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大手企業と契約する方法。エンタープライズのベテラン営業・杉本浩一が語る失敗談とそこから学んだこと

「私の未達時代」では第一線で活躍するセールスパーソンを訪ね、失敗をしていた過去から売れるようになった現在までのストーリーを紹介していく。

今回訪ねたのは、大企業向け法人営業(以下、エンタープライズ営業)として、様々な大手企業と新規事業を生み出してきた経験を持つ杉本光一さん。Twitterでは「#ザ法人営業」のハッシュタグで、これまでに培った営業ノウハウの発信をする。

「逃げ道のないエンタープライズ営業をしてきました」と語る杉本さん。これまでどのような経験や苦労をし、またそれを乗り越えてきたのだろうか。彼の営業人生をたどり、紐解いていく。

プロフィール
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、大手通信キャリアへ入社し、IT系ソリューション営業を経て、LINE株式会社へ転職。エンタープライズ企業向けのAPIビジネス推進や事業提携推進を統括。現在スマートフォンに特化したプラットフォームを展開する事業で、アライアンスを所管。TwitterやYouTubeにて「#ザ法人営業」として、営業の現場で役立つTipsやコミュニケーション技術を発信中。

営業が嫌いだった新卒時代。成功体験を重ねて魅力に気づく

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——現在のお仕事について教えてください。

大企業に向けて営業を行う、いわばエンタープライズ営業をしています。具体的に何かサービスやパッケージを売っているわけではなく、サービスの利便性をあげたり、お客様が良い体験ができたりするよう包括的に企画・提案をします。

副業では、コミュニケーションの動画解析をするAIツールを売ったり、大企業とスタートアップ企業がアライアンス締結する際に相談にのる営業顧問的なこともやったりしています。

——杉本さんが営業になったのはいつからなのでしょうか?

新卒で通信系の企業に就職し、エンタープライズ営業に配属。そこから今までずっと営業をしています。実はもともとはエンジニアになりたくて、逆に「営業だけはやりたくない」と思っていたんですけどね。

最初は先輩の鞄持ちのようにくっついて、商談に同行。しかし、すぐに私を担当してくれていた先輩から「一人で行ってこい」と現場に出されて、何も分からないまま一人でお客様先へ行って提案していました。常に実践の機会から日々営業を学んでいましたね。

——新卒の頃で何か印象に残っているエピソードはありますか?

いきなり現場に出て、何も分からず行動した結果怒られたことはたくさんあります。些細なことで言うと、ある会社に「回線のコストを安くしたい」と言われた際、社内の一番安い回線を持っていったことがあります。しかし私が持っていったものは企業用ではなくて、家庭用の回線。持ち帰った際に社内では「なんでこんな提案持っていっているんだ」と叱られましたね(笑)。

——他にも何か覚えていることはありますか。

初期の頃は「NO」と言わない営業を心がけていて、例えお客様のご要望が難しかったとしても、全て受け入れていました。ある工場から「どうしても回線を1週間で引かなければいけない、お願いできないか」と言われた際に、基本的に回線作業は2ヶ月かかるのですが、受け入れて持って帰ってきたことがあります。

もちろん持ち帰った際には上司に「馬鹿野郎」と怒られるのですが、その時はどうにかしてできないかと、社内でお願いし粘り続けました。すると次第に「1年目で頑張っているし、よし、この会社の本気を見せてやるか」と向き合ってくれる人が出てきて、彼らが必死に調整してくれて。

結果1週間で回線を引くことに成功。お客様にも大変喜んでもらえました。その後もお客様とは何度か連絡をとり、その際にも「杉本さんが営業で本当によかった。杉本さんのおかげで危機を乗り越えられた」と言ってもらいました。営業の面白さや楽しさ、魅力に気づいて、営業の道へ進んでいくことにしましたね。

