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宗谷本線で見たJR北海道の厳しい現実

仕事が激しく忙しくて、気づけば1ヶ月以上も記事を書いておりませんでして、久しぶりの投稿となります。

夏の宗谷本線へ

この夏、宗谷本線を訪れました。

感染者数が増える中、Go To トラベルキャンペーンが非難轟々の中始まり、このタイミングで旅行をするような人間はまるで非国民かのように言われる状況ではありますが、感染対策に気を付けて密にならぬように行動すれば、移動するだけで感染するわけではありませんから、私は勇気をもって出かけることにしました。飛行機もガラ空きであり、現地からはレンタカー移動ですので、東京に通勤するよりも遥かに密集する人の中に身を置くことはありませんでした。

行き先は、宗谷本線です。そこへ行きたかった理由はいくつかありますが、まずは以下の記事を見たからであります。

経営難に苦しむJR北海道は今、コスト削減の観点から、利用の少ない駅を次々に廃止し、または管理を費用面も含め自治体に委ねる施策を実施しています。そんな中、宗谷本線については13もの駅を来春廃止することが発表されました。廃止前にぜひ一度見ておきたい。せっかくだから、行ったことのない本土最北端・宗谷岬も見てみたい。そんな思いもあって、行ってみることにしたわけです。

しかし、いざ行こうと思うと大変です。何よりも、この壊滅的な航空需要激減の状況下、羽田から稚内空港への直行便は運休しています。一番近い空港は旭川空港ですが、そこから稚内へは270km近くあります。直線距離では東京から名古屋を通り越すくらいの距離、これは遠い。

JR北海道を支援する意味からすれば、旭川から宗谷本線に乗って移動することも考えましたが、この状況下でJR北海道も列車本数を削減しており、宗谷本線の特に名寄以北は極めて列車本数が少ないため、今回はレンタカー移動としました。代わりには全くなりませんが、ちょうど発売を開始した「北の大地の入場券」を随所で購入することにしました。

朝9時半にJAL便で旭川空港へ到着。そこからレンタカーで移動を開始し、初日は剣淵、士別、名寄、美深で「北の大地の入場券」を購入。その過程で、来春廃止予定の東六線、南美深、北星、紋穂内の各駅を巡りました。

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その後、一気に北上を開始。豊富町ではくっきりと見えた利尻山の向こうに夕陽が落ちるのを見て感動し、同じく廃止予定の抜海駅で夜の列車を撮った後、日本最北端の駅・稚内駅へとたどり着きました。宿泊はドーミーイン稚内。ドーミーインといえば夜9時から無料で楽しめる「夜鳴きそば」です。小ぶりな醤油ラーメンですが、今回も美味しくいただきました。

2日目は、朝方、利尻山をバックに数本列車を撮影して、ノシャップ岬、宗谷岬を訪れ、ついに本土最北端の地にたどり着きました。「北の大地の入場券」は、稚内、豊富、幌延、音威子府、比布、永山と購入。また、廃止予定駅の安牛と、廃止駅ではありませんが、秘境駅として名高い雄信内を訪問しました。

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夕方には旭川近郊へと戻り、北永山近辺で大雪山バックに列車を2本撮って旭川空港へと帰着しました。走行距離は750km。よく走ったドライブとなりました。

宗谷本線で見た厳しい現実

そんなわけで、廃止予定駅から「北の大地の入場券」の収集、ノシャップ岬に宗谷岬と、夏の宗谷本線沿線を満喫したわけですが、沿線を楽しめば楽しむほど、厳しい現実も見えてきました。

