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32話 ファミリーの火影

世界は夢でできている。
その夢には「悪夢」となる「歪んだ風」が吹いており、それを除去するために王達は分身となる「面」(つら)と一緒に夢へと入っていた。

しかし、裏切りによって面達は夢を傷つける存在となってしまった。

王達は皆んなの夢を守るため、自分たちの子孫にそれぞれの役目をたくし眠りについた。

その王達の墓を守る第72代目の墓守ドムは今、元墓守である兄・ドミノと共に賑やかな露店(ストア)の中道を歩いていた。

運び屋のアネモネとラルーは、少し用事があると言って別行動をする事になった。

「迷子になっちゃ、だめだよ!」

アネモネの言葉に元気良く返事をするドムだったが、心はすでに露店に向いている。

「兄さん、あれ、何かな?」

ドムの指差す先の露店には何処かの屋敷がごっそりと引っ越して来たのかと思われるほど家財が一式並んでいた。

どれも年季が入っているように見え、古い振り子時計は今も変わらず時を刻んでいる。

その奥には手染めの布が並べられ、どれも鮮やかな色を発していた。
ドムは露店に近づきその布に見惚れた。

「お客さん、お目が高い!」

愛想笑いの店主が、ドムに両手を擦りながら近づいてきた。

「綺麗な布だね」
「あれは『キモノ』って言うらしいです。女性のお召し物でこう、腰に太い布を巻いて着るそうですよ」
「へぇ。男の人も着るの?」
「いやいや、女性だけです。男性はこっちの物が主流らしいですよ」

そう言って露店の店主は奥から紺色の羽織を持ってきた。

「最近よく流れてくる『ニホン』っていう夢から回収した物だそうです」
「ニホン? 変な夢の名前」
「違いますよ、お客さん。ニホンっていう国がどっかにあるらしいんですよ」
「どっかって?」
「さぁ、あっしはそこまでは。あ、この食器など今朝ファミリーが夢から回収し採りたてほやほやですよ?何でも50年ものの古い夢だったとか」
「50年?」
「ずっと誰にも見つけれる事なく漂ってたって話です」

混乱するドムに店主は手応えを感じなかったのか、他の客へ愛想を振りまきに行った。

ドムは目の前の古いお皿を手に裏を見た。
少しスス汚れた皿底を服でこすると、綺麗な赤色の陶器が見えてきた。

「どれか気になるもの、ありますか?」

ドミノがドムの横に立ち、物珍しそうに露店を覗き込んだ。

「兄さん、ニホンってどこにあるの?」
「はい?」

ドミノはドムの急な質問に首を傾げた。

「これ、全部、ニホンっていう夢から回収したんだって」
「あぁ、向う側の事ですね」
「向う側?」
「ここじゃない向う側の事です。私も詳しくは分かりませんが、第4の王が去ったのが向う側という話を聞いたことがあります」
「向こう側は全部ニホンって所なの?」

「いや、それは違うぞ」

店の奥から火影顔を出した。
ついさっきまで、ドミノ達と同じ世界の中心にいた火影は第2の王のカル(後継者)。
役目は夢の壊人、一族で働く為ファミリーと呼ばれる存在だった。

「よう、墓守の兄弟。兄のドミノよ。もう体は平気なのか?」

火影は大きな布製のソファーを露店の横に乱暴に置くと、汚れた両手をパン!っとはたき腰に手をかけた。
手から黒い粉が煙のようにして舞い上がった。

「火影さん。この度はありがとうございました」

ドミノは火影に近づき深々と頭を下げた。

「ハハハ! いいって事よ。それより、弟のドムは向こう側に興味があるか?」

大きな声で笑う火影は、どこか父ドウカの面影を思わせる。
年が近いせいでもあるだろう。
腕っ節の強さは村一番のドウカだか、火影には敵わないだろうな、とドムは思った。

「火影様! こちらはどうしますか?」

声をかけに来た他のファミリー達は皆、黒くスス汚れていた。

「あぁ、こっちだ! 今日はこれで上がれ! また明日リストに上がってるの片っ端からぶっ壊すから、担当決めとけよ!」

火影の周りに集まる一団は、皆疲れ切った顔をしていた。
小さくウィスっという声が聞こえたかと思うとと綺麗に一列に並んだ。
ドミノとドムは一体何が始まるのか……と思った途端、

「お疲れ様っした!」

と大声で叫び、壊し屋ファミリーの一団は蜘蛛の子を散らすようにその場から居なくなった。

「ちゃんと風呂入れよ!」

火影の言葉は乱暴だが、どこか温もりがあった。

「すまねぇな。あいつら、昨日から働きっぱなしで。で、何だっけ? 」

ボサボサの頭をかきながら火影はとぼけた顔をする。

火影の背中から黒トカゲの「リズ」が顔を出し、大きな欠伸をしたのをドミノとドムはあっけにとられたまま見つめていた。

つづく

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