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264話 セシルの兄弟

夢の中に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っていた。一方ドムの兄・ドミノも黒の国へ訪れたのには意味があった。ドミノ、シイナ、そして護衛の明(あかり)は夢の中で集めた夢のカケラにあった鍵穴に合う鍵を求めて黒の国の「鍵屋」の屋敷を訪ねていた。


※ ※ ※

静けさと同時に寒気が部屋を包み込んでいった。

「ひ、冷えてきましたね。い、今暖房を」

そう言ってシイナは慣れた様子で部屋を出ていった。
この屋敷の使用人として生活してきたシイナはここの全てを知っている。

ドミノはもう一度壁に広がる「鍵屋」の家系図を見上げた。
幽霊みたい……と言われたセシルの祖父はその消えそうな表情からゆうに100歳は超えていそうな風貌だった。

「ねぇ、この人って」

そう言って明は家系図の末端にいるセシルのそばにあった台の裏を覗き込んだ。
よいしょ、と台をずらすとそこにはもう1人セシルとは違う人物の顔と名前が記されていた。セシルによく似た少年だった。

「ひどいね、こんな台なんか置いて。これじゃまるで隠しているみたいじゃん」

明は煤で汚れたその少年の顔を両手で擦って綺麗にした。

「SAKU……サク」

「そ、そちらはサク様です。お、お嬢様のお兄様」

いつの間にか戻っていたシイナがドミノ達の話に入ってきた。
手には簡易的な小さな火鉢を抱えていた。

「む、昔はとても仲の良いご兄弟だったんです。わ、私もよく一緒に遊んでもらいました」

「昔? 昔の話なの?」

明の問いかけにシイナは何も答えず、火鉢を机上にへと置いた。

「こ、この家を捨て、駆け落ちしてしまったんです」

「そりゃ、大胆な」

「だ、だから、セシルお嬢様がこの家を継ぐという話になってしまって」

「SIの名前を捨てるほどの恋だったとか?」

明は少し面白く話を広げたかったが、そういう雰囲気にはならなかった。

「さっき話した婚姻関係とは、お兄様の席を守る為なのでは?」

シイナはドミノの問いかけに目を伏せ火鉢の中の隅を長い鉄箸で突いて整えていた。

とてもワガママで傲慢なお嬢様の影にはとても複雑な環境が見え隠れしている。
あの鋭い言葉の数々も自分を守るためのものなのではとドミノは思い、壁一面の家系図に視線を戻した。


つづく

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