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254話 思い出の場所

1人夢に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っている。一方黒の城でコリーとサンディは、黒の女王の体で目覚めた夢歩きのドナの話から「夢の入り口」へのヒントを見つけようとしていた。


※ ※ ※


黒の王・シーカが画家になりたい夢を密かに抱いていた子供時代、毎日が舞踏会だった。
しかし、そこに華やかさはなく誰もが黒い服を身にまとい列をなす。それが黒の国の正装なのだ。皆、広げた扇の内側で小声で話す。落ち着いた交流と言われればそうだが、それはまるで葬儀の様な雰囲気だった。

大人たちに連れられて皇子や姫もやってくる。
しかしどの笑顔もまだ皇子であった幼い黒の王・シーカは作り物のように見えていた。

「どれも嘘っこだ」

そう呟いて、大人たちの足をくぐり抜けると談笑する大人が群がる庭を横切り寂れた歩道へとでた。寂れたと言っても、城の敷地内。人目に付く面だけを整え裏方はいつもこの様な有り様だった。

人気のない歩道を進むと、それは秘密の場所へと繋がっている。そこは随分昔から放置されている「井戸」だった。
昔、他国が攻め入って来た時に被害を受けたという崩れた壁は茨の蔦で覆われていた。危ないと言われ近づく事を禁止されていたが、黒の城内にはそんな場所ばかりだった。

いつものように、持ち歩く本を開きポケットから鉛のペンを取りして絵を描こうと構えた。シーカは小さなため息をついた。絵を描くのはいつも決まって本の余白だった。

「もう描くスペースがないや」

持ち出しが許可されている本はすでに描いた絵でいっぱいになっていた。
ぼんやりと井戸にもたれかかり崩れた壁を見る。冷たい風が吹きふと、滑らかなその壁肌が見えた。
シーカは小さな手で、茨の蔓を引っ張り剥がすとそこに大きなキャンバスを見つけた。

「いい物みーつけた!」

胸が躍り、鉛のペンで早速線を一本引いてみた。
かつてはタイルの様に滑らかだった壁肌はすっかり脆くなりレンガの様に風化してしまっている。返ってそれがよかった。

シーカは夢中で大きな壁に絵を描いた。全身を使い、足場の悪い瓦礫の山をも華麗に飛び越え大きな宇宙船の絵を描いた。
昨晩、本で読んだ物語に出てきた物だ。

そこへ小さな足音が近づいてきて、シーカの秘密の場所へと飛び込んできた。
小さな少女だった。
目と目が合い、2人の時間が止まる。

黒いレースのスカートに身を纏い、綺麗に結われた髪の毛には何故か食事会で出されるスパゲッティが絡まっていた。
そんな事よりシーカが驚いたのは、その少女が泣いていたという事だった。

これが黒の王・シーカと黒の女王・シャムとの出会いである。

全ては黒の城内にひっそりとあった秘密の場所から始まった。

__________

「「夢の入り口」はおそらくその井戸でしょう」

コリーの言葉に黒の王・シーカは我に返った。
目の前にいる黒の女王の笑顔が、あの頃過ごした無邪気なシャムの笑顔と重なった。
全てが作り物の様に感じていた黒の城の中で、彼女の涙と笑顔だけは黒の王にとっては本物だったのを思い出した。


つづく

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