まずは何と言っても沿線人口の少なさです。宗谷本線は旭川から名寄までは比較的町もあるのですが、名寄以北は極端に人口が減ります。JR北海道も、名寄以北の通称宗谷北線は「単独では維持困難な線区」として掲げていますが、人口27,000人の名寄市を過ぎると、美深町(4,000人)、音威子府村(道内最少の700人)、中川町(1,400人)、幌延町(2,200人)、豊富町(3,800人)、そして稚内市(33,000人)ということで、名寄駅から稚内駅までの約180㎞で5万人もいないわけです。実際に訪れてみると、いわゆる町の中心駅周辺はそれなりにまとまった街になっていますが、それ以外の小駅では、付近に民家が見当たらないところも多数あります。徒歩圏と言われる徒歩10分圏内でも果たしてどれほどの民家がありましょうか。来春、13の駅が廃止となる予定ですが、将来的には各町の中心駅と、比較的まとまった集落がある佐久や問寒別、勇知、南稚内くらいしか残らないのではないかとさえ思います。

そして、私が列車での訪問を断念することになった原因でもある、列車本数の少なさ、公共交通機関の脆弱さもそうでしょう。現在、音威子府-幌延間を走る普通列車はわずかに3往復、幌延-稚内間も区間運転の列車が1本加わるだけの運転状況です。訪れたのはお盆明けとはいえ、夏休みシーズンの土日でしたが、乗っている方はほとんどが旅行者風で、地元利用はほとんど見られませんでした。学校が始まれば通学生も乗るのでしょうが、正直、これだけの利用客で、大量輸送を存立の基盤とする鉄道を維持するのは極めて厳しい環境にあると言わざるを得ません。

地元利用が厳しければ、あとは観光利用を促進するしかないわけですが、やはり稚内は遠いですし、高速化が行われていない宗谷北線の区間では、特急といえどもスピードを上げられずに時間がかかります。旭川からでも稚内までは3時間半を超える乗車時間です。また、せっかく駅に着いても、そこから接続する公共交通機関がありません。稚内ですら、宗谷岬へ行く路線バスはわずか1日4本。それ以外の小さな町ではなかなか観光資源も乏しく、観光利用といっても限界があります。昔であれば、樺太連絡の重要ルート、国土軸のひとつとして存在価値もあったのでしょうが、今のご時世ではそれもほとんど望めないでしょう。

そして、脅威となるのが高速道路です。新直轄方式になった後、高速道路は開通したら原則無料で通行できます。宗谷本線沿線でも名寄から美深、幌延から豊富と、部分的にバイパス道路が開通してきていますし、第一、北海道の国道は通行量が少ないので、地元民は常時100㎞近いスピードで飛ばしていますので、列車利用を考える必要はありません。

ところが、これは宗谷本線だけに留まりません。北海道の辺縁部に向かう路線は多かれ少なかれ同じような環境です。石北本線しかり、根室本線の釧路以東しかり。長大な無人地帯が続き、ふとオアシスのような小さな町が現れる、そんな繰り返しです。

そう考えると、JR北海道の今後の経営はやはり厳しいものがあるのだと思います。札幌都市圏でいかに黒字を稼ぎ、それで辺境を走る赤字路線をどう維持するかですが、残念ながら札幌都市圏でも除雪費用などを考えると鉄道単体では赤字ですから、後は周辺事業でいかに儲けて、鉄道全体を支えていくかということになります。それでも厳しいからこその経営安定基金を使って後は切り捨てるものは切り捨てながら何とか維持していくしかない。そうでないと札幌都市圏ですら鉄路を維持できなくなってしまう。誰かがJR北海道の経営は「あまりに無理ゲーである」と言っていましたが、まさにその通りだと思います。

現在、JR北海道や同じく経営難に苦しむJR四国、そしてJR貨物へは、「国鉄清算事業団債務等処理法」に基づく国からの支援が行われていますが、この法律の期限は今年度末です。支援の根拠規定をどうするのか、支援のスキームはどうなのか、それが地元自治体が望むものであるのか、いまだ新しいスキームは見えてきておりません。安倍政権が退陣し、新しい政権が立ち上がろうとしていますが、鉄道をはじめとする公共交通の在り方について、どのようにかじ取りをしていくのか、注目していきたいと思います。

(トップ写真は筆者撮影。2020年8月、宗谷本線智恵文駅にて)

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