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【ハートフル】父と娘と彼氏と彼女

この記事はオーディオドラマシアター SHINE de SHOWに再掲されています。今後はそちらのアカウントにてご覧ください。

目のかゆさとくしゃみにより、ハッと春を感じ始めてしまった今日この頃。
同様の症状にお悩みの皆様へ、季節をひとつ巻き戻し、
クリスマスを舞台にしたショートストーリーをお見舞いさせて頂きます。

日本中のリア充が色めき立つクリスマス・イブに、
2組のカップルが交差することで巻き起こるドタバタ劇!!
4人の男女が繰り広げるノリとテンポ命の会話をぜひお楽しみください!!

そして、「痛みますか?」に登場し、
強烈キャラクターとして印象を残した、あのドSな歯医者さんが、
なんと今回は尻に敷かれまくるドMへと大変身!!
出演者によるキャラクターの演じ分けにもご注目ください!!

*byプロデューサー 田中見希子

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▶ジャンル:ハートフル

▶出演
・宗介:青木弘和(東北新社)
・祐希:田中見希子(東北新社)
・翔:稲村忠憲(オムニバス・ジャパン)
・舞衣:吉田千恵(東北新社)

▶スタッフ
・作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)
・プロデュース:田中見希子(東北新社)
・収録協力:映像テクノアカデミア


