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【小説】女子工生⑬《広樹の失恋》

イヴ・イヴの昼ごはん

 12月23日、終業式の日、文化部は写真部以外休みになった。
写真部は、弁当を食べ 街の中を撮影しに行くのだそうだ。
真白(ましろ)達ロボ研も、鈴音(すずね)と咲良(さくら)の茶華道部も今日は休みだ。

 鈴音と咲良は 朝、着替えやプレゼントなどを入れたバッグを持参で登校した。
今朝は、それぞれ親の車で送ってもらったらしい。
真白も母の車で来た。
また、帰りに真白の母が迎えに来て、3人一緒に 真白の家に行くのだ。
途中、食材やお菓子、ジュースなどを買い出して行く。

 清文(きよふみ)は、昼まで部活があるので、部活に出て、一旦帰宅し出直す。
他の4人は昼食をどこかで食べて帰ろうと言う事になった。
その後、一度帰って、真白の家に1番近い清文の家の前に3時頃集合し、一緒に行く事にした。
終業式後のホームルームが終わり、皆それぞれに動き出した。

「じゃあ、3時頃ね。待ってるね。」

3人の女子達は、連れだって教室を出て行った。

「俺、部活行くわ。」

清文がTシャツとハーフパンツに着替えて、徹(てつ)達に声をかける。

「うん。頑張れ。3時前ぐらいにお前んち行くから。」

「了解。」

清文が小走りで体育館の方へ向かうのを見て、
広樹(ひろき)が腕をさすった。

「おー、見てるだけで寒そう。」

聡(さとし)もマフラーを巻きながら肩をすくめた。

「本当だね。でも あれですぐ汗びっしょりになっちゃうんだろうな。」

「清文って、見掛けチャラいのに、いろいろ真面目だよな。俺、最初の頃とイメージ随分違うよ。」

徹は手袋をはめながら笑った。

徹、聡、広樹、勇介(ゆうすけ)の4人は長時間いても あまり店の迷惑になりにくい、ファストフード店に行った。
昼まで まだ2時間ほどある。
いつもの大助ラーメンでは、お昼のかき入れ時に、何時間も居座っては、えらい迷惑だ。
まあ、ファストフード店でも迷惑じゃない訳ではないので、店の隅のテーブルに落ち着く。

「真白の家の前までは 何度か送ってった事あるけど、家に上がるのは、初めてだな。」

勇介が、カフェオレを
フーフーと吹いて冷ましている。
勇介は、少し猫舌か。
徹は勇介ほど熱い物が苦手ではないので、ホットコーヒーに口を付けた。

「うん。でも3時半頃からで 夕飯も真白の家で済ます事になると、時間、遅くなるね。真白んちに迷惑じゃないかな。」

「真白なら、だめならだめって言うよ。中学の時の事もあるし、友達を家に招いて、何かするって、逆に安心するんじゃねえ?家の人は。」

相変わらず、広樹はコーラのLサイズ、ポテトにアップルパイ、季節限定のチョコクリームパイを 目の前に置いて食べている。
聡が呆れた顔で 溜め息混じりに言った。

「見てるだけで胸が焼けそう。後で昼飯も食べるんでしょ?」

「当たり前じゃん。これは10時のおやつだ。」

「ところでヒロはイヴ・イヴの日に、男だけでご飯食べてていい訳?気になる彼女はどうしたの。この間買ったネックレスは?」

先日の買い物で、広樹はダイヤモンドカットされた小さなガラスが付いた、星のペンダントを買っていた。
ピンクのリボンが掛けられた細長い箱を鞄の中から取り出し、少しうなだれ 力なく言った。

「誰かこれ、いる人ー。」

「は?どうした。」

勇介は、飲んでいたカフェオレをテーブルに
どん、と置いて食いついた。
広樹は俯(うつむ)いたまま 箱をテーブルの真ん中に置いた。

「さっき学校で、コレあの子に渡して告白して、上手く行ったらさ、今日こっちをキャンセルするつもりだったんだ。」

「うん。」

「でさ、ホームルーム前にデザイン科の方へ行ったら、あの子が友達と喋ってて」

皆は黙って続きを待つ。

「終業式が終わったら、他校にいる彼氏とデートだって・・・・」

「あちゃー。」

「あらー。」

「でさあ、せっかく買ったから 捨てるのも何だし、真白達にあげるのも違う気がするし。
誰か、女の姉妹とか、母親とかにあげる人いない?聡、お姉さんと妹さんいるんだろ?」

「そんなの どっちか1人にあげれば、もう1人から蹴り喰らうよ。テツは?お姉さんにあげれば。」

「うーん。姉ちゃんかあ。姉ちゃん今、社会人の彼氏がいるみたいだから、そういうの 貰うんじゃないかな。俺がやったら、気味悪がられる気がする。勇介は?」

「俺、中学生の弟しかいねえもん。」

「どうしたもんかね。」

聡はひとくちコーヒーを啜(すす)った。

「あ、清文に聞いてみたら?清文、妹さんいたよね。確か。」

「うん。そうしようかな。後で合流した時に聞いてみる。」

広樹はモソモソとパイを食べている。
隣に座っていた勇介が、広樹の背中を バンと
叩いた。

「元気出せ。今日は楽しいクリパだ。広樹が沈んでたらつまんねえよ。」

「ありがと。・・・あの子の事、メチャメチャ好き!って程じゃなかったんだけど、やっぱり少し好きだったみたいで。こんなに気持ち、落ちるとは思わなかった。自分でも。」

徹が話題を買えようと、少し明るい声を出した。

「そろそろ昼飯 買ってこようぜ。ヒロ、お前食える?」

「うん。これと昼飯は別腹だから。」

「流石ヒロだね。恋と食欲は別か。」

「違うよ。おやつと食事は別腹なんだよ。」

「・・・・・・。」

その後は敢えて、失恋の話題には触れず、今日渡された通知表の事や、部活の話しに終始した。

みんなで、気分を上げようと勤めたが、徹は真白にクリプレを渡すのが怖くなった。
告白しようかとも考えていたが、今の関係が壊れる可能性もある。
だったら友達として、付き合っていた方がいいのではないか。
そんな考えが頭をよぎった。

昼食を取り終えた面々は、1度家に帰る。

「じゃあ、3時頃 清文ん家の前な。」

「了解。」

「交換用のプレゼント、忘れんなよ。」

「おう。」

4人は自転車で、それぞれ帰路に着いた。

                 ⑭に続く


 



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