102話 夢の名残り
向人(むこうびと)の屋敷をシゲルに案内されているドミノとシイナ。廊下の途中、迷い込んだ向人は向人の夢でしか戻れないという話に、ドミノは興味を抱いた。そして、シゲルの1つしかない夢には、かつての双子星がまだ存在している事を知り心底驚いた。
※ ※ ※
シイナとシゲルは、険しいドミノの顔を見つめていた。
「ど、どうかしましたか?」
シイナは恐る恐る声をかけた。ドミノは頭を抱えてもしかすると、と話しはじめた。
「もしかすると、シゲルさん達が夢を1つしか持てない理由が分かったかもしれません」
「え?」
シイナよりも、シゲルの方が驚いた。
「おそらく、シゲルさん達の夢はかつて迷い込まれた向こう人の夢の記憶なんです」
「記憶?」
「私達の夢には双子星という、扉を示す星が誰の夢にもあったと聞いています。しかし、その星を盗んだ者がいた」
「そ、その話って……」
シイナは、守護柱・リスのラルーが話してくれたあの日の夜を思い出した。夢は夜空に輝く星の数ほどあると知ったあの日の夜を。
「昔は皆、同じ夢を見ていた時代があったと伝えられています。その皆んなとは私達だけではなく、向人も含まれていたのではないでしょうか」
シゲルは真剣にドミノの話に耳を傾ける。
「王達が神を裏切り、皆んな一緒に見ていた夢は個人の夢になってしまった。それも、毎日違う夢を」
「では、私達の夢が一つと言うのは……」
「元の世界の名残かと……」
シゲルとシイナは言葉を失った。
シゲルが細くて弱いため息を吐いた。
「では、私達が他の夢を見る希望は薄いという事ですね」
シゲルは、夜空になりかけの茜色の空を見上げ寂しい目をした。
かつての夢の名残は向人の中で変わらず今も続いている。それは様々な夢を見たいと憧れる者にとってはとても残酷なものだった。
つづく
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