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130話 ファミリー帰還

向人(むこうびと)のブースでドミノ達は初代向人の扉を目にした。その古く錆びつき開く事のない扉は、ドミノの持つ鈴に反応しチリンと鳴らせばチリンとなり返す不思議な扉だった。その側で、向人の扉を通り夢を解体しに出ていたファミリー達が戻ってきた。

※ ※ ※

ファミリーの中に1人年老いた姿の天火(てんび)はとても目立っていた。しかし、その立ち振る舞いに無駄はなく、共に行動していた仲間達を気遣う余裕さえ見て取れた。

「やあ」

天火はドミノ達に気がつくと片手を上げて笑顔で近づいてきた。ドミノもシイナも、昨日の天火とは違い、どこか緊張した顔色でやってくるご隠居に顔を見合わせた。

「こんにちは」

天火の声は変わらず優しかった。しかしやはり疲れている様にも感じる。

「どうか、されたんですか?」

ドミノは思わず声をかけた。
天火は眉を上げて、いやいや…と笑って頭を抱えた。

「少し夢にムラがありましてね。少し酔ったのかもしれませんね」

そう言って共に戻ってきた集団に目を向けた。

集団の中には1人青年が立っておりその青年と楽しそうに話す女性の姿があった。
先程までベッドで眠っていた、扉の持ち主の女性だった。2人はまるで恋人の様に楽しそうに話している。その姿を見てシゲルが近づいてきた。

「やはり、愛の扉はまだ使えそうにないですか」

「気持ちが安定するに時間と経験が必要です。彼女はまだ若い。それに今日は連れて来た相手が悪かったかもしれませんね」

愛という名の向人はブースに入りまだ日が浅いという事だった。

こちら側と夢を繋ぐ扉が閉鎖された今、向こう人の夢だけがこちら側と夢を繋ぐ接点になる。つまり、夢とは風船の様に空気で膨らむと夢主を離れ闇を漂うのだ。

夢主は夢の中で過ごし、目を覚ます時はまた扉へと戻ってくる。
先程のブースに響いた衝撃は、夢が扉と繋がった音だとシゲルは説明した。

「もう少し安定した者の方がいいですね。なるべく大勢が入っても揺れないほどの夢を用意しなければ」

天火の言葉はシゲルにどう伝わったのだろうか。一瞬シゲルの表情が曇ったが口にはしなかった。

「ドミノ達もここで眠る迷い人の夢からカケラを採取するといい。今朝護衛を遣わしたがまだ会ってはいないかね?」

「いえ、護衛ならあちらに……あれ?」

ドミノは今まで壁で直立していた明に目を向けたが彼女の姿はそこには無かった。

「あ、あっちあっち」

シイナが困惑した顔でドミノの袖をひっぱり、指さした。

「あ」

一同の声が重なった。
明が見た事もない表情でファミリーの青年と愛に向かって一直線に近づいていたからだ。

次になにが起こるのか、ドミノとシイナは肝を冷やして見守るしかなかった。

つづく

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