『ロングソードの返済者』
「私、魔具にもならねえよね」「黙れ」
「あとどれだけ話せる?」「俺を泣かせるのはやめろ」
もうギュミとは喋れない。今や俺だけがお尋ね者だ。
この街だけじゃなく、トゥードラ大陸全体で。首、回る訳ねえ。
少し遡る。
取り立て人の俺たちは、政界のドン、かつての勇者の大豪邸を訪れた。
「借りたもんは返してもらうぞ」
プールサイドで侍女に囲まれ、肥えたそいつが怪神殺しの伝説の男。
「明日の地租で払うよ、待って」
「明日が良いなら今日でも変わらん」
「うるさい!誰に口を!」
雷撃、落ちぶれてはいたが強力だ。
氷撃。逆上なら、尚更だ。
火炎撃。ギュミが防いで俺が突撃。
懐に潜り込み、一発斬って長剣を鞘に納めた。
「…何故…」飛ぶ血と脂。「世代交代さ。長い休暇を渡してもいいとな」彼は倒れる。
侍女は一気に散り散りだ。他の主人を見つけるだろう。
家を漁る。「遺産からでも取り立てます」がウチの原則。まずは証拠を探す。あった。沢山の借用書だ。九割ウチのだが、ボロの一枚が気になった。誰からだ?
魔界王 ボル・シャックス・エルゼナルデ
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何だこれ。彼の借金は共和国の借りだ。なら20年前の和平遠征の真実じゃねえか。俺の国は魔王の奴隷だ。
「あー、コレ、ババ引いた?」
その時、屋敷はドス黒い爆炎で包まれた。冥府の雷雲と呼ばれる術。答え合わせが早過ぎる。
俺たちは逃げ続けた。砂風が強くなる。裏通りに入ってすぐ、酒場に着けないことを知る。
「何の用だ」
道を塞ぐはかの『覇斧』。大男。寡黙に得物を一振り。ギュミは真二つ。
……少し彼女と話せたが、死んだ。
そして今。
血と砂塵の臭いが沁みる。悲しいから?違う。
マジで、武者震いからだ。
「お前…敵」奴は言う。
俺は、世界に借りを作った。相棒の分も。
覇斧に復讐したとして、次は『黄金指』『剛腕』『逃げ足』『クソエルフ』……勿論俺は無名。どうする。
しかもコレ、魔王を殺してようやくチャラだ。
剣を握る。
【続く】
コインいっこいれる