——社内で怒られたら諦める人も多いと思います。「ダメなことはない」と粘り続けたことが、結果につながったんですね。

そうですね。粘り続けることが必ずしもいいことかは分かりませんが、“若気の至り”が良い結果につながった、とても印象的な思い出です。

エンタープライズ営業は1人では成立しません。エンジニアやカスタマーサポート、通信キャリアであれば工事業者や調整してくれる人など、必ず営業の後ろに関係者がたくさんいます。営業は一人でやるものと捉える方もいますが、逆に誰かに頼らないとやっていけないですし、周りに頼るために何が必要かをよく考えていましたね。

リード数はたったの2社。逃げ道のないエンタープライズ営業

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——では杉本さんが経験してきたエンタープライズ営業を教えてください。

エンタープライズの営業は、基本的にリード獲得から受注まで約2年かかります。そのなかで、まずはお客様のアプローチから始める。人間関係を築きながら、提案の機会を作り、私たちはお客様の課題に沿った仮説を立て、解決策の提案をしていきます。実際に契約をもらった際にはプロジェクトをリリースするまで伴走。これが一連の流れです。

何かスパッと受注できる魔法などはなく、受注まで短くても半年、2年以上かかる時も多い。辛抱強くお客様に向き合い続けることが大事ですね。受注額でいったら数千万円〜数十億単位なので、事業インパクトは大きいです。

ーー大手企業のお客様との接点の持ち方が気になります。

満足してもらったお客様からは別の方をご紹介していただくこともありますし、私の知り合いだけではなく、社内のメンバーにもターゲットになりうる人がいないのか聞いて探すようにしています。これまでの受注でも、大きな案件のキッカケは知人からの紹介だったことが多いですね。

ーー非常に大きなお金を動かすことになると思うのですが、決裁者を見つけるポイントはありますか。

決裁者を探すことは、宝探しのようなもの。もちろん、この辺に当たりがありそうだなと目星はつけますが、それも掘ってみないと分かりません。なので、まずはアクションを取ることが大切かと。

そのなかで、私の場合はどちらかというと、ビジョンセリング型(顧客の目指す理想を実現するために提案をする営業スタイル)の営業だったので、「この商品を買えば、こういう未来が実現できます」という企画書を作って先方に提案していました。

またこのようにビジョンを発信していくと、同じような同志がどんどん集まってくる。私のビジョンに共感してくれた人が別の人を呼んで。そうして集まった人たちで、課題に向き合って解決していきましょうと一致団結するんです。これまでも大きな案件を受注する際は、結構こういったパターンが多いですね。

——では、これまでに苦労した経験はありますか?

なかなか受注につながらない場合もある部分です。場合によっては、1年間で売上ゼロとかもあるんですよ。

例えば、お客様の業界がダウントレンドになっていたり、資金調達を検討されていたことがなくなったり。あとはお客様の組織再編で、担当者が変わり、進んでいた案件が水の泡になってしまったりなど。そういった理由で急に案件が消えて、なかなか成果を出せないことが続くこともある。2年間受注がゼロということもあり得るなか、長い目で案件と向き合い続けなければいけないんですよね。

また私の場合はリード数がたったの2つのみ。普通だったら、いくつかあるリードから提案にいく企業を選んでいきますが、「あなたはこの2社しか売ってはいけません」と言われていたので、逃げ道はどこにもない。企業のある部署に提案して断られたとしても、次にその企業の違う部署に営業しにいかなくてはならなかった。厳しい環境でしたね。

相手への“深い理解”と“想像”で、受注へつなげる

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——そういった厳しい環境下で、どのように乗り越えてきたのでしょうか?

もちろん頑張るしかないんですが、自分で動かすことのできるトリガーについては、可能な限り動かす。できるだけ受注に近づけられるよう努力していました。

——なるほど。具体的にどのようなことをしていたのでしょうか。

例えば日々の“改善”。敗因した際には、その分析はとことんやると決めていました。例えば、敗因の原因は、お客様があの部署の担当者に伝えていて、その人が反対したからではないかなど。一つひとつの敗因ポイントを全て振り返り、書き出して、分析していましたね。

“とことん”とはどれくらいかというと、例えば人を“透視”して、その人の血の巡りや体内の仕組みが分かるほど。企業でいうと、部署ごとの人の関係性や、どういった会話をしているのかなどは調べ尽くしていました。

