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139話 話す者

新人墓守のド厶と、王達の墓で出会った少女・あーちゃんは小屋の前でお茶会が開かれた形跡を見つけた。誰かを待っていたのか、それとも見送った後なのか…。不思議な感覚に包まれるドムだったが、それはすぐに恐怖へと変化した。ドム達の他に、足音の無い者が小屋へと近づいていたのだ。

※ ※ ※

足音のないその影は小屋の前まで来ると、その動きを止めた。
微動だにしないその様子は不気味で、ドムと少女は息を止め影が去っていくのを静かに待った。

ドムと少女は目が痛くなる程強くつぶり、自分の存在を消していた。

カサ、カサカサ__

何かが動く音が小さく耳奥の鼓膜を振動させる。

カサカサ__

その音が2つになった。あれ? とドムは目を薄く開くと黄色い光が目の前から遠のいて行くのが見えた。
ぼやけた視界がだんだんとそれをとらていくと、ドムは背筋が凍りついた。

「ミィ! チィ!」

ドムは小声で黄色い光に包まれた星の子・ミィとチィに声をかけた。
慌てて手を伸ばしたが、届かない所まで離れてしまっていた。

「ここでじっとしてて、いい?」

ドムは少女に声をかけると、手足を地面に付けたまま姿勢を低くしミィとチィの救出へと乗り出した。
静かに手を伸ばすが、星の子達はドンドンと離れていく。

「もう少し……」

その時、黒い影が話し始めた。
ドムはとっさに手を引っ込め少女の待つ小屋の隅へと逃げ戻った。

「おや、これは星の子か。人に馴れておるな。どれ、こちらに」

黒い影はしゃがみ込むとミィとチィの前に手を出した。
星の子達は黒い影の手に喜んで飛び乗り、mmm…やpp!と鼻先で鳴いた。

「どれ、こっちで私とお茶でもどうかね」

黒い影は、埃の溜まったテーブルへと移動しその引き出したままの木の椅子に腰掛けた。

キィと椅子が軋む音が静かな空間に広がった。

「久々だが、ここも随分変わってしまったな。しかし、誰もいないとは驚いた。さてさて、眠る者がいないという事は起きている者がおる筈だ。どうかね? そこで隠れているのは窮屈だろう?」

ドムの心臓が跳ね上がった。黒い影はドム達の存在が分かっている。一体何者なのか。

「私は怪しい者ではないよ。さあ、こっちへ来て一緒にお茶でも」

喋る黒い影は、ミィとチィにフーと優しく息をかけた。
すると2匹の輝きは増し、まるでランプの様にその場を明るく照らしだした。

優しい光の中に見えた姿は、白い髭を生やし、色褪せた赤いローブを纏った老人だった。
その頭には王冠が輝いているのが見えた。

つづく

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