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262話 片鍵屋と鍵屋

夢の中に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っていた。一方ドムの兄・ドミノも黒の国へ訪れたのには意味があった。集めた夢のカケラの1つに鍵穴があるものがあったのだ。その秘密を探るべく黒の国に住む「鍵屋」を訪ねてやっきた。


※ ※ ※

部屋に取り残されたドミノ達は互いに顔を見合わせて同じ表情をしていた。
困惑のその顔は天井を仰ぎ見るとそのまま床へと落ちていった。

「ど、どうしましょうか」

シイナはセシルがこの部屋から逃げるように出て行ったのは自分のせいだと思っていた。これまでも彼女の不機嫌の原因はたいてい自分にあった。

「鍵屋には職人が何人いるのですか?」

ドミノ達はセシルの行動にどの様な意味があるのか気にしていなかった。
いつのも様にワガママで身勝手な振る舞いの一つだと感じていた。

大きなテーブルに並べられた椅子に近づくと適当に引き、ドミノはそこに腰を下ろした。

「当主様とお嬢様を含めて全員で5人です」

「あの子も職人なんだ。若いのに。珍しいね」

明もドミノと少し距離をとり、テーブルに寄りかかった。

「は、はい。し、職人は2人で1つの鍵を作ります。鍵と鍵穴を別々の職人が作るんです。その2つが合致するものを作れて初めて鍵屋と言えるんです」

「へぇ」

ドミノと明の声が重なった。

「せ、正確には本来『片鍵屋』と呼ばれていました。代々鍵なら鍵だけ。鍵穴なら鍵穴のみを作る家系だったんです。し、しかし、お嬢様が両方を作れる様に努力されて黒の国で初めて本当の『鍵屋』と名乗れるようになったんです」

「すごい子なんだね、あの子」

「そ、そうなんです! お嬢様はすごいんです!」

シイナはセシルの事を褒められ自分の事のように喜んだ。

明は部屋を飛び出て行った彼女を思い出していた。
掴んで支えたあの手は、ゴツゴツと豆だらけ、治りきらない傷口がいくつもあった。

「そうか、違和感はこれか」

明は彼女の苦労を傷だらけの手から予想した。

「そもそも、何で両方作ろうと思ったのでしょうか」

ドミノはふと疑問に思った事を口にした。

「そ、それは…片鍵屋の婚姻関係にあるんです」

そう言ってシイナは静かに口を閉ざした。
そこには様々な鍵を代々作ってきた者達の古い考えが受け継がれていた。

つづく

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