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【小説】女子工生⑭《名前の由来》

母、正子のセンス

 真白(ましろ)達は、件のショッピングモールのフードコートで ラーメンを食べていた。
終業式後のお昼時とあって、フードコートは
ごった返していた。真白達が買い物をしている間、真白の母親の正子(まさこ)が 席取りをして 待っていてくれたので、ラーメンの乗ったトレーを持ってウロウロと 席を探さずに済んだ。

高校生8人ぶんと、佐山(さやま)家の分の食材なので、カートはそこそこ一杯だ。
ジュースやお菓子も入っている。
昨夜、約束していた買い物代として、大、小兄から 10000円づつ、計20000円預かった。
ケーキは龍一(りゅういち)が、別で、買ってきてくれるらしい。

「おつり、返した方がいい?」

「いや、いいよ。毎年そのくらいのプレゼントはやってるし、バッシュなんか20000円ぐらいしたし。」

「え、あれ そんなに高いやつだったの?」

「うん。もっと高いやつもあったけど、中学の部活ならこんなもんかなって。」

「知らなかった。今更ながら ありがとうございました。」

「今更ながら、どういたしまして。」

というやり取りがあって、おつりは真白の小遣いになった。
と、言うほど余らなかったが。
 大、小兄のお陰で 軍資金がかなりあるので
当初の予定になかった、切るだけでOKの カラフルなテリーヌや、皿に並べるだけの ローストビーフや 彩り素晴らしいサラダなども買い足したからだ。

ラーメンを食べながら、正子が

「みんな、真白と仲良くしてくれて ありがとうねえ。」

感慨深げに言った。
咲良(さくら)はラーメンを飲み込み、箸を持った手を
顔の前で振った。

「いえいえ、こちらこそです。私、中学の頃から、友達とつるむより、1人でマンガ読んでる方が 好きだったんです。仲良しグループも、クラスでがっちり決まってる感じで、上手く入れなくて。でも、ひとりぼっちが好きって言う訳じゃなくて。工業来て、女の子3人しかいないけど、一緒にいる時はいるし、1人がいい時は ほっといてくれるので、すごい教室にいやすいんです。周りを気にしなくていいって言うか。」

「そうなんです。うちら3人とも 割りとそんな感じなので 工業高校って性に合ってたみたいです。性格や行動パターンは男の子寄りなのかもしれないです。」

鈴音(すずね)もそう言って笑った。

「それより今日の分のお金、出して貰っちゃってすみません。お菓子とかもすごい一杯買っちゃった。」

「そうです、そうです。私、こんなに大量のお菓子買ったの初めて。ちよー気持ち良かった。」

「ねー。」

「いいのよ。龍と、涼が出してくれたし、私はなーんにも。それより私達の分までいいのかしら。」

「私達こそ、大人数になってしまって、お部屋もお借りしますし、当然です。」

鈴音が、キリッと真面目な顔で言う。

「2人ともしっかりしてるわねえ。真白、中学の時、お友達いなかったから、よく分からないわ。今の子はみんな こんなにしっかりしてるのかしら。」

咲良が水をゴクンと飲み、ハッキリと言い切った。

「私達がしっかりしてるかどうかは、分かりませんけど 私達も今日来る男の子達も 真白とはすごくいい友達な事は違いありません。」

「本当にありがとうね。真白、今の学校選んで良かったわね。」

「うん!」

ま真白は満面の笑みを正子に向けた。

「さあ、そろそろ家へ移動しましょうか。」

「はーい。」

4人は立ち上がり、ラーメンの丼を返却口へ戻すと、カートを押して 歩きだした。

「大量の焼きそばと 唐揚げを作らなきゃね。おばさんもお手伝いさせてね。わたしも娘の友達と、なんて初めてなの。」

「何で私より お母さんが張り切ってるの。」

「だって楽しみだったし、夢だったのよ。
娘のお友達、おうちに呼んでお料理とか。」

「お母さん、私より夢見る夢子ちゃんなところあるよね。私の名前もあやうく“プリンちゃん”
とかに なるところだったらしいし。」

「あら、何で知ってるの?私、その話し、した事あったかしら。」

「お父さんから聞いた。風に鈴で“風鈴(“ぷりん”)とか、希羅々(きらら)とか付けたがって、お父さんが全力で反対した。って言ってた。」

「えー?可愛いじゃない。」

「子供の頃は可愛いかもしれないけど、60歳になっても、70歳になってもそのままなんだよ。やだよ、70歳過ぎてプリンばーさんなんてさ。年取って病院行ってさあ、『佐山プリンさーん。』なんて呼ばれて、見たら ヨボヨボばーさんが、血圧の薬なんか受け取ってんの想像してよ。」

「可愛いじゃない。・・・風鈴とか希羅々とか麻蘭(まろん)とか。・・・・。」

正子は口の中で ぶつぶつ言っている。

「え、プリンと、きらら以外にもあったの?」

「うん。5、6個考えてたもん。」

「お父さん、よくやった。よく止めてくれた。」

2人のやり取りを聞いていた、鈴音と咲良が 吹き出した。

「あははは・・・お、お母さん、可愛い!真白よりよっぽど乙女だね。」

「クスクス うん。でも真白って名前も、女の子らしいよね。」

正子は“可愛い”だの“乙女”だのと言われ、機嫌が良い。

「真白はねえ、主人と考えて付けたの。いつも真っ白な心でいられる様に、穢れのない心で物事を見る子になります様にって。」

「へー。素敵・・・」

咲良が呟く。

「真白が生まれた日、ものすごい大雪が降ってね、病院の窓の外が 一面雪景色で、真っ白で、この名前がいいねって。」

「真白って名前、真白にピッタリだと思うよ。」

鈴音が大荷物のカートをガラガラ押しながら言った。

「色んな事に真っ直ぐだし、一生懸命で、優しいとこもあるし、名は、体を現してます。安心してください。お母さん。」

「ホントにいい子達だこと。」

正子は鈴音の言葉はもとより、真白に良い友人が出来たことに安心していた。

                ⑮に、続く


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