこと。②人間の共同生活の基礎をなす物質的財貨の生産・分配・消費の行為・過程、並びにそれを通じて形成される人と人との社会関係の総体。と書いてあります。「経済」の意味がこのように総合的なものである以上、「経済」の一部である「金融」から、更に派生したに過ぎない商品や、そのディーラーの名のもとに行われる戦争を一刻も早く終わらせて、有為の若者たちを故郷の数学教室に帰していただきたいと思うのは妄想でしょうか。たとえ彼らが志願兵であったとしても、あの杜子春でさえ、桃の花咲く田園に帰っていったのですから。

人はみな、絶え間ない偶然に支配されつつ、時間の中を歩んでいますが、その歩み方の拠り所となるのは、その人自身の価値観です。(p142)

コスパのよいこと、すぐに利益を手にできることに血眼になっているような人をみると悲しい気持ちになる。

ねたまぬように あせらぬように
飾った世界に流されず
好きな誰かを思いつづける
時代遅れの男になりたい

目立たぬように はしゃがぬように
似合わぬことは無理をせず
人の心を見つめつづける
時代おくれの男になりたい

河島英五「時代おくれ」

僕は時代おくれでも良いから人々が見過ごしてきたものの中に輝くものを見出していきたいと思う。

今日も皆様にとってよい一日でありますように。

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