『父と娘と彼氏と彼女』シナリオ

登場人物
 宗介(47)
 祐希ゆき(25)宗介の娘
 翔しょう (27)祐希の恋人
 舞衣まい(24)宗介の恋人

   テーブルに並べられていく食器。
宗介「(鼻歌でジングルベル)そろそろだな。シャンパン冷えたかなー」
   チャイムが鳴る。
宗介「うわ、早いよ早いよー! はいはいはいはい。今出ますよー」
   玄関のドアが開く。
祐希「ういっす」
宗介「……祐希かよ」
祐希「祐希かよはないっしょ。娘に対して。ねえちょっと聞いてよ」
宗介「ちょっと待ったちょっと待った」
祐希「何よ」
宗介「今日まずいんだよ」
祐希「何が。誰もいないじゃん。一応靴ないの確認したよ」
宗介「だから今から来るんだって! おいおい、勝手に上がるなよ!」
祐希「誰が来んのよ」
宗介「それは……言えないけど」
祐希「言いたくなきゃ聞かないけどさ。それより聞いてよ。あたしのさあ──」
宗介「彼女が! 彼女が来るんだよ」
祐希「ふーん」
宗介「……」
祐希「でさあ、聞いてくれる?」
宗介「聞かないよ! なんだよ。相談があるならママに聞いてもらえばいいだろ!」
祐希「うわ、すごーい。これターキー? パパ自分で焼いたの?」
宗介「まさか」
祐希「だよね。パパが料理なんかね」
宗介「だからママにさあ」
祐希「ママ、いま彼氏と温泉旅行中なの」
宗介「へえー」
祐希「気になる?」
宗介「誰が。つーか困るんだって。ほんとに」
祐希「娘が悩んで実の父親に相談しに来てんのよ」
宗介「だからさ、明日聞くから。な、な」
祐希「明日じゃダメだから来てんでしょ!」
宗介「今すぐ聞かないといけない悩みなんかないだろ。それよりも今日はダメなんだよ、俺が」
祐希「もう、そんなんだから逃げられるんだよ、ママに」
宗介「何十年前の話だよ。余計なお世話。相談あるならラインしといてくれ」
祐希「女心っていうものを全然わかんないもんね。パパは」
宗介「ほっとけ」
祐希「ママ、彼氏に毎晩お姫様抱っこでベッドに運んでもらってるらしいよ」
宗介「そ、そうなんだ。らしいよってどういう意味だ」
祐希「ママ、彼氏と暮らすって家出てっちゃって、今、ウチあたしひとりだけで住んでんの」
宗介「エッ、マジかよ」
祐希「あ、正確に言うと、あたしと彼氏と二人だけどね」
宗介「へえー……エッ! なに彼氏と暮らしてんだよ。あれは俺が買った家だぞ、俺が!」
祐希「もうパパんちじゃないでしょ」
宗介「絶対許さん、その男」
祐希「だからさあ、その男の相談に来たの、あたしは」
   チャイムが鳴る。
宗介「うわー、まずいよまずいよ。来ちゃったじゃないかよ!」
祐希「ちゃんと紹介してよね」
   玄関のドアが開く。
宗介「……え?」
翔「え?」
宗介「どちら様?」
翔「あんたは?」
宗介「ひとんちに来といてあんたはないだろ。あんたこそ誰だ」
翔「いるんだろ?」
宗介「おいおい勝手に上がるなよ、こら!」
翔「出てこいよ。隠れてんなよ!」
宗介「誰だお前!」
翔「お前こそ誰だよ。祐希をどこに隠したんだよ!」
宗介「祐希? ははーん、お前が彼氏か」
翔「俺は彼氏だよ。お前は何だよ。もしかしてパパってやつか?」
宗介「おう、そうだよ。パパだよ」
翔「あいつ、いつからパパ活なんか!」
宗介「いつからって、俺はずーっと祐希のパパだよ」
翔「聞いてねえぞ。おい、祐希! 出てこいよ!」
宗介「祐希に何の用事か知らないけどな、お前に祐希のことを勝手にはさせないぞ」
翔「いい度胸じゃねえかよ」
宗介「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと苦しいからやめなさい。その手を放しなさい」
翔「喧嘩売ってきたのはおめえのほうだろ?」
祐希「やめて!」
翔「祐希!」
   ドカッと床に崩れる音。
祐希「パパ!」
宗介「うー苦しかったー」
翔「誰だよこいつは!」
祐希「パパったらパパよ。本物のあたしの父親!」
翔「え、嘘だろ? お前、父親死んだって言ってたじゃん!」
宗介「何で俺死んだことになってんだよ」
祐希「えへへへ、だって説明するの面倒くさかったんだもーん」
宗介「面倒くさがるなよ! ちゃんと説明しとけよ」
祐希「ごめんなさい」
翔「本物の父親……」
祐希「あたしの実のパパ。ママとはあたしが小学校の時に離婚したの」
翔「そ、それは大変失礼いたしました! お父様とはつゆ知らず、大変ご無礼を! 私、祐希さんと半月ほど前よりお付き合いさせていただいております高田翔と申します!」
宗介「いやいや、わかったらいいんです。わかったら」
翔「いえ、そういうわけには。首、大丈夫ですか?」
宗介「ま、だいぶ襟元締めあげられましたからね。まだなんか喉につっかえたような」
翔「救急車をお呼びしましょうか?」
宗介「いや、それにはおよびませんのでお構いなく」
祐希「オーバーなのよ。昔からすぐ痛がったりして」
宗介「馬鹿野郎。ほんとに痛かったんだぞ!」
翔「すいません! なにか……氷とか何かで冷やしたほうが」
宗介「大丈夫だから。ほっといて。ていうか、君、大体どうやって入ってきたの」
翔「はい?」
宗介「このマンション。ロックかかってるはずだけど?」
翔「あ、祐希のあとつけてきて入ろうと思ったんですが入れなくて、しょうがないのでマンションの人が入るのを待ってて一緒に」
宗介「あー、なるほどね」
翔「ハイ」
祐希「あー、なるほどねじゃないっしょ。どうなのその行為」
翔「お前がどこ行くか心配でつけちゃいけないのかよ」
祐希「そこがいちいちキショいんだよ」
翔「キショいって何だよ! お前を愛していればこそだろ!」
祐希「そこで愛してるとか簡単に言うのがますますキショいの!」
宗介「あのー君らが喧嘩してるのわかったから家に帰って二人でやってくれないかな」
翔「ハッ、すいません。勝手に上がり込んでこんなくだらない口論などしてしまい、大変失礼いたしました!」
祐希「翔だけ帰ってよ。あたし帰んないから」
翔「帰んない? どこ行くんだよ」
祐希「知らなーい。ネカフェだってファミレスだってどこだっていいじゃん」
翔「馬鹿野郎! 真冬のこんな寒空の下、女ひとりでいいわけねえだろ!」
宗介「わかった。わかったから。翔君だっけ? 今日のところはお引取りを。私から娘にはよく言って聞かせるから。ね」
翔「は、はい……」
   玄関のドアが開く音。