——その“とことん”へのこだわりが肝になっていそうですね。

はい。とことん深堀して相手のことを知り改善する、そのサイクルです。当然ながら全ての情報を知れるわけではなく、一部の情報しか分かりません。そこで相手がどのような動きをするのかを“想像”することが大切だと思っています。

まずは目の前にいる人が何を考えているのか想像する。そこから勝ちパターンや敗因するとしたらその要因を考える。敗因する要因は地道に一個一個潰していくので、量は莫大ですね。もちろん受注が決まった際にも、そこにある「私たちを選んでくれた理由」は、提案なのかコストなのか、他に違う理由はないかなど、アンテナを広げて全方位で考えていました。

営業にセオリーはなく、大事なのは自分の魅力と人間力を磨くこと

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——ではこれまでの失敗談について3つ教えてください。

はい。

1つ目は「絶対勝てるとのぞんだコンペで負ける」です。2つ目は「提供したサービスが止まり軟禁される」。これは前職でメールサービスを提供していた際に起こった騒動です。ある時、システムの不具合でサービスが数日間動かなくなってしまって。受発注システムをメールと紐付けていた会社が、受発注業務が止まってしまった。そこでクレームの嵐を味わいました。

補正ボード

3つ目は私自身の失敗談ではないのですが、すごくヒヤッとしたかつ、新たな発見があったことだったので書きました。

——なるほど、詳しく教えてもらってもいいですか?

会食中に私のある上司が寝てしまったという話です。その上司はたまたまなのではなくて、常習犯なのですが。

ある時、お店で接待をしていて、営業の話で盛り上がり、それなりに楽しく話をしていました。そこでちらっと横を見ると、その上司が眠っている。「え?」と驚きましたね。私が今まで勤めた会社で、顧客との会食の中で寝る人って見たことも聞いたことなかったので。お客様には「すいません、上司は平日忙しく、寝てしまったようです。申し訳ございません」と謝ったんです。

——はい。接待する側が寝てしまったら、お客様もお怒りになられるのでは。

そうなんですよ。けど、お客様の態度は想像と全く違くて。「感激しました。有名な方にこのようにお疲れのときまで時間を割いていただき、もう本当に感激しております」と言われたんです。

私なりにエンタープライズ営業をやってきて、例えば、提案内容に対しての知識、信頼や巻き込み力があれば営業ができるなど。「こうすれば正解だ」と持っていたいくつかのセオリーが、一瞬にして消えましたね。

——これまでの経験から培った杉本さん自身の“セオリー”が覆されたんですね。

そうですね。私は営業をするときに、セールスパーソンがどれほど面白いか、どれほど魅力的かどうかで成果が変わるか、極論では営業スキルがなくてもその人の魅力でお客様は話を聞きたくなるし会いたくなるし商品を買いたくなる、ということを認めたくなかったのかもしれないですね。

しかし上司のエピソードで、それが崩された。ものごとが意思決定されるのは、もっと原始的なものであるという事実を見ましたね。

——では、これらの失敗談から、何を学んだのでしょうか。

3番目のエピソードからは、成果を出す営業になるためには、自分の人間力や魅力を磨き続ける必要があると学びましたね。

逆にこうすれば取れるかもしれない、営業には何かセオリーがあるのではないか、と思ってるうちはまだまだ駄目かもなと。人の魅力“だけ”で受注できる案件が、世の中に往々にしてあると分かったので。

またそれ以外の失敗談からは、当たり前かもしれないですが、お客様の信頼度の重要性を学びました。1つ目では、結局は相手の信頼度で、勝ち負けが決まることが身にしみて分かったり。2つ目も、もちろんお客様には大変なご迷惑をおかけしましたが、最後までトラブルから逃げなかったことで、お客様の信頼を得て、その後に数十億の案件を受注したり。

信頼関係を育むことと、そのための人間力を磨くこと。営業をするにあたって、これらに時間をかけて取り組む必要がある。逆にこれらを大事に取り組んでいる人は、自ずと成果の出る営業になれるのではないでしょうか。

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ライター:フジカワハルカ

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