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96話 夢の亀裂

コントラのドミノとシイナは、夢の集まる8の巣フロアの中心で運び屋・アネモネと出会った。アネモネが言うには、施錠された夢へ続く扉を移動する為に一族全員が集まったとの事だった。

※ ※ ※

アネモネは、順番に兄弟や親戚の紹介をした。

「1番上の兄貴のラナン。で、下の弟のリーヤ、妹のリリー、末の弟のデルフィ」

アネモネは自分は5人兄弟だと説明を加えて、デルフィの側に立つ他の者達の紹介もすすめていった。

「従兄弟の妹リーサン。で、その上の兄にリィブとエイブ。2人は双子ね」

次々と紹介されたドミのとシイナは、並ぶ運び屋を眺めて共に同じことを考えていた。シイナはアネモネがまだ続く親族紹介を横目に、ドミノに小声で声をかけた。

「み、皆んな似てますね……」

「私もそう思います」

そう、運び屋は共通して男女とも髪を縛り、その顔付きもどこかしら似ていた。

「これで全員かな?」

ようやくアネモネの紹介が終わりドミノ達は慌てて姿勢を正すと頭を下げて挨拶をした。

「おい! 運び屋はまだか!?」

どこからか、ファミリーが運び屋を探す声が飛ぶ。
どうぞよろしく、と、一同ドミノ達に笑顔を向けて足早にファミリーの元へと移動していった。

「ファミリーも気が立ってるから仕方ないね」

アネモネはそんな兄弟、親族を腰に手を当てて見つめた。

「アネモネは行かなくても大丈夫なのですか?」

「ん? 私? 私はもっと大切な任務を任されてるの」

そう言って、ドミノ達の方へ体を向けると絨毯を担ぎ直して笑顔になった。

「さ、行きましょ」

「え?」

「私はドミノ達を『向人の屋敷』へ案内する様に言われてるの。ラルーはもう先に行ってるみたいだから詳しい話はそこで聞いてちょうだい」

そういうとフロアに背を向けて外へと向かった。

「夢に亀裂が入ったんじゃ、ドミノ達ををここで働かせられないってさ。何だってコントラ様だからね」

アネモネは振り返り、ガラス窓の亀裂を指さした。弱い風が吹く。その風がフロア全体を包みハンマーが突き刺さるガラス窓へと当たって消えた。本当に弱い風だった。しかし、その弱い風の衝撃でさえヒビの亀裂は小さな音を立てて、また長く伸びた。

「悪夢だね。ほんと、面(つら)って奴は厄介なことばかり起こしてく」

アネモネの言葉にドミノとシイナは言葉を発する事なく互いの顔を見た。

「面が、やったのですか? あれを?」

「あれ? 話聞いてない? 面の伸びた腕をハンマーが追い払おうとしたら逆に帰り撃ちにあってああなったって。巨大な上にすばしっこいんだって? 怖い怖い」

シイナは顔を伏せてアネモネの言葉を聞いた。
あのハンマーの突き刺さった本当の理由は見た者だけの秘密になってしまったようだ。

シイナはアネモネの「悪夢だね」、という言葉が頭から離れなくなった。
この世界に不安を作り出したのは自分だ。夢に亀裂を作ってしまった事の重大さに気がつくと震えが止まらなくなった。

俯くシイナに気がついたドミノは、そのきつく握りしめた拳に手を添えた。ドミノの手の温かさがさらにシイナの胸を締め付けた。

つづく

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