翔「それではお父様。今夜は大変失礼し──」
宗介「はいはい。いいからいいから」
舞衣「え?」
宗介「あ」
舞衣「すいません。遅くなっちゃって……」
宗介「あ、いや、あの、こちらお客さん。今お帰りだから」
翔「どうも。失礼いたしました」
祐希「キャー! パパ。うわさの彼女?」
翔「お父様の彼女さんですか? そうですか! これは大変ご無礼をいたしました」
宗介「いや、彼女っていうか……ねえ」
舞衣「はい……」
祐希「ねえねえ、紹介してよ。彼女さん」
宗介「こちら、清水舞衣さん。うちの部の、そのぉ……部下だ」
祐希「やだぁ~社内恋愛?」
宗介「玄関口で話すことじゃないだろ。ま、とりあえず中へ」
   グラスの乾杯。
宗介「とりあえず……シャンパン──」
祐希「カンパーイ」
宗介「つーか、何でお前らも一緒に乾杯してるんだよ!」
翔「すいません。失礼しております」
宗介「君さあ、言葉遣いは丁寧だけど度胸はあるよね」
翔「よく言われます」
宗介「あ、そう。いや、そんなことはどうでもいいから。あのさ、今日俺はこの舞衣さんと二人でイブを過ごそうとしてたの。わかるでしょ? このターキー見たら」
祐希「んー、おいしー!」
宗介「おい、何勝手に食べてんだよ!」
翔「そうだよ。お父さんが今喋ってらっんしゃるんだぞ。いただくのはお話が終わってからにするものだ」
宗介「そういうことじゃないだろ、翔君」
翔「違いましたか。大変失礼を」
宗介「もう説明するの面倒くさいからいい。食べてくださいよ」
翔「はい。それでは遠慮なくいただきます!」
宗介「はいはい(舞衣に)ごめんな、舞衣」
舞衣「いえ、部長。何か楽しいし。いいです」
祐希「舞衣さんは、いくつなの?」
舞衣「私ですか? 私は24です」
祐希「(吹き出す)と、年下じゃん!」
舞衣「え? おいくつですか?」
宗介「こいつこう見えて25なんだよ」
祐希「早生まれ? 遅生まれ?」
舞衣「早生まれです」
祐希「てことはタメじゃん!」
舞衣「そうですね」
祐希「やだー、いやらしー、こんな親父どこがいいのよ」
舞衣「それは……とても私のことを思ってくれますから」
翔「さすがだなあ。舞衣さんはわかってらっしゃる。こいつなんか、俺がどれだけ大切に思ってるかなんてちっともわかってくれやしないんですよ」
祐希「何が大切よ。それならイブの日ぐらいもっとちゃんとやってよね」
翔「やってんだろ」
祐希「聞いてよ舞衣さん。今日はあたしたち付き合って初めてのイブで、だからとっても楽しみにしてたんですよ。そしたらこいつ、安いワインとフライドチキンですよ」
翔「だからそれの何が悪いんだって言ってんだよ」
祐希「それじゃ普通のパーティーでしょ。イブなんだよ。もっと素敵な気分にさせてくれたっていいじゃん」
翔「もっと金かけりゃいいってことかよ」
祐希「全然違う。この人全然わかってない」
宗介「くだらねえ。そんなことで喧嘩してんのか」
祐希「そんなことって何よ。こういうこと相談できるのパパぐらいしかいないじゃん」
宗介「エッ、悩みってこのこと?」
祐希「そうだけど?」
宗介「あのねえ──」
舞衣「私は……いいと思うけどな、そういうカジュアルな感じも」
宗介「え?」
舞衣「私、あなたがホテルでディナーにしようとした時にあなたの家に行きたいって言ったでしょ。そっちのほうがよっぽどいいと思ったんだもん」
翔「舞衣さん、わかってらっしゃるなあ」
祐希「あのね、あたしたちは一緒に住んでるの。社内恋愛でいつもこっそり会ってる舞衣さんとパパと一緒にしないでくれる?」
宗介「お前!」
祐希「あ、舞衣さん、ごめんなさい」
舞衣「ううん。祐希さんの言うとおりかもしれないわ。私はどこかに出かけるよりも、イブの日ぐらい家でゆっくり一緒にいたかった。それだけかもしれない」
宗介「舞衣……」
舞衣「でも、祐希さんも、だからってそんなことで家を飛び出してお父さんのところに来るなんてどうかしてると思う。恋愛は、男と女、二人だけのものだわ。翔さんとぶつかるのを避けてお父さんに相談することかしら? そしてあなたのためを思って追ってきた翔さんに対して、あなたの態度はよくないと思うわ」
祐希「うん……たしかにそうだね……」
翔「俺からも、どうもすいませんでした」
宗介「ま、そういうことだから、二人でゆっくり帰って話しなさい。な」
祐希「うん、そうする」
翔「ほんとにいろいろと……ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
宗介「それじゃ、な」
   玄関のドアが閉まる。
宗介「ふぅ……しかし参ったねえ。とんだイブだわ」
舞衣「……そうね」
宗介「舞衣、どうした? 泣いてるのか?」
舞衣「とんだイブだわ」
宗介「だなあ」
舞衣「私、聞いてませんでした」
宗介「え?」
舞衣「娘さんがいるなんて」
宗介「そうだったっけ?」
舞衣「その前に、バツイチだということも」
宗介「そ、そうだったっけ?」
舞衣「どうして言ってくれなかったんですか? どうして?」
宗介「そのー、言う機会がなかなかなかったからさ。でも今夜わかってよかったじゃん」
舞衣「よかったじゃん?」
   ×     ×     ×
   路上を歩く二人の足音。
祐希「あたし、やっぱり大人げなかったね」
翔「ううん。俺もだ。フライドチキンなんかに勝手に決めちゃって。祐希の希望もちゃんと聞くべきだったよな。ごめん」
祐希「ううん、いいよ。帰ってチキン食べよ」
   ガチャン!と路上にガラスの割れる音。
祐希「キャッ!」
翔「な、なんだこれ。シャンパンの瓶?」
   ×     ×     ×
舞衣「なんで? なんでなの!」
宗介「悪い、悪かったよ」
舞衣「許さない! 許さないから!」
宗介「待て! その皿を投げるなー!」
   ×     ×     ×
翔「あーあ、どっかで誰かが大喧嘩してるぜ」
祐希「やだやだ、こんなイブに。舞衣さんのあの冷静さ、見せてやりたいよね」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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*番組紹介*
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